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第一部 学園始動編 モブでなく悪役令嬢だと判りました

入寮に遅れそうになってお友達が出来ました

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頑張った甲斐があって、私はなんとか王立学園に合格した。

母さんは私が王都に行くことにあんまり賛成はしてくれなかった。いや、はっきり言って反対してきた。でも、何故? 王立学園はこのオースティン王国の最高学府だ。16歳になる年から18歳になる年まで3年間、貴族平民関係なしに学ぶ。学費は親の収入によって変わってくる。うちみたいに貧しいと、原則無料だ。
王立学園は、優秀な者を集めて将来の国の繁栄に繋げていくために、初代国王陛下が建設された学園なのだ。その卒業生の多くは官僚や魔術師になって国を支えていた。この学園に入れれば将来は安泰なのだ。

でも、この学園に通う子供の多くは貴族の子弟、あるいは官僚や裕福な商人の子弟で、純粋な平民の子は少ないそうだ。私みたいな平民が行っても虐められるだけだって母さんは言うんだけど。
でも、私もこの国で生きていく限り、いつか職を得て働かなければいけない。それなら王立学園を卒業するのが一番だと母さんを必死に説得したのだった。

母さんは女手一つで私を育ててくれた。家は仕立物の内職で生計を立てていたのだ。
私も物心ついた時から出来る限り色んな事を手伝ってもいた。母さんはこの町では、仕立物の腕は良いと評判で庄屋さんのお嬢さんとか男爵様のお嬢様の衣装を仕立てていた。どうやら将来的にはその仕事を継いで欲しいみたいだった。でも、私は、せっかくゲームの世界に転生したのだから、出来たら学園で思いっきり青春してみたかったのだ。
本当に我儘娘だった。
幾晩も頼み込んでなんとか許してもらった。ただし、長期休みの時は必ず帰ってくるように念を押されたのだけど。


王都へは乗合馬車で丸一日かかる。朝8時に出て、夕方の17時に到着予定だ。

馬車ターミナルからはスクール馬車が出ていて学園まで10分だ。
最終は20時まであるのは確認済だ。まあ、最悪6キロくらいなので歩いても1時間位だ。

まあ、あまりに遅いのは怒られるけれども、それくらいなら許させるだろう。

私は乗合馬車の旅を旅を楽しんだ。

6頭立ての馬車に乗っている人は8名。王都の孫に会いに行くという近所の年配の夫婦のゴディバンさんと王都に仕入れに行くという衣服店の店主のマローさんが私の連れだ。
本来なら母さん自ら来たかったみたいで、それはもう丁寧に3人に頼んでいた。
保護者が3人もいるというのもな、と思わないでも無かったが、でも、1人で乗るよりも、4人のほうが楽しかった。

私は街を出るのも初めてで見るもの成すもの珍しかった。まあ、前世でも閉じこもりだったから、あんまり旅行なんてしたこと無かったし・・・・

一面に広がる菜の花畑に感動し、王都に流れ込む、オースティン川に感動した。

「ねえねえ、ゴディバンさん。海が見えるわ」
「あらあ、アンさん、あれは湖よ」
「えっ! そうなの?」
見る限り対岸が見えないから私はてっきり海だと思ったのだ。

「オースティン王国は南を除いて内陸国家だからね。海はないよ」
マローさんにも言われて私は赤くなった。

「まあ、ここだけの話だけど、私も初めて王都に出た時にアンちゃんと同じように、海と間違ってみんなに笑われたけどね」
マローさんが笑ってフォローしてくれた。

「なあんだ。私だけかと思ったわ」
私はホッとした。

「まあ、アンちゃんみたいに大声では言わなかったけどね」
「もう、マローさんは意地悪ですね」
私は軽くマローさんを叩いていた。

馬車の旅は楽しかった。
でも、やはり馬車の旅だ。どうしても行程が遅れる。
結局馬車ターミナルに着いたのは18時前だった。確か、学園から来た書面には入寮は18時前までにするように書かれていたんだ。これじゃあ少し間に合わない。
3人にお礼を言って、慌てて学園の馬車に乗せてもらう。

「えらく遅いんだな。見ない顔だけど、新入生かい」
御者のおじさんが聞いてきた。どうやら乗っているのは私だけだった。やはり皆もっと早く来るみたいだった。遠方の子は前泊していたみたいだ。

「はい、そうなんです」
「そうか、生徒会長が厳しい人だからね。ギリギリだと色々言われるかもしれないから、覚悟しときなよ」
「はい」

私が学園の前で馬車を降りると、もう18時を回っていた。

でも、暮れなずむ、学園の入り口はとてもきれいだった。

「凄い」
私は感動した。

ゲームの中とおんなじだ。これから3年間、私の生活が始まるのだ。

「お嬢ちゃん。早く行きな」
御者のおじさんに注意されて私は荷物を持って慌てて駆け出した。
でも、荷物は重い。

「遅い!」
男子寮と女子寮の間にテントが張られ、そこにイライラして立っていた男の人がいた。

「アン・シャーリーだな」
「はいっ、最後がeのアンです」
「何だと!」
男の人がまじまじと私の顔を見た。
しまった。怒っている人にこれを言ってはいけなかったんだ。
私が後悔した時だ。

それを聞いて男の横にいた女の子が吹き出した。

「お兄様。時間がないわ。寮のことは私から説明しておくから、この子はもう連れて行くわね」
「え、まあ、そうだな。最後がeのアン嬢、次からは遅刻はしないように」
「はい、判りました」
最後に注意されて私は解放された。

「ありがとう助けてくれて」
「どういたしまして。でも、あなた最高ね。怒っているお兄様にあんなこと言うなんて」
「うーん、ごめんなさい。私、ちょっと人の心読めないことがあって」
そう、いつも母さんには注意されるのだ。

「何言っているのよ。人の心なんか読めたら超一級の魔術師よ」
「そらあ、そうだけど。まあ、魔力のほとんど無い私には絶対に無理ね」
「私もそこまでは魔力はないわよ」
そう言うと少女は姿勢を正した。

「最後がeのアン。私はエルダ。私も1年なの。よろしくね」
エルダが手を差し出してくれた。
「エルダね。宜しく」
私はその手を握った。

「良かった。ちゃんと知り合いが出来て。私はアベニウスから来たの。学園に知り合いは一人もいなくて」
「そうなんだ。私も友達が出来て良かったわ。私も南から来たの。王都にはあんまりいたことがなくて」
「えっ、エルダもそうなの?」
私は不思議に思った。がさつな私と違って優雅な立ち居振る舞いのエルダは、どこぞのお嬢様みたいに見えた。人当たりも良さそうだし、美人だし、前世ならクラスでもモテそうだった。地味でコミュ障の私と違って、女友達も多そうなのに。地方の名家の出なんだろうか?

私は荷物を部屋に置くと、制服に着替えて、閉まりかけの食堂に慌ててエルダと行った。
そこで、私はエルダが、2人兄弟なのを聞いた。私が一人っ子でアベニウスの街のことなどをペラペラ話していたのだ。この学園で初めて友だちができて私は浮かれていたのだ。そうこの学園に多くのお貴族様が通っているなんて、すっかり抜けていたのだ。

その御蔭で、翌朝私はいきなりお貴族様の洗礼を受けることになるのだった。
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