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第三部 隣国潜伏編 母の故国で対決します

領主館でヒールを使い過ぎて気を失ってしまいました

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馬車の中では来訪を歓迎されるようなことを散々言われて私は辟易した。そんな事を言われるために来たのではない。もっとも元々は何も考えずに王女アンネローゼとしてきたのだが、それを領民は求めていなかったのだ。皆と話して私の浅はかな考えを思い知らされていた。

でも、伯爵はそのようなことが判っていないようだ。元王女が来たら民にも歓迎されると思っているのだろう。そんなの偽善者の妄想にすぎないのに。

それに本当に今この時期に私が来たことがこの伯爵領にとってプラスになるんだろうか? 私がここに居るのがブルーノに知れたらブルーノは確実に仕掛けてくるだろう。私は伯爵の頭に鳥が巣作っているんじゃないかと不安になった。

私が今役に立てるのはヒールで疫病に苦しんでいる人を治すことだ。
しかし、病のことを聞いても適当に誤魔化されるのだ。
でも、今私はヒールを使ってこの領地に貢献するしかない。というか、今にも死にそうな人がたくさんいるはずなのだ。出来れば早くやりたい。



伯爵邸について私は一同に外で出迎えられた。

一同頭を下げてくれる。

私はそのまま皆の大歓迎を受けた・・・・訳はないじゃない!

伯爵以外の伯爵の周りの反応は何か胡散臭いやつが来たって感じなんだけど。

「ほう、あなた様が聖女様なのですか?」
いかにも胡散臭いという疑い深い目で家令のヤルモが見てきたのだ。

「これヤルモ、アン様に失礼な態度を取ってはならんぞ。何しろムオニオ村の病人はすべて治して頂いたのだからな」
「左様でございますか」
この家令の目は絶対に信じていない目だ。

私は皆の視線で、とても居心地が悪かった。
私はメルケルらを探すが、どこにも見えなかった。

「伯爵様。病人はどちらにいらっしゃるのですか」
「いや、今日はお疲れでしょう。聖女のお仕事は明日からお願い致します。アン様、部屋を準備しております。ヤーナ部屋にご案内して」
「でも」
私の声は伯爵の声に遮られて私は慇懃に礼をしたヤーナに部屋に案内された。

部屋は2階のこじんまりした部屋だった。

私の寮の部屋と同じ広さだ。

私はなんにも違和感を感じなかった。

伯爵に言っても埒が明かないので、私は早速メルケルを探しに行くことにした。

部屋を出て、近くにいたメイドに
「一緒に来たメルケル・シーデーンがどこに居るか教えてくれないかしら」
メルケルの居場所を聞くと、

「えっ、少し部屋でお待ち下さい。すぐに呼んで参ります」
と言われて、慌ててメイドは出ていった。


少しすると慌てたメルケルらが入ってきた。

「おい、何だ、この部屋は。聖女様にこの部屋はないのではないか」
一緒にやってきた二クラスがメイドに文句を言った。

「えっ、いや、私は何も」
メルケルを呼んでくれたメイドが慌てた。

「こんな粗末な部屋を聖女様にあてがうとはどういうことだと聞いている」
メイドは顔面蒼白になっていた。
「二クラス様。この部屋は私の寮の部屋と同じくらいの広さで問題はないかと」
たまらずに私が口を開くと

「何を仰るのです。アンネローゼ様」
その二クラスの言葉にメイドは固まっていた。

「ニクラス様。何をおっしゃるのです。私は平民のアンです」
「あ、そうでした。でも、聖女様には変わりがありません」

「どうされたのですか」
そこに私を案内してくれたヤーナが顔を出した。

「ヤーナ、聖女様にこのような部屋を案内するなどどういう事だ」
二クラスは怒って言うんだけど。
「家令のヤルモ様のご指示です。出自も定かでない方にはこの部屋で十分だと」
「な、何だと」
二クラスが切れた。

「ニクラス様。部屋のことは良いのです」
私が言うが、
「そういう訳にも・・・・」
「私は贅沢をしに来たのではありません。病で苦しんでいらっしゃる方を治しに来たのです」
私は二クラスを見て言い切った。今はそれしか出来ない。何しろ皆はアンネローゼなんて期待していないんだから。

「しかし、アン様」
「部屋など寝れば十分です」
「しかし」
あくまでも二クラスは拘ろうとするんだけど、そんなのは今はどうでもいいのだ。命が今にも尽きようとしている人がいるという話ではないか。

「メルケル。私を病で倒れている方の元に案内して。病院かなにかあるのよね」
私はメルケルを見て言った。

「確かに隔離棟はあるが」
「そこで良いわ。急いで」
「しかし」
「メルケル・シーデーン。あなたは私の騎士よね。主の言うことが聞けないの」
私はメルケルに命じていたのだ。
何て高慢な言い方なんだろう。もっと他に言い方があったはずだと思うんだけど。

「しかし、そのような危険な所にアン様を案内することは出来かねます」
「あなた何言っているの。それじゃあ、疫病を怖がって患者に近づかなかったピンク頭と同じじゃない。ヒールを使える者が疫病を怖れてどうするのよ」
「しかし」
メルケルは頑なだった。

「判りました。こちらです」
ヤーナさんが言って歩き出した。

「や、ヤーナ、聖女様に何をやらせるのだ」
二クラスが慌てて言った。

「聖女様のお仕事をして頂けるだけですわ」
ヤーナは挑発的な目で私を見た。その目は私にお前に出来るのかと言っていた。

「しかし、ヤーナ、アン様にもしものことがあれば」
私は二クラスを無視して私はヤーナについて歩き出した。

ヤーナは離れに私を案内した。

入り口には騎士らが立っていた。

慌てて私達を止めようとする。

「お退きなさい。こちらは聖女様です。中の者たちを治していただけるそうです」
「しかし、お館様には誰も入れるなと」
騎士たちが止めようとするが、

「いい加減にしなさい」
私は大声で叫んでいた。

「人の命がかかっているのです。治療が遅くなればなるほど助かる人は減るのです」
私はそう言うと騎士を退けて強引に中に押し入ったのだ。

中は廊下にまで布団が敷かれて、高熱に呻く人々が倒れていた。中には生きているか死んでいるかもわからない動かない人もいる。

おそらくこの館で倒れた人を押し込めたのだろう。

100人はいるかと思われた。

「これは酷いな」
他人事みたいに二クラスが言う。これが領主の息子か?
私は思いっきりこの伯爵令息をしばいてやろうかと思わず思ったくらいだ。

でも、それよりもまずやることが先だ。

私は目を瞑った。そして、心の中で苦しんでいる人が皆治るように祈ったのだ。

そして両手を上げた。

「ヒール」
私は心の底から願ったのだ。

私の手からは強力な金色の光が光った。
「えっ?」
皆唖然として私を見ていた。

少し強すぎたかも・・・・

私は少し力を使いすぎたらしい。私から降り注ぐ金の光を見ながら私は意識を無くしてしまったのだった。
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