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第三部 隣国潜伏編 母の故国で対決します

閑話 王太子視点14 自分の想いを伝えようとして思わずアンを押し倒してしまいました

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俺は病院でブルーノにやられて傷だらけになって意識を失って倒れているアンを見て唖然とした。

また、今回も全くアンを守れなかった。

いつもそうだ。

俺がアンを助けようとして間に合ったことなどほとんどない。

「まあ、たとえ殿下が間に合われたとしても、足手まといになられただけじゃが」
ガーブリエルにはそう言われたが、悔しいが全くそのとおりだった。

俺は魔術では全くアンの隣に立てるレベルではなく、剣術では到底クリスティーンの足元にも及ばない。力不足の俺だった。


せめてアンの前に出て、アンを庇って少しの時間稼ぎをするくらいしか出来ることは無かっただろう。

私にあるのは、オースティン王国の王太子としての地位だけだった。



しかし、俺にはその地位しかないのに、エルダにダメだしされたのだ。

「そこにいるヘタレのフィルと違って、私は公爵家の縁を切ってここにいるのよ」
と。

地位を捨てない俺は傍にいるなとエルダは言うのだ。

でも、俺から地位を取ったら何が残るんだ!

しかし、クリスティーンにしても、ガーブリエルにしても皆、その地位を捨ててここにいるのだ。

A組の皆にしてもそうだ。


俺1人地位にしがみついている訳にもいくまい。

そう思って、父に廃嫡して欲しい旨を書いて送るが、父からはそれはまかりならんと返事が来た。

どうすれば良いのだ?

「フィルは甘いな。そんなの聞く前に、王位継承権を返上してしまえば良かったのに」
クリスティーンはそう言ってくれるんだが。

そう言う、クリスティーンらの親は、今必死に、公爵位の継承権を本人に返そうと動いているらしいのだが・・・・。

何しろカールソン公爵家はクリスティーンが一人娘なのだ。親族から養子を取れば良いのだが、クリスティーンほど、領主に相応しいものがいないのも事実だ。まあ、そもそも次期騎士団長の呼び声も高かったのだ。

それにエルダの所の兄妹にしてもそうだ。イェルドは生徒会長していて、その文官能力は卓越している。未来の宰相との期待の声も高かったのだ。
イングリッドのところもしかりだ。

その他Aクラスの面々が抜けてきたことで、伯爵家子爵家の有力子女の一部が抜けてきた。まあ、人材豊富なオースティン王国とはいえども、領主としてはその跡取りを、命がけのブルーノの戦いに晒すのは避けたかったはずだ。

なんとか領内に止めようとした領主達の手が尽く子供たちの反発を食って、こうなったわけだが。

はっきり言って伊達と酔狂だけで、ここまで来たクリスティーンを筆頭に面白いから来たという学生が大半だった。

そんなので良いのかとも思わないではないが、戦力的には超強力な布陣になっているも事実で、オースティン王国内部も頭を抱えているはずだ。内政不干渉と言ってもこの戦力をオースティン王国の中から出しているのだから。クリスティーンの言い訳が「オースティン王国の始祖が悪の簒奪者ブルーノを討てと夢枕に立って言われた」という誰が聞いても作り話だとまるわかりの理由なのだ。まあ、我が国にちょっかいを出してきたブルーノが悪いといえばその通りなのだが。


クラスメートにアンの人気は絶大だった。まあ、全ては悲劇の王女としして大々的に宣伝した俺の勝利なのだが・・・・。アンの人気が上がるほどに俺の人気が相対的に下がっているんだが。それが俺にとって誤算だった。


俺はアンの部屋に行くとそこにはエルダとイングリッドが言い合いをしていた。なんでも、エルダが鎧を着て戦いに参加しようとしたとかしなかったとか・・・・。
俺はそれを理由にエルダの兄が呼んでいると適当に理由を作って邪魔なエルダとイングリッドを追い払うと、アン自身を助けられなくて申し訳なかったと謝った。

でも、アンはそんな落ち込んでいる俺に
「そう考えて頂いただけで、私は嬉しいです」
と言ってくれたのだ。

「アン、俺はぜひとも君の力になりたい」
そう言ったのだが、

「オースティン王国の王太子殿下であるフィル様をこれ以上危険な目に合わせるわけには行きません」
と拒否されてしまったのだ。

「何を言っているんだ。アン。俺はとっくに、オースティン王国の王位継承権は放棄しているんだ」
俺はエルダやクリスティーンが聞いたら目を剥いて文句を言ってきそうな嘘を言っていた。放棄して欲しいといったのは事実だ。認められなかったけれど、そんなのはどうでもいい。今はアンの隣にいられるかどうかの瀬戸際なのだ。

「えっ、そうなのですか? クリスティーン様からはフィル様お一人オースティン王国の地位にしがみ、いえ、そのままだとお伺いしましたので」
「あいつ、余計なことを」
「なにかおっしゃいましたか」
俺の独り言にアンが反応した。

「いや、何でも無い。だからここでアンに見捨てられても俺は行くところがどこにもないのだ」
「でも、そんな、ブルーノの力は絶大ですし、私達で勝てる保証はなにもないのです」
「そう、敗けたら私も行く場がないのは君と同じだ」
俺はそう言い切った。

「でも、フィル様」
「アン、俺は君の婚約者だ。君を見捨てるわけにはいかない」
俺はアンの瞳を見つめた。

「でも」
「死ぬ時は一緒だよ。アン」
アンの揺らぐ瞳を俺はまっすぐに見つめた。

「でも」
「デモは禁止だ。俺は今まで王太子としてきた実績がある。ぜひともアンネローゼ殿下の補佐官として君の役に立ちたい」

「でも」
そう言おうとしたアンの唇を俺は塞いでいたのだ。もうアンが俺を拒否する理由を聞きたくない。

驚いたアンが俺を押し返そうとした。それはあたかも俺を拒否しているように・・・・。

「アン、君が好きだ。だから俺を見捨てるようなことを言うな」
俺はそれが許せなかった。せっかくここまでアンをここまで追いかけてきたのに!

俺はキスしたまま勢い余ってアンを押し倒してしまった。

そして、勢いのままにアンの唇を貪ったのだ。

押し倒すつもりはなかったのに・・・・

このまま既成事実を作ってと少しでも邪な考えが脳裏に浮かばなかったとは言えないが・・・・


そして、その時だ。

ダーーーーン
という音と共に
「フィル、クリス様は呼んでいないって・・・・・」
扉を蹴り開けたエルダが、ベッドの上の私達二人を見て固まってしまった。

「ええええ!」
後ろから駆け込んできたイングリッドも固まってしまっていた。
「いや、イングリッド、これには訳が」
俺は慌てた。これは絶対にやばい。

「ちょっと、フィル、何、病人のアンを押し倒しているのよ」
イングリッドの怒りの正拳が俺の顔面に炸裂して俺は吹っ飛ばされたのだ。

直ちに俺はアンの部屋から叩き出されて、怒り狂った二人によってしばらく私に会うこともままならなくなってしまったのだった。

***************************************************************

ここまで読んで頂いて有難うございました。


この続編『転生して悲劇の王女になったつもりが魔王でした!勇者から斬りつけられて素手で殴り返した、前世コミュ障引き籠りだった弱小王国王女の帝国建国物語』

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