上 下
133 / 309
第三部 ルートン王国交換留学編

客席からナイフが何本も飛んできて私に突き刺さりました

しおりを挟む
「わっはっはっはっはっ」
私は魔王の高笑いをした。散々教皇とかにやった、メラニーの言う所の魔王の高笑いだ。
もう年季物だった。
もう、私は完全にやけだったのだ。


「ふんっ、イネもアルマンもまだまだよな。私を南の島に島流しにしようとするなど。そこまでしようとしなければ、まだ、雑用係としてこき使ってやったものを」
私の周りではアルマンらが私にやられて倒れ伏していた。

「フラン様。一生涯ついて行きます。雑用としてこき使ってください」
そして、急遽捏造されて出て来た第二王子のドミンゴ達は私に跪いたのだ。

「こうして魔王フランはこの世界を千年以上支配することになるのでした」
ルフィナのナレーションで劇は終わったんだけど。こんなので本当にターザンに勝てるんだろうか?
私は疑問しか残らなかった。

「はい。E組の皆さん。そろそろ出番です。準備お願いします」
係の人が呼びに来てくれた。

私達は舞台の袖に案内された。

私達の前はD組だ。私はD組がC組みたいな変な劇をやっていないことを期待したのだが。

「わっはっはっはっはっ」
ちょっと、また魔王の高笑いじゃない!

「思い知ったか、アルメ海賊国よ。わがフランの前に不可能はないのだ」
何か大笑いしているのが、どう見ても私のようにみえるのは気のせいだろうか?

これ絶対に私の海賊退治をモチーフにしてくれている。アルメ海賊国ってどう考えてもアルメリア王国だし、もし、アルメリアの奴らがこれを見たら切れるんじゃないだろうか? と私はルートン王国の未来を少しだけ心配した。

でも、それ以前に、何かどいつもこいつも私を演じてくれるんだけど。

凄くむかつく! それに私はそこまでえらそうじゃないわよ!


そして、最後の私達が1年生のトリなんだけど。

こんなので勝てるのか?
私は思ったのだ。


「では、これより、1年E組の演劇『悪役令嬢フランは魔王になる』をお送りします」
おい、どう考えてもそのままじゃん! 私はメラニーが変えた題名に頭を抱えたくなった。

前半は今までのままだ。

アルマン王子と平民イネの出会いと心の通い合う二人を中心に話が進んでいく。

しかし、それを快く思わない私が登場して

「まあ、何か臭いわ。平民の匂いがするんだけど」
私が叫ぶ。
「本当ですわね。フラン様
「私も匂いましてよ」
「フラン様。ここに平民がおりました」
まあ、これを大半が平民が貴族に扮して、貴族のイネが平民に扮しているのにやるのが肝だとかなんとか、メラニーが言うんだけど、見ただけでは誰が元々平民で、誰が元々貴族なんて判らないじゃない!


それくらいにテオドラ達はうまくなっていた。
「あんたにそう言われてもね」とメラニーに言われたけれど。私は一応、公爵令嬢なんだけど……

「まあ、ニオイのもとを絶たないと」
私が手で合図すると水をガスペルが用意した魔道具で落とす。

イネが水でずぶ濡れになった。

「本当に」
更にテオドラが手を挙げるとまたガスペルが魔道具で水を落とす。

「私も少し」
ジュセニアの声に更に水が……

「あと一つ」
ベロニカの声に更に水がイネに降りかかる。

本当に酷いいじめなのだ。

私は良心の呵責だらけなんだけど……

「酷いわ。さすが鬼のフランよ」
A組の方からシルビアの声が聴こえてくるが、ここは我慢だ。

「まあ、これくらいで良いわ。本当は濡れ鼠も処分したいところだけど」
高笑いを残して私達が去った後にアルマンが出てくるのだ。

「イネス、どうしたのだ。水浸しじゃないか」
そう言うと
「乾け!」
呪文とともに温風魔術を出してアルマンがイネスを乾かした。

「殿下有難うございます」
「誰がこのようなことをしたのだ」
アルマンが格好つけて言うんだけど。

「それは……」
イネスが下を見て言いよどむ。

「言わずとも良い。嫉妬したフランがしたのであろう」
「……」
「すまんな。イネス。私が不甲斐ないばかりにその方に苦労をかけて」
「いえ、殿下もったいないお言葉です」
「イネス」
アルマンがイネスを抱きしめた。
「殿下」
イネスが驚いてアルマンを見た。

「いつか、必ず、フランを断罪する。それまで待ってほしい」
「はい、殿下。私はいつまでも、お待ちしております」
二人は見つめ合って、暗転した。


このまま、どんどんいじめはエスカレートしていったのだ。

私に張られてボロ雑巾のように倒れていたイネスのもとにアルマンが駆け寄った。
「殿下。私、もう耐えられそうにありません」
イネスがアルマンの胸の中で泣き出した。

「イネス、判った。私ももう我慢の限界だ。フランは明日の卒業パーティーで断罪する」
アルマンがはっきり言い切ったのだ。

「でも、殿下、そんな事をして大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。その方への酷い仕打ちは陛下にも報告してある。そこまで言うならば好きにしても良いと父からは言われているのだ」
「でも、公爵家の力は凄いのではありませんか?」
「なあに、騎士団は私に付いてくれるのが決まった。フランの取り巻きの中でも私に付いてくれる者も2、3人いる。明日の卒業パーティーでは必ず断罪は成功するのだ。そうすればその方を私の婚約者に出来る」
「殿下」
二人ははたと抱き合ったのだ。

「わっはっはっはっはっ。何をしておいでなのですか、殿下? このような物陰で下賤な者と逢引とは。それもコソコソと良からぬ事を考えていらっしゃるようですが」
そこに取り巻きを連れて私が登場したのだ。

「な、何を言うのだ。その方こそ、物陰で盗み聞きをするとは下品ではないか」
「盗み聞きなどと人聞きの悪い。私は殿下の側近のオーレリアンから注進を受けてここにわざわざ参ったのです」
「な、何だと、オーレリアン。その方私を裏切るのか?」
「殿下、申し訳ありません。フラン様に脅されて全て話してしまいました」
力なくオーレリアンが言ってくれた。

「ええい、もう良いわ。フラン、その方のイネスに対する凄惨ないじめの数々、証拠は上がっているぞ」
アルマンが私を指差して言ってくれた。

「何をおっしゃっていらっしゃるかわかりかねますわ。大方、殿下の隣の下賤の者のお言葉を信じられただけではございませんこと?」
私は二人を見下して言い切った。

「何を言う。テオドラ嬢、ルフィナ嬢からもはっきりとその旨聞いておるわ」
アルマンが自信を持って言ってきた。

「何を仰るのやら。テオドラ、そのようなことがあったのかしら」
私がテオドラにふると
「いいえ、大方、イネス嬢が大げさに申されているだけだと」
テオドラが笑って答えてくれた。

「な、何だと、その方はイネスがフランに何の罪もないのに水をかけられたと申してくれたではないか」
アルマンが慌てるが、
「殿下のお聞き違いかと」
平然とテオドラが言い切ったのだ。

「ルフィナ嬢、その方はイネスがフランに張り倒されていたと」
「いいえ、そのような事実はございませんわ」
「な、何だと、その方らフランに寝返ったのか」
アルマンが焦って言うけれど。

「何を仰っていらっしゃるやら。殿下ももう少し賢いと思っておりましたけれど、そのような平民の小娘に誑かされるようでは王太子の地位は難しいでしょう。ドミンゴ様」
私は第二王子役のドミンゴを呼んだのだ。平民を王子にする暇はなくて、偉そうに見えるとメラニーの判断でドミンゴが第二王子に急遽成らされたのだ。

「これは兄上、また平民風情の女と仲良くなるなど、好き勝手にしておられますな」
「何故、この場に貴様が出てくるのだ」
アルマンが叫ぶ。
「それは私がお呼びしましたからですわ。殿下は平民風情と愛の巣を築かれたいご様子。南の島の領地が空いておりますから、そちらに移られれば良いのです」
私は冷たく言い切った。

「な、何だと」
アルマンが叫ぶが、

「そうですよ。兄上。後は私が引き継ぎますから」
ガスペルが笑って言ってくれた。

「おのれ。誰かおらんか出会え、出会うのだ。者共、このフランを捕まえるのだ」
アルマンの声に数人の騎士達がかけてきた。

そして、それに合わせて客席から何本ものナイフが投げ込まれて私に突き刺さったのだ。

「えっ?」
私は驚いて自分の体に突き刺さったナイフを見つめていた。
こんなの演劇にはなかったはずだ。一体どうしたんだろう? 私の頭は回っていなかった。

「ふ、フラン!」
側にいたアルマンが叫んだ。

「キャーーーーー」
私を見てイネは悲鳴を上げるとゆっくりと倒れたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

(完)私を捨てるですって? ウィンザー候爵家を立て直したのは私ですよ?

青空一夏
恋愛
私はエリザベート・ウィンザー侯爵夫人。愛する夫の事業が失敗して意気消沈している夫を支える為に奮闘したわ。 私は実は転生者。だから、前世の実家での知識をもとに頑張ってみたの。お陰で儲かる事業に立て直すことができた。 ところが夫は私に言ったわ。 「君の役目は終わったよ」って。 私は・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風ですが、日本と同じような食材あり。調味料も日本とほぼ似ているようなものあり。コメディのゆるふわ設定。

王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~

五月ふう
恋愛
ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。 「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」  ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。 「……子供をどこに隠した?!」  質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。  「教えてあげない。」  その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。 (もう……限界ね)  セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。  「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」    「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」    「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」  「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」  セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。  「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」  広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。  (ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)  セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。  「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」  魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。  (ああ……ついに終わるのね……。)  ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。  「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」  彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。  

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。