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帝国皇子のほっぺたを引っ叩いていました

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私たちは戦も終わったので、お兄様と第一騎士団、それと新たについた1万人を残して取り敢えずハインツェルに帰還するように命じられた。
私は約束通り、いろんな店にフェルに連れて行ってもらえる前の帰還命令にご機嫌斜めだった。

フェルはあれから何故かすごく落ち込んでいて、私にはよく判らなかった。

そんな私をビアンカは残念な物を見るように見てくるし、お姉様はお姉様で、もう少しフェルの気持ちを考えてやらないとと延々と説教を食らう羽目になった。

うーん、よく判らん。

そうかと言ってフェルの気持ちがどんなんだとははっきりと二人共言ってくれないのだ。

「それは私の口からは、言えないわよ」
お姉様はそれしか言わないし、その上言うだけ言うとさっさと転移で帰って行った。

「普通見ていらっしゃれば気づきますよ。本当に姫様は鈍いんですね」
とビアンカにバカにされるし最悪だ。

フェルと話そうにも何故かフェルに避けられているし、どうすればいいの?。


帰りの行程は制圧されたあとでもあり、順調だった。

ハインツェルの城門では多くの人の出迎えがあった。ここで兵士たちは取り敢えず解散だ。家族達が迎えに来ているのだ。

そして、私は
「フェル!」
そう言って喜んで駆けていく、女の人が目に入った。
その人はフェルの胸に飛び込んでいったのだ。

「ヘレナ!」
なんとフェルはその子を抱きしめたのだった。
金髪碧眼のその子は私と違って胸までデカかった。
私は驚きで固まってしまった。フェルに女の子が抱きついた・・・・。それを邪険にするでもなくて、あのフェルが抱きしめた・・・・。私の頭はパニックになっていた。

「どうしたんだ。こんなところまで」
フェルが驚いて聞いていた。

「だって、あなたが戦場に行ったと聞いて驚いて飛んできたのよ。心配で心配で」
「いや、戦闘といっても殆どなかったし、お前を心配させることもないかと」
「何言っているのよ。叔母様もとても心配していらっしゃったわよ」
二人はとても親しそうだ。

「ああ、エル、こちら俺の母方のいとこでへレナ・ホルスト公爵令嬢だ。俺の幼なじみなんだ。ヘレナ、こちらはエルヴィーラ・ハインツェル。ハインツェル王国の第二王女だ」
「えっ、ハインツェル辺境伯じゃなくて?」
その女の言葉に私はピキッと来た。

「オーバードルフ王国は、ハインツェル王国に成り代わったんです」
「そうなんだ。反逆が成功したんだ」
「反逆?」
私の怒りの視線に
「あーらごめんなさい。外からはそう見えたもので」
そう言いながらその女はフェルの腕に大きな胸を押し付けている。

「ヘレナです。今までフェルがお世話になりました」
女が手を出してきた。にこやかに笑っているが目が笑っていない。
「エルヴィーラです。こちらこそ。フェルには大変助けてもらいました」
私はその手を握った。何かめちゃくちゃ気分が悪いんだけど、何だろう。

「では私は報告がありますので」
そう言うと二人をおいて歩き出した。

「ヒェぇぇぇ、何か女の戦いが・・・・」
ヘルマンが叫んでいるのが少し聞こえたが、私は無視した。
でも、その横を通りざまに弁慶の泣き所を蹴り上げてやった。

「ギャ」
ヘルマンが飛び上がって叫んでいたがいらないことを言うから悪い。

私は怒りに満ちてどんどん城の中に入っていく。

な、何なのだ。この嫌な気分は。豊満な胸の美女に抱きつかれてニヤつくフェルの顔がよぎる。
「ふんっ、フェルも胸の大きな女が良いのね」
ムカムカした私は思いっきり剣で地面を貫いていた。

バキン。
凄まじい音がして、剣が鞘ごと地面を貫く。ヒビが床に這う。

「ヒェぇぇぇ」
周りを歩いていた兵士たちが飛び退った。

「だ、大理石の床に穴が・・・・・」
後ろで声が聞こえるが無視して歩く。


「エル。良く無事で帰ってきたな」
「おかえり。エル」
両親は諸手を挙げて歓迎してくれた。

普段ならばもっと二人といろいろ話すところなんだけど、今はそんな気分ではなかった。
何かムカムカする私は報告を終えるとそのまま、さっさと自分の部屋に帰った。

どうしたんだ? 私。フェルが私以外に親しい女がいても当然ではないか。何しろ彼は帝国の第五皇子なのだ。当然親しい女がいても当たり前だ。

でも、私の前ではそんな素振りもしなかったのに・・・・
何かめちゃくちゃムカムカする。

私は自分のこの気分をどう対処していいか判らなかった。


こんな時は鍛錬するに限る。

私は鍛錬場に行こうとした。

そして、中庭でイチャイチャしている二人を見てしまったのだ。

な、何これ。なにも私の前でイチャイチャする必要はないじゃない。

机の前で二人でお菓子を食べながら、フェルはどこかからの書簡を真剣な顔で読んでいた。

そして、そのショックを受けたような顔をしたフェルの口元にお菓子をヘレナが運んでいた。
「はいっ、あーんして」
フェルは普通に食べさせられていた。

こんなのは私とフェルでは普通だったが、そうか、他の女とも普通なんだ。

何かが私の中でバキッと音を鳴らして切れていた。

普段ならば絶対にこんな事しなかっただろう。
でも、何か私はプッツン切れていたのだ。

そのままねつかつか二人の前に歩いていくと、気付いた時には、フェルの頬を思いっきり引っ叩いていた。

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