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ベッキーの別荘はホテルみたいでした。

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「うわー凄い」
私は思わず声を張り上げていた。
峠に着いて外に出ると、目の前に広大な湖が広がっていたのだ。

サウス湖、帝国との国境に広がる湖は火山の後に出来たカルデラ湖で、四方から川が流れ込み、メインのブライトン川は王都に向かって流れ、サブの渓流は渓谷を下って帝国の帝都まで繋がっていた。標高1500メートルを超える湖畔はブライトン側は避暑地としても有名だった。

そしてこの地にベッキーの家の別荘があるというので遊びにこさせてもらったのだ。ベッキーのヨーク商会の6頭立ての馬車が、わざわざハンナの領地まで迎えに来てくれたのだ。ハンナの領地から馬車で5日、私達はやっとサウス湖の手前の峠まで来ていた。

「そう、ここからの景色が素晴らしいのよ」
「本当ね」
ベッキーの言葉に私は頷く。

私はサウス湖に来たのは初めてだった。家が薬屋をやっている関係で、中々遠距離への旅行が出来なかったのだ。まあ、ハンスは夏休みの間は手伝いに帰ってきてくれることを期待していたみたいだが、私はカートに怒っていたのもあって、しばらく友達の家回りをすることにしたのだ。最後の20日くらいは家でおとなしくしている予定だけど。

ここまでの馬車の旅は楽しかった。途中でキャンプみたいなこともしたし、私の料理を皆にふるまったりもした。護衛の方が軍隊のときみたいですと感激してくれていた。それは味が大雑把ってことかな。良くは判らなかったが。

サウス湖畔の街並は思った以上に栄えていた。避暑の時は人口も膨れ上がるらしい。この地には王家を始め、プリシラの家の別荘もあるのだ。
ベッキーの家の別荘はなんと、湖畔に建っていた。それも3階建てで、プチホテルかと見間違うほどの代物だった。

「ようこそ、我がヨーク商会の別荘へ」
わざわざヨーク家当主でベッキーの父親のデリックさんが迎えに出てくれた。
私達が挨拶する。

デリックさんは私達を1階の応接室に案内してくれた。なんと応接室からもサウス湖が見える。
「うわー、ここからも湖が見えるんですね」
「お気に召して頂けましたか」
「ええ、とても。家の窓からは木々しか見えませんから。こんな広大な風景が見えるなんて素晴らしいです」
「本当よね。こんな別荘があるなんて羨ましいわ」
子爵家のハンナまでが言う。

「子爵家の方にまで褒めていただけると光栄ですな。我が家は商会をしておりますから、お客様をもてなす意味でも、こういった別荘が必要なのですよ。お貴族様はじめいろんな方がご利用いただけます。皆さんもぜひともご家族でまたご滞在下さい」
如才なくデリックさんが言う。こういったところが商人には必要なのだろう。我が家の母には絶対に無理だと思った。

「ではおじさん。7日間お世話になります」
私が頭を下げた。皆が続く。

「で、おじさん、出来たらこれをお受取り下さい」
私は作ったポーションを取り出した。

「これはなんですかな」
「私の作ったポーションなんです。ベッキーさんの活躍もあってオリエンの時に一位になれたんで、その時作ったのがこのポーションなんです」
「まさか、それは我が国ではあなたのお店にしか無いという特級ポーションですか」
驚いてデリックさんが聞いてきた。

「おそらくその上かと」
「えっ、まさか、幻の超特級ポーションですか」
デリックさんはまじまじと私のポーションを見てくれた。そこまで見るものでもないけれど・・・・

「実際にはわからないんですけど」
「その様な高価なものを頂いて宜しいのですか」
「ベッキーさんの取り分でもありますから、どうぞお受取り下さい」
「これがそうなんですか」
おじさんはポーションに頬擦りしそうな勢いで、よく見てくれた。

「こういう場でなんですが、出来ましたらあなたのポーションを我が商会で取引させていただくわけには参りますまいか」
「お父さんそれはだめだって断られたわ」
べつキーが先に返事してくれる。
「すいません。いろんな商会から依頼が来るのですが、全てお断りさせていただいているので、申し訳ありません」
私も謝った。

「いやいや、そう言うことでしたら仕方がないですな。最近帝国の薬屋がこの地にも進出してまいりまして、結構安売りをしているのです。そのせいで潰れた店が2、3ありまして。それに対抗できたらと思ったのですが」

「帝国の店がですか」
私は戸惑った。前にカートらに聞いた事だ。最近帝国の店が出てきていると。

「リアのところは大丈夫なの」
ベッキーが聞いてきた。
「うちのメインは特級ポーションだから。特級ポーションを作れる人は帝国でも、少ないみたいで、全く問題ないわ。全然利益の出ない風邪薬もこの前作らされたから問題ないんじゃない」
「まあ、特級ポーションはそうよね。あんたの風邪薬も何故かお貴族様にものすごく気に入られているからね。だからだと思うわ」
ベッキーが言ってくれた。我が家の風邪薬、大鍋で1000本一気に作るんだけど、全て売れても金貨20枚ほどで全く利益にならないんだけど。

「あの苦いやつでしょ」
「我が家もあの風邪薬使っているわ」
みんな各々が言う。これは騎士団の売店とかで売られているらしい。

「ああ、あの苦い薬ですね」
ベッキーのお父さんまで知っているらしい。まあ、知名度が高いのは良いことだ。

「まあ、何は取り敢えず、お部屋を3階にご用意してあります。どうぞごゆっくりなさって下さい」
おじさんはベッキーに合図をして、ベッキーが案内してくれた。

私達のトランクは既に部屋の前に置かれていた。
私はエイミーと同室だった。部屋の中に入ると
「見て見て、エイミー、湖よ」
私は湖を見て叫んでいた。
エイミーは何を当たり前のことを言うのという顔をしているが、喜んでいるのは見ただけで判った。

私は窓から見える湖を心ゆくまで眺めた。

対岸に見えているのは帝国領だ。帝国の湖岸側は険しい山道を登ってこないと入れないので、こちら側よりは寂れていた。

対岸は放牧がメインらしい。取れたものは帝国に送るのも大変なので、船でこの地に輸出しているらしい。

「リアらは、まだ着替えていないの。早く着替えてよ。散歩しに行くから」
ベッキーが呼びに来て私達は慌てて着替えた。
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