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第二章 愛娘との幸せな生活を邪魔することは許しません

オードリーは絶望しました

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その日の昼間もオードリーは侍女を連れて裏庭を散策していた。ここは王宮の中では人が少ないのだ。ここなら前回のように王妃たちに会うことはないだろうそう思っていた。

しかし、人が少ないと思って歩いているのはオードリーだけではなかった。

ポーリーナ・スコーンはムカムカしながら裏庭を歩いていた。
最近は国王にも相手にされないし、夫は国王とのことを知ったのか最近は全く無視されていた。誰のために、躰を開いたと思っているのだ。王弟が反逆した時、スコーン伯爵家は国王の重臣だった。このままでは処刑か追放は確実だった。
それを防ぐために、国王にすがりついたのだ。

その自分に対する夫の態度、あれは何だ。ポーリーナは夫が許せなかった。自分もあんな中年の欲望にまみれた国王などに抱かれたくはなかった。止むを得なかったのだ。スコーン伯爵家を存続させるために。

ポーリーナはむしゃくしゃしていた。そして、その先に寵姫のオードリーを見つけた。
本来は同じような境遇の女のはずだった。お互いに慰めあってしかるべきかもしれなかった。しかし、ポーリーナは優遇されているオードリーが許せなかった。

「これはこれは国王陛下の寵愛深いオードリー様ではありませんか」
オードリーは嫌なヤツに会ったと思った。しかも、今日は普段と違ってやけに丁寧だ。いつもは絶対に様など付けないのに。絶対に何か良からぬことを企んでいるのだ。オードリーは逃げ出したくなった。

「これはスコーン伯爵夫人。このような所でいかがされたのですか」
当たり障りない挨拶をする。

「あなた様に大変な情報をお持ちしましたの。アルヴィン様が実は生きているという噂を」
ポーリーナはオードリーに爆弾を落とした。

「えっ、そんな訳ありません。だってアルヴィン様は・・・・」
真っ青になってオードリーは言った。絶対に嫌だというのをお腹の子供を助けたければ隣りにいるようにとキャメロンに言われて、キャメロンの隣でアルヴインの処刑の現場を見させられたのだ。オードリーは振り上げられた刀を見て気絶したのだが・・・・・

「そう、確かにアルヴィン様は処刑されたわ。でも、黄泉の国から生き返ったという噂よ」
「そんな馬鹿な」
オードリーには信じられなかった。

「そうね。アルヴィン様を裏切ったあなたには信じたくない情報でしょうよ。自分の命乞いのためにアルヴィン様を誘き出して処刑させたあなたにはね」
「そんな事していないわ」
オードリーは叫んだ。

「はんっ、何言っているのよ。実際そうだったじゃない」
「そうなるなんて思っていなかったわ」
「じゃあどう思っていたのよ。あなたが磔にされて出てこなかったら殺すって言われてアルヴィン様が逃げられると思っていたの」
「・・・・」

ポーリーナの言葉にオードリーは絶句した。確かにそうだ。処刑場に磔にされてアルヴインを招き寄せたのは事実だ。

「じゃあどうすれば良かったの。お腹に子供もいたし、どうしようもなかったわ」
オードリーが反論する。

「さあ、そこは知らないわ。ただ、アルヴィン様を裏切ったのは事実でしょ?」
「・・・・」
確かにそうかもしれない。アルヴィンは処刑されたのに、オードリーはお腹のアルヴィンとの子供は流産させてしまったし、絶望のあまり何も考えられなくなった時に、キャメロンの子供を身籠って産んでいた。今はその子供のために生きているのだ。アルヴィンからしたら裏切り以外の何物でもないだろう。

その悩んだ姿をみてポーリーナはほくそ笑んだ。

「アルヴィン様が生き返ったなんて、最初は私も信じられなかったわ。でもね、ダレル王国を殲滅したシャラとか言う者の村で、確かにアルヴィン様を見たという者がいるのよ」
「そんなの嘘よ」
「でも、みんな噂しているわ。後ろの侍女にも聞いてみなさいよ」
ポーリーナの言葉に後ろの侍女を見る。

「噂になっているの」
「えっ、いえ、少しは・・・・・」
「そんなの噂に違いないじゃない。死んだ方が生き返るなんてありえないわ」
「そうよね。でも、アルヴィン王子はあなた方を恨んでいるんじゃなくて。仕返しするために生き返ったのよ」
可笑しそうにポーリーナは言った。

「そんなわけ無いわ。生き返れるなんて」
「ちょっと待ちなさいよ」
混乱したオードリーはポーリーナの言葉を無視して慌ててその場を駆け去った。


アルヴィン様が生きている・・・・
そんな事はあり得なかった。たしかにあの場で処刑されたはずだ。
自分はお腹の子供を守るために、愛するアルヴィンの前でキャメロンに抱かれたのだ。
それもアルヴィンにお腹の子供のために生きて欲しいと頼まれたからだ。
でも、本来はその時に一緒に死ねば良かったんだ。そうしたらこんなに苦しむことはなかったのに。自分の息子のために生きようとしていたオードリーの心は大いに揺さぶられた。


部屋に帰るなり、絶望のあまりオードリーはベッドに倒れ込んだ。
そして、涙の枯れるまで泣き尽くした。
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