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第三部 隣国潜伏編 母の故国で対決します

王太子に思わずキスしたら王太子に抱き寄せられました

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私は濁流の中を流されていた。

水から出ようと必死にもがいても、流れが早くてままならない。

私はもうダメだ、と諦めかけた。その時だ。私の視界の先にフィル様が流されるのが目に入ったのだ。

「フィル様!」
私は必死にフィル様に追いつこうと泳いだ。
でも、全然追いつかない。
フィル様は私と離れてどんどん流されていったのだ。

「フィル様!」
私は自分の声で飛び起きた。


回りを見るとヒルッカさんの家だった。まだ外は暗い。皆寝ていた。私とフィル様は端で寝かされていた。

私は寝間着に着替えさせられていた。その横にはこれも粗末な寝間着に着替えさせられていたフィル様が寝ていたのだ。

私はフィル様の寝顔を見るのは、この前、疫病にかかっていたフィル様にヒールをかけて以来だ。
その時に比べれば、熱も無いみたいだ。

その時は私のヒールでは疫病に効かないと思ったんだけど、その後で効くのが判った。フィル様にも効いたんだろうか? 

フィル様が疫病が治ったのは、川で溺れていたから、たぶん川まで移動する体力が戻ったと思うから、治ったと思うけれど、私のヒールで治ったんだろうか?
それとも、王女の薬で治ったんだろうか?

でも、それはもう関係の無い事だった。

何故なら、私とフィル様の婚約は無くなったのだ。王家に破棄されたんだった。
そして新たに王女と婚約すると聞いた。もうたぶんしたんだろう。

フィル様とは、もう関係無いんだった。

そう思うととても悲しくなった。

王妃様に婚約破棄された後、近衛に殺されかけたんだった。
何も殺す事無いのに・・・・。
王妃様も酷い・・・・。

私の目から一粒の涙が流れてきた。

フィル様もここに来たのは、私を殺しに来たんだろうか?

私は不安になった。

でも、それならそれで良いかも・・・・

フィル様に殺されるのならば、それで良いかも。と思わず思ってしまった。

この領地に来て、領民が、元王女の私なんて求めていないのは良く判った。

庶民の皆が求めているのは、戦乱なんかじゃ無い! 少しでも良い生活だ。
増税も求めていないし、戦いも求めていない。

私を旗印に求めているのは伯爵だけで、伯爵家にしても、そこにいる人たちの大半は、私を疎んじていた。

ヒールが役立つから、私は皆に求められているが、必要なのはヒールの使えるアンであって、王女のアンでは無いのだ。

この領地の大半の病人はヒールで治したし、もう、私はここでは必要無いのかも知れない。

私はこの国では戦乱の元なのかもしれない。

フィル様が私を殺しに来たのなら、来たのなら・・・・、そうならショック以外の何ものでも無いけれど・・・・

そうなら、殺されても良いかもしれない。

だって私の居るところがもう何処にもないから。

せっかく、このゲームの世界に転生出来たけれど、故郷だと思っていたオースティンを追い出されて、この母国スカンディーナでも要らない人なら、もういいのかも!

そもそもアンネローゼは悪役令嬢だったし、ゲームではフィル様に婚約破棄されて、スカンディーナに帰って来た時に、革命で殺されるのだ。

何だ。結局ゲーム通りなんだ!

私は判ってしまった。

とても悲しいけれど、そうなんだと。


でも、今は目の前に、夢にまで見たフィル様がいる。

私はフィル様の頬をつんとつついてみた。

柔らかい!

見目麗しいフィル様が今は私だけのものだ。

でもこのフィル様が起きれば私を殺すんだろうか?


私は悲しくなった。

いや、今は考えない。

この美しい顔を堪能しよう。

私はフィル様の頬に両手を這わした。

もう二度と会えないと思っていた。そのフィル様に会えたのだ。今はフィル様の事だけ考えよう!

そういえばフィル様にヒールをかける時にキスしたんだった。

一度しているからもう一度しても良いよね!

愛おしいフィル様の口に私は唇を重ねた。

その瞬間だ。フィル様の目がパチリと開いたのだ。

私たちはしっかりと見つめあってしまったのだ。

えっ、このタイミングで起きるか?
私は心の中でパニックになった時だ。

私は思いっきりフィル様に抱き締められていたのだ。










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