上 下
80 / 174
第一部 学園始動編 モブでなく悪役令嬢だと判りました

保健室で騒いだら、礼儀作法の先生に怒られてしまいました

しおりを挟む
ブルーノの襲撃は未遂で終わったみたいだった。
私はあのまま気を失っていたので顛末は知らないが。


「アン、しっかりしろ!」
私はフィル様にゆり動かされて気付いた。

「フィル様!」
私は薄っすらと目を開けた。なんか病室みたいだ。
いつの間にか、私は保健室に運び込まれていたのだ。

「皆は?」
「皆は無事だ。ブルーノの行方は今必死に探させている」
フィル様は答えてくれた。

「ごめん、ヒールをかけさせるのが遅くなって。聖女の奴がなかなかアンにヒールをかけてくれなくて、教会は王家に逆らうのかと脅したんだが、大司教もなかなかうんと言わなかったんだ。クリスティーンが強引に聖女を連れてきてヒールをかけさせたんだ」
「すみません。色々ご迷惑をおかけしたみたいで。クリスティーン様にもご迷惑をおかけしましたね」
「いや、あいつは良い。それより無事で良かった。君を危険にさらして本当にごめん」
そう言うフィル様はとても近いんだけど。それに手も握っているし、私はそれに気付いて真っ赤になってしまった。

「どうした? アン。真っ赤になって、熱が上がってきたのか?」
フィル様が驚いて私のおでこに自分のおでこを当てるんだけど・・・・

ちょっと待って、だめ! だめだから!

私はもう沸騰しそうになっていた。

「ゴホンッ、ゴホンッ」
フィル様の後ろから咳払いが聞こえた。

「えっ?」
私はフィル様の後ろを見ると

「ルンド先生」
そこにはルンド先生が寝ていらっしゃったのだ。

「殿下。お二人の仲の宜しいのは喜ばしい限りですが、そう言うことは二人きりの時にやって頂けませんか」
ルンド先生が釘を刺す。

「ああ、ルンド先生もいらっしゃったんですか」
フィル様は今まで気づかなかった風を装っているが、そんなの絶対に嘘だ。

「せ、先生。先程は私を守っていただいてありがとうございました」
私は慌てて言った。

「いえ、アンネローゼ様。私はアンネ様をお守りすることは敵いませんでした。今もブルーノ相手にアンネローゼ様の盾となることも出来ずに、本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、私が、力不足だったのです。もっと、力をつけなくては」
「いえ、アンネローゼ様はあのブルーノを弾き飛ばしたのです。それもあやつの障壁をぶち破って。あやつは障壁は誰にも破られたことがないのが自慢でしたから。その障壁をぶち破ったのはアンネローゼ様だけです。そこは自慢されても宜しいのでは」
「いえいえ、まだあんなのでは到底ブルーノに勝てたとはいえません。ガーブリエル様のご指導の元、もっともっと精進せねば」

「そうじゃ。まだまだじゃぞ」
そこにガーブリエル様がヴィルマル師団長を引き連れて現れた。

「ガーブリエル様!」
「まあ、ガーブリエル様。アンネローゼ様はあのブルーノの障壁を破ったのですから、そこは褒められても良いのではないですか。師ですら破れなかったのですから」
ヴィルマル様が私を褒めてくれた。
「な、何を申す。儂が少し、手加減して攻撃しただけでじゃな、儂が本気を出せば・・・・」
「言い訳はよろしくないのでは」
必死に言い訳しようとしたガーブリエル様をヴィルマル様は白い目で見られた。

「うーむ。まあ、アン、貴様は全てが規格外じゃ。魔術の反応が遅いのが玉に瑕じゃが、あのブルーノを退けたのじゃ。そこは少しは自慢して良いぞ」

ええええ! ガーブリエル様に褒められた。

私は嬉しくなった。


「アン!」
「気付いたの!」
そこにイングリッドとクリスティーンが駆け込んできた。

少し遠ざけられていたフィル様はもとより、ガーブリエル様もヴィルマル様も二人に横に弾き飛ばされていた。

「ええ、エルダ。助けてくれてありがとう」
「何言っているのよ。私なんか、全く、全然足止めできなかったけわ。アンの方が凄いじゃない。私もルンド先生も全く相手にされなかったのに、ミニアンちゃんのキックであのブルーノを弾き飛ばすなんて」
エルダが言ってくれた。

「私もウィンドストームでは全く相手にならなかったもの。ミニアンちゃんの姿にブルーノは油断したのよ」
「それでも凄いぞ。あの、ガーブリエル様の最強の弟子ブルーノを吹っ飛ばしたんだから」
後ろから現れたクリスティーン様が言われた。

「たまたまですよ。次はあんなのでは許されないと思うので、もっと頑張ろうと思うんです。ガーブリエル様、よろしくお願いします」
私が弾き飛ばされたガーブリエル様に頭を下げる。

「そうじゃの。儂ももっと厳しく鍛えるかの」
そう言うとガーブリエル様は笑われた。

「で、そこのピンク頭、アンとルンド先生にヒールをかけろ」
「はい」
クリスティーン様の一言に後ろにいたピンク頭が素直に頷いた。

私はびっくりした。あのピンク頭が文句も言わずに、やるなんて。

でも、それは、やっぱり、そんな訳はなかった。

「ヒル」
ピンク頭は私に、向けて魔術をかけた。

でも、なんかめちゃくちゃ嫌な感じで、ムワーーーーとするんだけど。
胸まで苦しくなってきた。

「ちょっと、あなた、なんかアンが変よ」
エルダが言う。

バシン
クリスティーン様がピンク頭の頭を思いっきり叩いていた。

それで苦しみが無くなった。私はホッとした。


「痛い」
「ピンク頭、あなたアンに何をかけているのよ」
「凄いの。これは闇魔術ではないか。聖女が闇魔術まで使うのか」
ガーブリエル様が感心されて言われた。

「ガーブリエル様。感心しないで、アンをなんとかしてくださいよ」
フィル様が慌てて私に駆け寄ってくれていた。
皆の前で抱きしめて・・・・いや、やめて! 抱きしめるなんて死ぬ!

私は恥ずかしさで真っ赤になった。

「ふん、何を申す、貴様が離れればアンは普通に戻るわ」
ガーブリエル様の至極当たり前の言葉にフィル様はむっとする。

「でも、見てみい。アンの顔の赤いのが治ったわ」
ガーブリエル様の指摘通り、フィル様が離れてくれたので、私はホッとしていたのだ。

「ちょっとアン、それはひどいんじゃない」
フィル様が私に迫って来るし、いや、近すぎますフィル様!


「ギャーーー、クリスティー様。私が悪かったです」
一方で泣き叫ぶ聖女のお尻をクリスティー様は叩き出した。
もうめちゃくちゃだ。


「静かにしなさい!」
その時、ルンド先生の怒声が保健室に響き渡った。


一瞬でシーンとする。


「皆さん。ここは保健室です。静かにするのが当然なのに、何なのですか。これは・・・・・」
ルンド先生は自分が怪我人なのに、しかりだしたのだ。こうなったら長い。
な、何で怪我人なのに、怒られなければならないのだろう。
でも、こうなったらこの国の王太子も大魔術師も魔術師団長も公爵令嬢も聖女も関係なかった。
ひょっとしたらルンド先生が最強なのかも・・・・

私達はそれから延々小一時間説教されてしまったのだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】ドケチ少女が断罪後の悪役令嬢に転生したら、嫌われ令息に溺愛されました。

やまぐちこはる
恋愛
仁科李依紗は所謂守銭奴、金を殖やすのが何よりの楽しみ。 しかし大学一年の夏、工事現場で上から落ちてきた鉄板に当たり落命してしまう。 その事故は本当は男子学生の命を奪うものだったが、李依紗が躓いた弾みで学生を突き飛ばし、身代わりになってしまったのだ。 まだまだ寿命があったはずの李依紗は、その学生に自分の寿命を与えることになり、学生の代わりに異世界へ転生させられることになった。 異世界神は神世に現れた李依紗を見て手違いに驚くが今回は李依紗で手を打つしかない、いまさらどうにもならぬと、貴族令嬢の体を与えて転生させる。 それは李依紗の世界のとある小説を異世界神が面白がって現実化したもの。 李依紗も姉のお下がりで読んだことがある「帝国の気高き薔薇」という恋愛小説。 それは美しい子爵令嬢と王太子のラブストーリー。そして李依紗は、令嬢を虐めたと言われ、嫌われることになるありがちな悪役令嬢リイサ・サレンドラ公爵令嬢の体に入れ替わってしまったのだ。 =============================== 最終話まで書き終え、予約投稿済です。年末年始は一日3〜4話、それ以外は毎日朝8時に更新です。 よろしくお願い致します。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

処理中です...