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1巻

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 ――ガツンッ!
 大きな音が辺りに響き渡る。
 私と将来の義理の弟、シルヴァン第二王子が思いっきり頭をぶつけた音だ。そして、なんとその時に私の頭の中にすさまじい量の記憶が流れ込んできたのだ。
 あまりのことに、私はそのまま意識を失ってしまった。


 私はフランソワーズ・ルブラン。ルブラン公爵家の令嬢で、この四月からは王立学園の高等部に入学する十六歳だ。
 ここ、エルグラン王国の人口二千万人のうち、〇・一%未満の貴族の中でも最高峰の立場にいる。ものすごく恵まれていると思う。
 その私がなぜ、ヴァン――シルヴァンと頭をぶつけたかというと、王宮の屋内でヴァンと剣術の稽古をしている時に、落ちていた紙に足を滑らせてしまったからだ。それだけならば転ぶだけだったのだが、慌てたヴァンが私を受け止めようとして前に出たところ、私が転ぶまいと浮遊魔術を使って、私の頭とヴァンの頭がもろに衝突してしまった結果だった。
 か弱い私はその衝撃で気を失ってしまったのだ。
 いや、違う! 頭をぶつけるくらいならいつものことなので、びくともしない。
 熱を出したのは、前世の記憶が大量に私の頭に流れ込んできたからだ。その記憶量が多すぎたので知恵熱を出して、三日間も寝込んでしまった。
 自慢じゃないが、私は熱を出した経験がほとんどなくて、こんなことは初めてだった。
 王宮で倒れたので、父や母も慌てて飛んで来て大変だったと後で聞いた。
 でも、私の頭の中はそれ以上に大変だった。


 話すと長くなるが、前世、私は日本という国に住んでいた。
 そこでの記憶は十六歳までしかない。病弱だったようで、流行病にかかってあっさりと死んでしまったらしい。前世で病弱だったから、逆に今世は健康体なのだろうか?
 思い出した記憶の中で、フランソワーズ・ルブランという私の名前がどうしても気になってしまった。日本での名前は全然違うし、外国の友人もいなかったはずだ。でも、何かが引っかかる。それに、鏡に映るこの顔も、どこかで見たことがある。
 きつそうな目元、肩につかないくらいのストレートの金髪、碧眼……

「ああああ!」

 思い出した。そう、私、フランソワーズ・ルブランは、超有名な乙女ゲーム『エルグランの薔薇ばら』の悪役令嬢で、これでもかと言うほど聖女をいじめて断罪されるのだ。
 もっとも、私は主人公の聖女がフランにいじめられて自殺させられるところからいくらやっても進めないので、怒って止めてしまったのだが……

「うっそー!」
義姉あね上!」

 私の大声を聞いて、慌ててヴァンが駆け込んできた。

「大丈夫ですか?」

 心配そうに見てくるが、まさか部屋の外で待機していたのだろうか?
 時計を見たけど、もう真夜中なのに。一臣下が倒れたくらいで王子がずっと傍にいる必要はないだろう!?

「ああ、ごめん。ちょっと変な夢を見ていて。あなたこそ、もう遅いから部屋に帰って寝なさい」

 私は外に詰めてくれていただろうヴァンに言った。

「いや、でも、義姉あね上を傷つけたのは俺だから」
「何言っているのよ。あんなの不可抗力よ」

 暗い雰囲気のヴァンの言葉を私は笑い飛ばす。

「そう言ってもらえると嬉しいんだけど、本当にごめん」
「気にしないでいいわよ」

 転んだのは私だし。
 まあ、王宮内で稽古したことを後でじっくりと怒られるのは確実だったが……と言うか、そもそも王宮の屋内で剣術の稽古をすること自体がおかしいのだ。公爵令嬢のやることではない、といつも礼儀作法のフェリシー・ローランド男爵夫人や王妃様に怒られている。

義姉あね上、もし、今回の件でどこか変になっていたら、俺が一生面倒見るから」

 真剣な顔でヴァンは言ってくれた。

「何言っているのよ。私に何かあったら、婚約者のアドに責任取ってもらうわよ。もっとも、お見舞いには来てくれていないけれど」

 ヴァンはずっとそばにいてくれるのに、婚約者が一度も見舞いに来ないってどういうこと? 今度、嫌味を言ってやろう。
 私は決意した。そう、公爵令嬢の私は第一王子のアドルフの婚約者なのだ。
 あの馬鹿は私がいないのをこれ幸いと、また遊び回っているに違いない!

義姉あね上、あんな兄貴なんて捨てて俺に乗り換えてよ」
「はいはい、もう子供は寝ている時間よ」
「……もう俺は十四歳で、大人だって言うのに」

 ヴァンが精一杯背伸びして言う。そう言うことは私の身長を抜かしてから言ってほしい。そう言ったらまた怒るから言わないけれど。まあ、ヴァンは私にとって、実の弟のジェドと並ぶかわいい弟分だった。


 ☆


 なんやかんやで春休みも終わり、今日は王立学園の高等部の入学式だ。
 春休みの間、私はゲームの悪役令嬢に転生してしまったことについて、どうしようかと悩みまくった。
 ……私なりに。
 そう、一応は私なりに頑張ったのだ。でも、ゲームは途中で嫌になって止めてしまったし、内容が良くわからない。
 私は頭を抱えてしまった。こんな風になるならもっとちゃんとゲームをやるべきだった、と後悔したけど、今更どうしようもなかった。
 確か、ゲームのフランは聖女をいじめて断罪される。聖女が私の婚約者である第一王子、アドルフと仲良くなって、それに嫉妬していじめるのだとか。
 でも、そもそも私は積極的にアドと結婚したい訳ではない。王妃教育はかったるいし、特に礼儀作法の授業が最悪だ。首を曲げる角度がどうとか、本当にどうでも良い。それよりは余程、騎士団に入って戦っていた方が良い。
 あの馬鹿王子の面倒を見るのも疲れたし、聖女にのしを付けてあげたいくらいだ。というか、アドと聖女がくっつくなら、礼儀作法の授業をもう受ける必要はなくなる? それって私にとって最高のことではないだろうか? 絶対にその方が良い。
 そう考えて、私は何もしないことにした。そんなことを考える時間がもったいない。
 せっかく、今世は健康なのだ。前世は病気でほとんど学校に通えなかった。今世こそ、友達をたくさん作って、有意義な青春を満喫してみせる。
 そのためには、礼儀作法にうるさい貴族令嬢たちの中にいるよりは、正直で人のい平民の中で学生生活を送った方が、絶対にいいはずだ。
 中等部には貴族しかいなかったが、高等部からは平民も入ってくる。王立学園は建前で身分の平等をうたっているが、基本的なクラス分けは子爵以上の生徒がAクラス、男爵家の生徒がBクラス、CからEクラスが入試の成績順の平民クラスになっていた。
 公爵家の権力と、今までつちかってきたコネ、事務処理能力の高いヴァンの力を借りて、『王立学園在学中は身分に関係なく平等である』という初代国王陛下のお言葉を盾に、私は強引に自分を平民のEクラスに組分けさせた。
 学園長は最初は渋っていたが、ヴァンが二言三言ささやくと、青くなって認めてくれた。ヴァンはいったい何を言ったのだろうか?
 全員が制服を着ているので、公爵令嬢と言えども見ただけではわかるまい。
 前世は身分制なんかなかったし、私は平民に対する偏見なんか全然無い。良い子がいたらどんどん友達になろうと、私は意気込んで入学式に挑んだ。


 入学式は自由席のようだったので、わざと最後の方に行って適当なところに潜り込むことにした。前もって座っていて貴族の子たちに見つかったら、公爵令嬢だと周りにわかってしまう。それで平民の子に避けられたら嫌だもの。
 青い髪の女の子と赤い髪の女の子の間が空いている。三人揃えば青黄赤で信号機みたいじゃない!

「すみません。ここ、空いていますか?」
「ええ、空いていますよ」

 青い髪の女の子の方が取っつきやすそうだったので、その子に声をかける。
 そして座ろうとした時だ。横の赤い髪の女の子が驚いたようにこちらを見た。
「なんで悪役令嬢が」って言っていたように思うのだけど、気のせいだろうか?
 ……ここでこの子に話しかけるのは得策ではなさそうだ。
 再び、もう一人の青髪の子に話しかける。

「私はフランソワーズ。フランって呼んでね。あなたは?」
「私はノエル・ハーベイ。よろしくね」

 よし、これでもう絶対に敬語は使わせない。私の身分をバラしたら国外に飛ばすと、先生たちにも釘を刺しておいた。これでうまいこと行くはずだ。絶対に。

「あなたは?」

 そのままの勢いで赤い髪の子にも言う。そう、勢いが大切なのだ。

「私はメラニー・バロー、男爵家の者です」

 私は思わず、舌打ちしそうになった。なんで敬語でしゃべるの? せっかくフランクに話しているのに! それに爵位を言うなんて!

「えっ、あなたの家、バロー商会を経営しているの?」

 しかし、ノエルは別のところが気になったみたいだ。

「そうだけど……」
「すごいじゃない! 今、庶民に人気の化粧品とかを売り出しているバロー商会でしょ!」
「ええ、まあ」
「えっ、何々? バロー商会ってそんなに有名なの?」

 私は良くわからないので聞いた。入学したらしばらく王妃教育が中断されるので、その集中講義が忙しくて最近は情報を集められていなかったのだ。特に礼儀作法の授業が!

「王都ではすごく人気なのよ」
「そうなんだ。今度案内してよ!」

 遊びに行くいい口実になるわね、と内心私はほくそ笑む。

「えっ、いや、あなたは……」
「メラニー、よろしくね」

 メラニーが余計なことを言いそうになったので言葉をかぶせた。

「わかりまし……」
「私のことはフランって呼んでよ」

 メラニーが敬語で話そうとするのを、強引に握手して直させる。

「フラン様」
「フラン!」
「えっ、でも」
「学園は全て平等なのよ!」

 私は自信満々に言いきった。

「それよりも、私たち三人揃ったら青黄赤で信号機みたいじゃない?」

 メラニーは私が言った瞬間、こいつ馬鹿じゃないのって目で見てきた。何よその目は。
 でも次のノエルの一言で私は失敗を悟ったのだ。

「信号って何?」

 そうだった。この世界には信号がないのだ。私はすっかり忘れていた。

「えっと……」

 私がどう言い訳しようかと必死に考えようとした時だ。

「皆さん、静粛せいしゅくに!」

 先生の声で助けられた。
 しかし、壇の真ん中に立っていたのは見たくもない、フェリシー・ローランド男爵夫人だった。

「げっ!」

 なぜ彼女がここにいる? 王宮の礼儀作法の先生なのに……

「皆さんは紳士淑女なのです。静かにするべき時にはしなさい。特に一年生。今年は一年生の中には第一王子殿下の婚約者もいらっしゃるのです。恥ずかしくない礼儀作法で生活するよう、よろしくお願いしますね」

 あのばばあ、嫌味ったらしく……! どうせ、私の礼儀作法はひどいですよ! 
 私はフェリシーをにらみ付ける。許されるなら思いっきり舌を出したかった。そんなことをしたら後が怖いので止めておいたが。
 メラニーは呆れた顔をして私を見ていた。
 絶対にこいつは何か知っている。信号にも動じなかったし。後でじっくりと問い詰めねば! と私は決心したのだった。


 それからの入学式はとても退屈だった。学園長の長ったらしい話の後は、生徒会長が壇上に上がった。

「きゃああ! 殿下よ!」
「第一王子様だ……!」
「アドルフ様!」

 女生徒たちが黄色い声を上げる。
 そう、生徒会長は婚約者のアドルフだった。こいつは見た目だけは麗しいのだ。見た目だけは。
 しかし、私と言う婚約者がいながら、女と見るとすぐに声をかける女たらしだし、婚約者としては最悪だった。でも女はその見た目に騙されるのだ。
 私も最初は騙されたもの。
 それに、アドは腹黒だ。何度こいつにめられたことか。
 礼儀作法の授業をサボろうとしたらチクられて時間が倍になったり、王妃様が苦手だとぽろりとこぼしたら、それが十倍くらいに大げさに伝わってお茶会の時間にブツブツ言われたりと、それはもう大変だった。
 だから、アドの前ではできる限り本音を言わないようにしている。
 見た目だけは良いからいろんな女がキャーキャー言っているが、現実は違うわよと声を大にして言いたかった。

「新入生の皆さん。この学園に入学おめでとう」

 アドが話し出すと、皆、目を輝かせて話を聞き出した。どの道こいつのことだから、どうやったら女の子に受けるかしか考えてないのに。

「この学園に入学できたということは、皆さんは今後この国を支えてくれる重要な人物であるということです。自分に自信を持って下さい。そして、外に出れば身分の差というものもあるかもしれませんが、この学園の中では皆平等です。貴族の方も平民の方も、ここでは平等なのです」

 ええええ! こいつもたまには良いことを言うじゃない。私は少しだけアドを見直した。

「そんなの建前よ」

 隣のメラニーがボソリと言った。小さな声だったので、聞こえたのは私だけだろう。
 そうか、建前なのね。危うくまた、騙されるところだったわ。
 頷いた私を見て、メラニーは胡散臭うさんくさそうな顔をしている。
 私は日本にいたから身分なんてあんまり気にしていないんだって……そう言いたかったが、皆の目があるのでここでは言えなかった。


 その後はクラスごとに教室に移動した。私は平民のEクラスのはずだ。
 しかしだ。私の左横にオーレリアン・ブルボ子爵令息がいる。
 ええええ! こいつ、王子の側近の一人じゃなかったっけ? なぜこいつがここにいる?
 オーレリアンは微笑んでこちらに会釈えしゃくしてきたが、私は無視することにした。
 後ろはメラニーで、右横はノエルだ。前はがたいの良い男がいた。おそらく騎士を目指している。

「あなた、体格良いわね」

 私は早速前の男に声をかけた。左横と後ろの視線が痛いような気がするが、無視だ。
 今世では、前世でできなかった青春をするのだ。そのために転生してきたのだから、と私は勝手に思うことにした。

「えっ、そうか? まあ、俺は一応、騎士を目指しているから」
「ふーん。そうなんだ。でも、なぜ、騎士学校じゃなくてこの王立学園なの?」
「剣聖と呼ばれているクレール・デュポア様がこちらで教えられているって聞いたから、こっちを選んだんだ」
「ああ、クレール様ね」

 嫌な名前を聞いてしまった。このクレール、剣の腕は最高だが性格が悪いのだ。なぜか私の剣術の師でもあって、いつも立ち上がれなくなるまで叩き潰される。女だからって一切手加減してくれない。まあ、それは良いんだけど……

「お前、クレール様のことを知っているのか?」
「名前だけ聞いたことがあるのよ。私、フラン。よろしくね」
「俺はアルマン・ルールだ。父親は騎士をやっている」

 私の自己紹介に、アルマンは普通に返してくれた。よし、ここもうまくいった。

「へえ、そうなんだ。どこに所属しているの?」
「知っているかわからないけど、中央騎士団だ」
「えっ、それって、ルール第一騎士隊長のこと?」

 結構強い騎士だったはず。二、三回手合わせしたことがある。その息子か。なんか関係者の子息が多いんだけど。

「お前、親父を知っているのか?」

 アルマンは喜んで聞いてきた。

「えっと……名前を聞いたことがあるだけよ」

 私は笑って誤魔化した。

「そうか。親父ってそんなに有名だったんだ」

 アルマンが感動している。

「誰から聞いたんだ?」
「えっ、父だったかな」

 私は突っ込まれて適当に答えた。これが失敗だった。

「フランの親父さんは何してるんだ?」
「王宮に出入りしてるんだけど……」

 アルマンの問いに私は口を濁す。

「商人か何かか?」
「良くわからないのよね……」

 困った。細かい設定までは考えていなかった。

「お前、それは親に失礼だろう」

 確かに、普通は親の職業くらい知っているはずだ。私は少し青くなった。

「あ、あなたね……!」

 アルマンの声に、その前の席から女生徒が怒りの声を上げた。
 えっ、ジャクリーヌ・シャモニ伯爵令嬢!?

「ああああ!」

 私は慌ててジャクリーヌに駆け寄ると、低い声で警告する。

「良いこと。私が公爵令嬢だとは絶対にばらさないで」
「は、はい」
「よろしくね」

 戸惑うジャクリーヌににこりと不敵に笑うと、私は席に戻った。
 なぜかオーレリアンとメラニーが頭を抱えている。私は知っている高位貴族は無視して、いや、脅して黙らせて、必死に平民の友達を作る努力をしたのだった。
 しばらく経つと、教室に体格のいい先生が入ってきた。ゴリラに似ていると思ったのはここだけの秘密だ。

「みんな、おはよう!」
「「「おはようございます!」」」

 さすがに一年生。元気が良い。一番声が大きかったのはおそらく私だが。

「ん、元気だな。元気が良いのは良いことだ」

 と言ってクラスを見渡しつつ、なぜか私を見てぎょっとした顔をするのは止めてほしいんだけど。元々、私がいるのは知っているはずだし。なぜ、驚く?

「今日から一年間このE組の担任をすることになったベルタンだ。科目は魔導実技を教えていて――」

 それからしばらくはこの学園の注意事項が続いた。
 こういった説明って退屈よね、と私が大きな欠伸あくびをした時だった。
 もろに担任と目が合ってしまった。
 さすがにやばい。

「そこ、そんなに退屈か?」
「いえ、そのようなことは……」

 私の誤魔化しに、担任は更に何か言いたそうだったが、私の地位を考えたのか首を振った。

「まあ、つまらん説明はここで終わる。次は順番に自己紹介をしよう」

 先生は笑顔で皆を見渡す。

「じゃあまず俺から、名前はアラン・ベルタン。花の独身三十歳だ。現在嫁さん募集中。一応、親は男爵だが、三男なので爵位を継ぐ予定はない。職業は教師なので収入はある程度はある。皆のお姉さんで婿探ししている人はぜひとも紹介してほしい。以上」

 なんとも型破りな自己紹介だ。これで皆は緊張が解けたのか、ほっとした空気が流れる。
 私はメモを取り出した。ここで話していたことがきっかけで友達になれるかもしれないし、しっかり覚えておかなくちゃ。
 なんとしても、早死にした前世の分まで今世は青春をエンジョイするのだ。

「私はオリーブ・アルノーといいます。よろしくお願いします」

 次の子は先生とは正反対で、とても大人しそうな緑の髪をした女生徒だ。頭を下げるとそのまますぐに座った。
 座る時に私をチラッと見た気がしたんだけど、なんでだろう? 知り合いではないはずだし。
 そのまま、次々に自己紹介が続いていく。

「私はジャクリーヌ・シャモニ、伯爵家の令嬢です」

 自分で令嬢って言うか? と突っ込みたかったが、余計なことを言うとバレるので黙っていた。こいつは私のことをバラしかねない。

「Eクラスなんてどうなることかと思いましたけど、皆さんとご一緒できて嬉しいです」

 最後は私を見てニコリと笑った。
 ええい、無視! ハイ次の人。
 というか、ここは平民の中でも一番下のEクラスなのに、私以外にも貴族が半分くらいいるのはなんでだろう?

「俺はアルマン・ルール。父は中央騎士団で騎士をやっていて、自分も将来騎士を目指しています。俺も先生と一緒で彼女募集中です」

 私の前のアルマンが自己紹介した。元気があってよろしい。
 中等部は貴族しかいないから腹の探り合いみたいな自己紹介で面白くもなんともなかったけれど、平民が多い高等部のEクラスは、結構バラエティに富んでいる。
 さて、私の番だ。

「名前はフランソワーズで、フランって呼んでほしいです。父は王宮に出入りしています。勉強は苦手で、できたらやりたくないです」

 そう言って笑うと、皆も笑ってくれた。よし、笑いを取った。

「この学園では思いっきり青春をエンジョイしたいです。ちなみに私も先生とおんなじで彼氏募集中です」

 こう言ってニコっと笑うと、半分くらいの男の子がこっちを呆けて見てくれた。
 いくつかぎょっとした目も向けられたが、人が寝込んでいるのに見舞いにも来なかった婚約者なんか知ったことではなかった。


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