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帝国皇子がやって来ました
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館に帰ると、父が顔中にバンソウコウを貼っていた。
「父上、ゲフマンの大軍の相手は峠を超えました。今頃領地外に叩き出されているところです」
「ご苦労」
そう労う父は少し疲れているようだった。顔が痛々しい。
「それよりもエック、お父様の隠し子の件はどうなったの」
母がお兄様を睨んで言った。
「ああ、それはゲフマンの勘違いでした」
「そら見ろ、イルメラ、俺がそんな事するわけ無いだろ」
「本当に、ゲフマンも人騒がせよね」
お母様は文句を言うお父様を無視して、他人事よろしく言った。
「まあ、アイツラ馬鹿ですから。なんでも婚約破棄されたエルを捕まえられたと勘違いしていたみたいです」
「なんですって、エルを捕まえたと勘違いした? そう言うことは婚約破棄してくれた王家も今回の件に噛んでいるということなの」
お母様が今度は別のことで怒り出した。
お母様に文句を言おうとしたお父様が弾き飛ばされて机の角で顔を打つ。
「私の婚約破棄の場面でゲフマンの大使がニヤニヤ笑っていました」
私が言うと、
「なんですって!、王家の奴らもグルになっているということよね」
お母様はプッツン切れていた。
「まあ、イルメラ、ここは落ち着いてだな」
「これが落ち着いていられますか。私達は大切なエルを、お義父がどうしてもと言うから、やむを得ず王家にお預けしたのよ。それをゲフマンに売ろうとするなど、これは重大な契約違反よ。許せることではありませんわ」
母は両手で机を叩きつけていた。
机の上に置かれていたものが倒れる。でもお母様は構っていなかった。
「外務卿、王家からの侘びは入ってきたの?」
「いいえ、まだです」
「我々の抗議は即座に送ったのよね」
「はい、それはすぐに」
外務卿は頷いた。
「本来ならば国王自ら飛んでくるところでしょ。申し訳なかったと。何をしているの王家は」
お母様は帝国の皇族出身で、言うことがどぎついのだ。王家なんて屁とも思っていない。
まあ、それは私達も同じなんだけど。
「国王は今は国際会議に出ておられるかと」
外務卿が言う。
「ああ、あのどうしようもない国際会議ね。帝国なんて第五王子のフェルが出ているくらいなのよ。何で国王が出る必要があるのよ」
まあ、フェルは帝国の第五皇子だが、放浪癖があるのかよくこの地に来て遊んでいた。
そんなフェルに行かせるくらいなんだから大切な会議ではないのだろう。
「エック、クラウ、あなた達二人でちょっと王都に行って、王宮破壊してきなさい。そうすれば王家も目が覚めるでしょう!」
「あのう、イルメラ様。王宮は既にエル様が破壊していらっしゃいますが」
外務卿が恐る恐る言った。
「はいっ? うそ、私そこまでしていないけれど」
「バルツェ侯爵を宝剣で攻撃されましたよね」
戸惑う私に外務卿が聞く。
「それはやったけど」
「その勢いで剣の斬撃が王都まで伸びて、王宮に命中、王宮は粉砕されたという報告は既に上がって来ております」
私の疑問に外務卿が応えてくれた。
えっ、あれって王都まで伸びたの?
「そうか、さすが我が妹、ちゃんとやっているではないか」
お姉様はご機嫌になった。
「本当にエルはやる時はやってくれるわ」
お母様まで褒めてくれる。
「ふんっ、たまたまだろう」
お兄様は相変わらず、きついことを言ってくれるが、事実だから何も言わない。
「そうか、エルもやる時はやれるようになったんだな」
その時、場違いな声がした。私は私達のいる一角に、いつの間にか椅子にちゃっかりと椅子に座っているフェルナンデス・レンブロイ帝国第五皇子を見つけた。
「これは殿下、よくお越しいただきました」
外務卿ら文官が立上って頭を下げた。
「あんたまた、勝手に入って来て。チャンとお兄様に断ってきたんでしょうね」
お母様が甥を嗜める。
「これはおば上、お久しぶりです」
立上ってフェルが挨拶した。
「叔父上もおかわりが無いようで」
そつない挨拶をしていく。
「お前のおばに引掻かれたがな」
お父さまは機嫌が治っていない。
「あなた何かあって?」
「いや、別に」
お母様の一瞥に慌ててお父さまは誤魔化す。
フェルは父と母を見て何かあったと思ったのかあっさりと無視することにしたみたいだ。
そう、この二人の喧嘩に付き合うと碌な事はないのだ。
「兄上と姉上もお変わり無く」
「えっ、俺は別にお前の兄になったつもりなどないが」
「まあ、それはいいとして、あんたのエルのこと聞いた」
お姉様が問題発言をしてくれた。
あんたのエルってどういう事だ?
「姉上、エルは別に私のものでは・・・・」
「そんな事言っているから全く相手にされていないのよ。判っている? エルのこと聞いて飛んできたんでしょ」
『そんな訳ないでしょ』
私とフェルが二人してハモる。
そして、何故かそう言ったフェルがショックを受けた顔をしていた。
いやいやいや、あんた今自分で言ったよね。
姉が呆れた顔をしていた。
「フェル、あんたさっさと行動しないとエルをまた誰かに取られるわよ」
お姉様がわけの判らないことをフェルに言っている。
「何のことか判りませんが」
そう言いながらフェルは慌ててお姉様に近よって、何か頼み込んでいた。
フェル、大国の第五皇子で、こいつは私の幼馴染だ。なぜか知らないが、小さい時からよく叔母であるお母様のもとに遊びに来ていた。
私が初めて宝剣を抜いたのだって、フェルと遊んでいる時だった。あの時は本当に大変だった。
私は2つ上で口うるさくて生意気なフェルにムカつくことも多々あったが、まあ、悪友と言えば悪友だ。悪いいたずらは全部フェルと一緒にやっていた。
そのくせ、こいつはメチャクチャ心配性なのだ。
私が学園に一人で入学する時も最後まで俺も心配だから留学すると言い募っていた。帝国皇子だから自国の学園に通わざるを得なかったのだが、何かと学園にも遊びに来ていた。
こいつは顔良し、地位は帝国第五皇子と申し分なく、やたらと周りがうるさかったのを覚えている。
そして、また色々口うるさくて大変だったのだ。最近やっと顔を見ないと思って一安心していたのに、また来るなんてどう言うつもりなんだろう? 帝国は余程暇なのか?
私にはお姉様に何事か必死に頼んでいるフェルがよく判らなかった。
「父上、ゲフマンの大軍の相手は峠を超えました。今頃領地外に叩き出されているところです」
「ご苦労」
そう労う父は少し疲れているようだった。顔が痛々しい。
「それよりもエック、お父様の隠し子の件はどうなったの」
母がお兄様を睨んで言った。
「ああ、それはゲフマンの勘違いでした」
「そら見ろ、イルメラ、俺がそんな事するわけ無いだろ」
「本当に、ゲフマンも人騒がせよね」
お母様は文句を言うお父様を無視して、他人事よろしく言った。
「まあ、アイツラ馬鹿ですから。なんでも婚約破棄されたエルを捕まえられたと勘違いしていたみたいです」
「なんですって、エルを捕まえたと勘違いした? そう言うことは婚約破棄してくれた王家も今回の件に噛んでいるということなの」
お母様が今度は別のことで怒り出した。
お母様に文句を言おうとしたお父様が弾き飛ばされて机の角で顔を打つ。
「私の婚約破棄の場面でゲフマンの大使がニヤニヤ笑っていました」
私が言うと、
「なんですって!、王家の奴らもグルになっているということよね」
お母様はプッツン切れていた。
「まあ、イルメラ、ここは落ち着いてだな」
「これが落ち着いていられますか。私達は大切なエルを、お義父がどうしてもと言うから、やむを得ず王家にお預けしたのよ。それをゲフマンに売ろうとするなど、これは重大な契約違反よ。許せることではありませんわ」
母は両手で机を叩きつけていた。
机の上に置かれていたものが倒れる。でもお母様は構っていなかった。
「外務卿、王家からの侘びは入ってきたの?」
「いいえ、まだです」
「我々の抗議は即座に送ったのよね」
「はい、それはすぐに」
外務卿は頷いた。
「本来ならば国王自ら飛んでくるところでしょ。申し訳なかったと。何をしているの王家は」
お母様は帝国の皇族出身で、言うことがどぎついのだ。王家なんて屁とも思っていない。
まあ、それは私達も同じなんだけど。
「国王は今は国際会議に出ておられるかと」
外務卿が言う。
「ああ、あのどうしようもない国際会議ね。帝国なんて第五王子のフェルが出ているくらいなのよ。何で国王が出る必要があるのよ」
まあ、フェルは帝国の第五皇子だが、放浪癖があるのかよくこの地に来て遊んでいた。
そんなフェルに行かせるくらいなんだから大切な会議ではないのだろう。
「エック、クラウ、あなた達二人でちょっと王都に行って、王宮破壊してきなさい。そうすれば王家も目が覚めるでしょう!」
「あのう、イルメラ様。王宮は既にエル様が破壊していらっしゃいますが」
外務卿が恐る恐る言った。
「はいっ? うそ、私そこまでしていないけれど」
「バルツェ侯爵を宝剣で攻撃されましたよね」
戸惑う私に外務卿が聞く。
「それはやったけど」
「その勢いで剣の斬撃が王都まで伸びて、王宮に命中、王宮は粉砕されたという報告は既に上がって来ております」
私の疑問に外務卿が応えてくれた。
えっ、あれって王都まで伸びたの?
「そうか、さすが我が妹、ちゃんとやっているではないか」
お姉様はご機嫌になった。
「本当にエルはやる時はやってくれるわ」
お母様まで褒めてくれる。
「ふんっ、たまたまだろう」
お兄様は相変わらず、きついことを言ってくれるが、事実だから何も言わない。
「そうか、エルもやる時はやれるようになったんだな」
その時、場違いな声がした。私は私達のいる一角に、いつの間にか椅子にちゃっかりと椅子に座っているフェルナンデス・レンブロイ帝国第五皇子を見つけた。
「これは殿下、よくお越しいただきました」
外務卿ら文官が立上って頭を下げた。
「あんたまた、勝手に入って来て。チャンとお兄様に断ってきたんでしょうね」
お母様が甥を嗜める。
「これはおば上、お久しぶりです」
立上ってフェルが挨拶した。
「叔父上もおかわりが無いようで」
そつない挨拶をしていく。
「お前のおばに引掻かれたがな」
お父さまは機嫌が治っていない。
「あなた何かあって?」
「いや、別に」
お母様の一瞥に慌ててお父さまは誤魔化す。
フェルは父と母を見て何かあったと思ったのかあっさりと無視することにしたみたいだ。
そう、この二人の喧嘩に付き合うと碌な事はないのだ。
「兄上と姉上もお変わり無く」
「えっ、俺は別にお前の兄になったつもりなどないが」
「まあ、それはいいとして、あんたのエルのこと聞いた」
お姉様が問題発言をしてくれた。
あんたのエルってどういう事だ?
「姉上、エルは別に私のものでは・・・・」
「そんな事言っているから全く相手にされていないのよ。判っている? エルのこと聞いて飛んできたんでしょ」
『そんな訳ないでしょ』
私とフェルが二人してハモる。
そして、何故かそう言ったフェルがショックを受けた顔をしていた。
いやいやいや、あんた今自分で言ったよね。
姉が呆れた顔をしていた。
「フェル、あんたさっさと行動しないとエルをまた誰かに取られるわよ」
お姉様がわけの判らないことをフェルに言っている。
「何のことか判りませんが」
そう言いながらフェルは慌ててお姉様に近よって、何か頼み込んでいた。
フェル、大国の第五皇子で、こいつは私の幼馴染だ。なぜか知らないが、小さい時からよく叔母であるお母様のもとに遊びに来ていた。
私が初めて宝剣を抜いたのだって、フェルと遊んでいる時だった。あの時は本当に大変だった。
私は2つ上で口うるさくて生意気なフェルにムカつくことも多々あったが、まあ、悪友と言えば悪友だ。悪いいたずらは全部フェルと一緒にやっていた。
そのくせ、こいつはメチャクチャ心配性なのだ。
私が学園に一人で入学する時も最後まで俺も心配だから留学すると言い募っていた。帝国皇子だから自国の学園に通わざるを得なかったのだが、何かと学園にも遊びに来ていた。
こいつは顔良し、地位は帝国第五皇子と申し分なく、やたらと周りがうるさかったのを覚えている。
そして、また色々口うるさくて大変だったのだ。最近やっと顔を見ないと思って一安心していたのに、また来るなんてどう言うつもりなんだろう? 帝国は余程暇なのか?
私にはお姉様に何事か必死に頼んでいるフェルがよく判らなかった。
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