上 下
260 / 309
第五部 小国フィーアネンの試練編

リーデン伯爵令息がやってきました

しおりを挟む
私達はサンデルが来なかったので、その日はのんびりと過ごせたのだ。
少なくとも私は。

カトリーナとスヴェンはいつ、前侯爵の弟が仕返しにやって来るかと戦々恐々としていたが、来れるわけは無いのだ。

「フランさん。確かに新しい貴族年鑑にはサンデル夫妻のことは全く載っていませんでした」
昼前に汗だくになりながら、スヴェンが帰ってきた。王立図書館まで行って調べてきたらしい。
というか、この国の貴族年鑑くらい最新刊置いておきなさいよ!

「そうでしょう。私の言うことに嘘はないのよ」
私は自信満々に言った。
もっとも心のなかでは間違っていたらどうしようと戦々恐々としていたんだけど、良かった、真実で。

「ありがとう。さすが、フランは違うわ。あの強引な叔父様が尻尾を巻いて逃げて行ったんだもの」
「当然よ。私の目の黒いうちはあんな欲深爺には負けないわ」
私は胸をどんと叩いたのだ。

「でも、何故、サンデル様は侯爵籍を外れたのでしょう?」
「サンデルの妻が、平民だからじゃないの? そうか、あのサンデルの見た感じから言って金使いが荒そうだから横領かなんかやって、前侯爵に勘当されたんじゃ無い? 
でも、スヴェン、そもそも、あんた、お父さんから何か聞いていないの?」
「すみません。私は父が亡くなる前は隣国に修行に出ておりまして」
私の言葉にスヴェンは言い訳してきた。

「そうなんだ。でも、執事の修行をしてきた割には、肝心なところが抜けているのね」
私の言葉にスヴェンは傷ついたような顔をした。
しまった。また、思ったまま口から言葉が出てきてしまった。話すことは気を付けるように散々注意されてきた気がする。

「申し訳ないとしか言えない」
とスヴェンは謝ってきた。

「いや、別に謝って欲しいわけではないけれど。ここからカトリーナを守るためにはあなたがしっかりしないと」
「それは言われるまでもない」
力強くスヴェンは頷いてくれたんだけど。

「しかし、フランさん。このままサンデル様が引き下がるでしょうか?」
「引き下がるわけ無いでしょ。サンデルとしてはさっさとカトリーナを片付けてこの家を乗っ取りたいのよ」
「えっ、でも、叔父様は私の意向を無視してそんな事はできないってフランは言ったじゃない」
慌ててカトリーナが聞いてきた。

「あの手の男は自分の間違いをそう簡単に認めないわ。それこそ、正しくなくても自分のために強引に何かしてくるわよ。だからカトリーナも気をつけないとだめよ」
「わかったわ。私は絶対にフランから離れないようにするわ」
カトリーナが頼ってくれるのは嬉しいけれど、それだけでは無理だろう。何しろあの手の男はいろんなことを強引に押し進めてくるのだ。生半可な対抗策では押し切られる。

「次はあんたの相手のそのガマガエルに似た商人をつれて来るんじゃない」
私はカトリーナを見ていった。

「えっ、そうなの。私は会いたくないわ。フラン、あなたが会ってよ」
嫌そうにカトリーナが言って私にすがって来るんだけど。

「私が? 私もガマガエルには会いたくないわよ。それに私がカトリーナから離れたらもっと強引な手段に出るかもしれないわ」
「強引な手段とは」
「ガマガエルがカトリーナを力ずくで自分のものにして既成事実を作るとかしかねないわよ」
「えっ、そんな」
カトリーナが真っ青になった。

「フランさん。カトリーナ様の前でなんということを言うのですか」
スヴェンが怒って言うが、ここは最悪の事とをはっきりと伝えておいた方が良い。

「スヴェン。何を甘えたことを言っているのよ。あの手の男はやりかねないわ。ちゃんとカトリーナにも覚悟しておいてもらわないと、いざという時に対処できないでしょ。あなたはそういうときに対処できるの?」
私が聞くと

「当然です。もしそんな事をしてくれば燃やしてやりますよ」
スヴェンは頷いてくれたが、どうだかとても怪しい。スヴェンはどう見ても腕が立ちそうにないんだけど。

「それよりもカトリーナ。誰か貴族であなたの味方になってくれる人を知らないの? いたらその人を味方にしておいたほうが楽よ」
私が提案したが、

「母方のお祖父様もお祖母様も亡くなっているし、母の兄弟はあまり知らないの。そもそも、母は隣国のバイエフェルトの子爵家の出身だったからあまり繋がりがなくて」
「スヴェンのお兄様の仕えているリーデン伯爵家の方は」
「そういえば、エルベルトお兄様なら力になってくれるかもしれないわ」
嬉しそうにカトリーナが言った。

「そうでしょうか」
何かスヴェンが乗り気でない。実の兄の仕えている相手なのに何故なんだろう?

「何か問題でもあるの?」
私が聞くが、
「いえ、ここではちょっと」
スヴェンが口を濁した。

どういうことなのだろう?
カトリーナは昔からエルベルトと親しいらしい。それがスヴェンは気に入らないんだろうか? でも何かそれだけでなくて、スヴェンは掴んでいるみたいだったが。

まあ、明日にでも手紙を書くとカトリーナが言っているのでじきに判るだろう。




そして、翌日になった。

優雅な朝食を取り終えて、今後どうするか、いろいろ相談していた時だ。

リンリンリンリン

と珍しく、離れの呼び鈴が鳴ったのだ。呼び鈴があるなら、元々鳴らせよ、と私は言いたかった。


私が扉を開けるとそこには高価な服を着た顔立ちの整ったいかにも貴族の御曹司といった感じの男が立っていたのだ。

「エルベルトお兄様」
私の後ろから喜んで出てきたカトリーナが扉をさらに開けて駆け寄ろうとした時だ。

「エルベルト様」
扉の後ろからアニカが現れるや、エルベルトの腕にしっかりと腕を絡ませたのだった。

それを見てカトリーナは完全に固まってしまった。アニカはエルベルトの腕にデカい胸をこれでもかと押し付けていたのだ。

私はそれを見て完全にアニカを敵認定したのだった。


*******************************************************

アニカの行いは、カトリーナではなくてフランの唯一のコンプレックスを直撃しました。
どうなるアニカ?
続きは明朝です。

フランに前同じ行いをしたピンク頭がどうなったか詳しく載っているこの物語の第一巻は全国書店で絶賛発売中です。手に取って頂けたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 334

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。