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第一章 娘が生贄にされるのを助けるために地獄から脱獄します

大賢者は国を見捨てることにしましたが、娘だけは助けようと思いました

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「始祖は儂にはっきりとおっしゃられたのじゃ。国のために命を張ってくれる者との今際の際の約束は、たとえ国がそれで滅んだとしても絶対に破ってはならんと。もしそのような愚かなことをする子孫がいた場合は余に成り代わって成敗してほしいとな」
ジャルカは杖を握って言い切った。返答次第ではそのまま成敗しそうな勢いで。

周りの者は震え上がった。

「だ、大賢者様。そこは何卒穏便に済ませていただくわけには参りますまいか」
必死にブリエントが叫ぶ。

「何をふざけたことを申しておる。貴様それでも法の番人か。法にはなんと書かれておる」
「はい。死にゆく者との約定を破棄せし国王はこれを廃すと」
その言葉に全員唖然とした。王を廃す。すなわち国王を首にするということだ。そして、皇太子も自らの契約を破棄したのだ。その法に従えば許されるわけはなかろう。国の2トップがその瞬間に罷免となるということなど今までダレル王国では無かった。

国王には他に子供はいず、兄弟もおらず、その前となるとだいぶ遠い親戚になってすぐには国王は決まらないだろう。このマーマ王国との戦になろうとしているこの時にやっていて良いことではなかった。

「直ちにもとに戻せ」
ジャルカはこの混乱を唯一収める手段を提示した。

「しかし、それは・・・」
ブリエントは絶句していた。

「すぐに戻せば無かったことにしよう」
ジャルカとしては寛大な措置をとっているつもりだった。

「しかし、もう無理だと思われます。クローディア様は生贄としてタダレル渓谷に既に送られておりまする」
「な、何じゃと」
ブリエントの言葉にジャルカは驚いた。

「き、貴様、そのような重大事を儂にも知らせず」
「も、申し訳ありません。国王陛下が知らせるに及ばずとおっしゃられ」
必死に言い募るブリエントをもうジャルカは見ていなかった。

「始祖は国を滅ぼせとおっしゃるのか」
天を向いてジャルカは嘆いた。

その言葉に周りの者はぎょっとした。

ジャルカの魔力の大きさは大きく、噂に聞く伝説の大賢者は1撃で魔の者の住む森を殲滅させたと言われている。この王宮など一瞬で破壊されつくされるだろう。

周りの動揺をジャルカは全く見ていなかった。始祖と作ったこの国も300年。ジャルかとしてはよくここまで付き合ってやったほうだった。始祖は本当に良いやつだった。民のためになると思えばこそ、今まで付き合っていたのだ。でも今回のことはジャルカにはもう許せなかった。

「ジャルカ様。何卒この国をお救い下さい」
ブリエントは頭を地面に擦り付けて頼んでいた。

「儂が出来る事はもう無い」
ジャルカは冷たく頭を振って言った。もう付き合うつもりはなかった。後は好きにすればよかろう。

しかし、シャラとの約束だけは守らねばなるまい。
ジャルカは杖を一閃させるとクローディアのいるであろうタダレル渓谷へ転移して行った。

その後には呆然とそれを見送ったブリエントラが残された。


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