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第一部 学園始動編 モブでなく悪役令嬢だと判りました

食堂で友人の兄の友達が苦しんでいたので、飲みかけの水を飲ませてあげようとしたら、その人の口の中に辛子が突っ込まれました

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「あっ、お兄様」
イングリッドは列の先に並んでいるクリストフ様とイェルド様を見つけたのだ。
そして、あっさりとその場所に入り込んでいた。うーん、これは横入りというものではないだろうか。
私は気になったが、

「今日は3人だけなのか」
「そうなの。フィルらは聖女と一緒に食べるって」
「ああ、あの新しく見つかって転入してきた子か」
クリストフ様が後ろの殿下らを見る。
フィル様と聖女は仲良さそうに話している。私は少し悲しかった。


「じゃあ、久しぶりに、俺らと食べるか」
「えっ、宜しいですか」
クリストフの言葉にあのエルダが赤くなっているんだけど。

結局お邪魔虫の私も一緒に食べることになった。別の方々、それも友達のお兄様たちとご一緒すれば、フィル様のことを少しは忘れられるかもと私は思ったのだ。


「場所取りは大変だったぜ」
そして、もう一人、場所を取ってくれていた生徒会会計のベッティル・ポールソン伯爵令息が自慢げに言われた。

「ご苦労様。その代わり肉定食持って来てやったぞ」
クリストフ様が答えられる。

席は生徒会長のイェルド様、イングリッド、ベッティル様。その向かいが私で、エルダ、クリストフ様だ。

「あれ、君は」
ベッティル様が私に聞いてこられた。

「彼女がかの有名な、末尾がeのアン嬢さ」
クリストフ様が紹介して頂けたんだけど。

「ああ、君が。あの一撃で倉庫を爆破したって言う」
ベッティル様が頷かれるんだけど、ちょっとそれは・・・・。

「ベッティル。それは淑女に向かって言う言葉じゃないんじゃないか」
クリストフ様が注意してくれた。

「確かに。ごめんごめん。どうしても俺はがさつだから」
ベッティル様が謝られた。その顔がどこか見覚えがある。

「あれ、どこかでお会いしたことがありますか」
「いや、俺は初めてだな。俺の父親に会ったんじゃないか」
「お父上ですか?」
「彼の父親は魔導師団長をやっているんだ」
イェルド様が答えてくれた。

「ああ、ヴィルマル様ですね」
よく見るとベッティル様はヴィルマル様と雰囲気も似ている。

「親父もがさつなところがあるだろう」
「そんなことはないですよ。色々お世話になっているので」
だって、ヴィルマル様がいらっしゃらないと、ガーブリエル様を呼ぶのに、あの爆裂魔術の攻撃を受けなければいけないのだ。私には絶対に無理だと思っている。

「親父がやることってろくなことがないと思うけどな」
「そんな事ないですよ。師団長は皆に好かれておられますし」
「へえええ、いつもはガーブリエル様の世話係だって豪語しているけど」
「まあ、そうなのですか」
そう言いつつ、確かにわがままなガーブリエル様の面倒見られるのは魔導師団長くらいだと思う。

私達の横ではイェルド様はイングリッドと仲良くしていらっしゃる。あのイングリッドが少しお淑やかなんだけど。その前の二人も、エルダの挙動が少し変だ。
更にその私の視線の先で、仲良さそうにご飯を食べているフィル様と聖女が見えた。
やっぱり、あの二人は結ばれるように出来ているのかも。
他の人と食べたら気分転換になるかなと思ったけれど、なんかカップルばかり目についてそうでもないみたい。私の前はがさつなベッティル様だし・・・・。


「どうしたんだ。食が進んでいないけど」
でも、そのベッティル様が心配して声をかけてくれた。その声に、カップル2組も心配そうに私を見てくれた。

「いえ、何でもないんです」
私は慌てて食べだした。お邪魔虫が目立ってはいけない。

「そうか、心配事があるならば、先輩の俺が聞くよ。やはりイングリッドが怖い?」
横目で隣のイングリッドをちらっと見て小声でベッティル様が聞かれた。

「えっ、そんな事は」
「正直に言えば良いんだよ。俺は少し怖い!」
えっ、なんでイングリッドが怖いんだろう。それはイングリッドは突飛もない行動をとることはあるが、貴族だと威張ることもないし、平民の私のことをとても心配してくれるのだ。

「なにか言いました。聞こえているんですけど」
じろりとイングリッドがベッティル様を睨みつけた。
「いやいや、気のせいだよ」
ベッティル様が愛想笑いをする。
なんか昔、イングリッドといろいろあったんだろうか?

「んっ?」
私はベッティル様のお皿の上にブロッコリーが横に避けられているのが見えた。

「ベッティル様はブロッコリーが苦手なんですか」
「いや、実は正直に言うとそうなんだ」
頭をかいてベッティル様が白状された。

「そういえば、フィルの嫌いな人参を食べさせたんだって。俺もアン嬢に食べさせてもらえたら、食べられるかも知れないかな」
期待した目でベッティル様が見てくるんだけど。

ええええ!

ベッティル様は伯爵家令息だ。お貴族様相手に食べさせるのは良くない気がするんだけど。

なんかその横でイングリッドが必死に作業しているように見えたんだけど。ブロッコリーにいっぱい辛子を塗っているような。

「頼むよ。ほら、アーン」
ベッティル様が口を開けた途端に、イングリッドがその辛子だらけのブロッコリーをベッティル様の口の中に突っ込んだのだった。

「ぎゃ」
その瞬間にベッティル様は真っ赤になって、必死に水を飲みだしたのだ。

「し、死ぬ、辛子で死ぬ」
のたうち回っておられた。私は唖然とその様子を見ていた。

「イングリッド、何すんだよ」
「いたいけな少女のアンに食べさせてもらおうなんて1万年早いのよ」
イングリッドは言い切った。

「何も辛子つける必要ないだろう」
ベッティル様は必死にピッチャーから水を入れて飲んでいる。なるほど、こういうところが、ベッティル様がイングリッドを苦手にしているところなんだ。

「本当にどいつもこいつも何考えているんだか。そう思われますよね。イェルド様も」
「まあ、そうだな。そもそも18にもなって、好き嫌いあるのが信じられないよな」
「えっ、お兄様もトマトが・・・・痛い」
何か言おうとしたエルダが悲鳴を上げる。

「クリストフ様。兄が蹴飛ばすんですけど」
横のクリストフに泣きつくエルダの斜め前では相変わらず、ベッティル様が、コップに必死に水くんで飲んでいる。
でも、ピッチャーが空になった。

「まだ足りませんか?」
私が聞くとベッティル様が喉を掻き毟って頷いた。

私は立ち上がると自分のコップをつかんで飲ませてあげようとした。

べっティル様は口を上に向けて開けていた。

私がコップをベッティル様の口につけようとした時だ。

ズボッと言う音とともにベッテイル様の口に大きな辛子のチューブが突き刺さっていたのだ。

「ギャーーーーー」
次の瞬間ベッティル様の悲鳴が食堂中に響いたのだ。

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