上 下
109 / 309
第三部 ルートン王国交換留学編

裏切り伯爵視点1 呪いの公爵令嬢を息子が嵌めようとしました

しおりを挟む
俺はこのルートン王国のヘラルド・コフレンテス伯爵だ。我が家は代々商会を切り盛りしていて、船を使った国外からの貿易を主に手掛けている。

当然海洋国家のアルメリア王国とも付き合いは深かった。

15年前の国王死去と同時に起こった当時の宰相ディエゴ・イエクラ様の反逆の際には、密かにイエクラ様について、大きな利益を上げさせてもらった。

以来我が家の業績は順調だ。国王陛下に取って代わられたイエクラ様は密かに海賊共とも通じているが、当然ながらイエクラ様と親しい我が家の商船が襲われることはめったにない。逆に商売敵の商船をイエクラ様に示唆された海賊共が襲ってくれるので、我が家は順調に商売を伸ばしていた。

そんな俺が計算違いなことと言えば、亡命してきたアルメリア王家の子供たちに我が国の陛下が同情し、断絶していた王家ゆかりのトルトサ伯爵家を復活させて継がせたことと、生まれて間もない王太子の婚約者にその娘のソニアを宛てたことだった。以来、15年間、王太子の婚約者は元アルメリア王女だ。

王太子が即位すれば、アルメリア王国との仲は険悪になるだろう。
そうなった場合に我が家の立場は微妙なものになるかもしれない。それが懸念事項だった。

「しかし、赤髪のジャックもだらしないですな。あんな公爵令嬢に退治されるなど」
我が家に商談に来た造船工房を運営しているカステリア子爵が言った。

ここしばらくの間、急激に販売数が伸びている造船工房で、最新の対海賊魔道具を装備していると噂の工房なのだが、なあに、単に俺と同じでアルメリア王国と通じているだけだ。

そう、売上の一部を国の目を誤魔化してアルメリア王国に上納しているのだ。

「確かに、陸の上でルブランの名前は知られているが、我らの世界の海の上でルブランに負けるなど、余程油断していたのではないか」
俺も頷いた。武のルブランが海軍を率いるなど今まで聞いたこともなかった。ルブランはあくまでも陸の騎士なのだ。

「まあ、ジャックはアルメリアの国王陛下のお気に入りだそうですからな。アルメリア王国からは、出来るだけ早くに裏から手を回して釈放しろと煩くてたまりませんな」
そうなのだ。アルメリアからは矢のような催促が来るのだが、こちらも陛下自らジャックを捕まえたルブランの令嬢を表彰したくらいなのだ。その相手をそう簡単に釈放するわけにもいかなかった。

「そうよ。そこなのだ。頭の痛いところだ。更に近衛を始めとする軍の幹部の多くが、もっと海賊対策のために海軍の増強をせよと言っておるからの」
ルートンの軍部が強くなるのも、何かと面倒だ。

「それと、シルビア王女をアルメリア国王陛下の息子の嫁にという希望も頭が痛い問題ですな」
「我が国は歴史があるだけに、新興のアルメリアには王女の輿入れは反対意見も多い」
「そうですな。勢いから言うとアルメリア王国の方が圧倒的に強いのですが」
カステリア子爵は首を振った。

「帝国がアルメリア王国を応援しているという噂は本当ですか」
「まあ、元々、帝国はアルメリア王国と親しくしていたが、皇帝が殺されて内乱状態になってそれどころではないのではないのか?」
「その話ですが、何でも実は皇帝は生きていて密かに脱出して、内乱を起こした者共を粛清しているという噂を帝国から帰ってきた商船が掴んできたと聞きましたが」
「俺もその話は小耳に挟んだが、本当なのか?」
俺は半信半疑だったのだが。

「複数のルートからその話を聞きましたから、事実ではないかと」
カステリア子爵がほくそ笑んだ。

「それが事実ならば、今まで強気だった我が国の連中もアルメリアの後ろに帝国の陰がちらつけば、慌て出すかもしれないな」
「我が海軍だけでは、アルメリアと海賊連合の海軍には勝てませんからな。その上に帝国の後ろ盾となれば、顔を白くするのも時間の問題ですな。元アルメリア王国の忠臣カラモチャ子爵がこちらについてくれたのもプラスに働きますな」
「カラモチャは武の名門。当主のエステバンは魔力剣力供に当代随一の腕を持つと言われておる。いざという時には頼りになろう」
「ヘラルド様。これらがうまく行けば我らの昇爵の可能性も出てまいりますな」
「まあ、それはどうなるかは判らんがな」
俺達は二人で笑いあった。



カステリアを送って部屋に戻ると、学園に通っている息子のフラビオが丁度明日からの休みで帰ってきた所だった。

「フラビオ。学園はどうだ」
「これは父上。エルグランからの聖女との仲は徐々に進展しておりますよ」
「そうか。聖女様とか」
これはついてきた。聖女はこの国には居ず、珍しい。もし、息子と聖女様がくっつくようなことになれば我が家としてもこれほど嬉しいことはなかった。

「ルブランの小娘はどうしている」
「相も変わらず、大きな顔で学園の中を闊歩してますよ」
俺の問に不機嫌そうに息子が言った。

なんでも我が国の王女殿下にも聖女様にもその態度のデカさで嫌われているらしい。

「それは憂うるべきことだの。呪いの剣のルブランがでかい顔をしているのは気に食わん」
俺がそう言うと
「まあ、父上、私達に少し考えがございます。でかい顔をしているトルトサの息子と一緒に艶聞を広めてやりますよ」
「大丈夫なのか。あの小娘は騎士団長の息子を一撃で気絶させたほどだぞ」
「なあに、准男爵ならばそうなのかも知れませんが、私はこのルートン王国の正当な伯爵家の跡取りなのです。呪いの公爵の娘など恐くもなんともありません。いざとなったら聖女様も協力いただけるそうですから」
息子は頼もしいことを言ってくれた。息子がうまくルブランの小娘を黙らせてくれたるたけの甲斐性を発揮してくれたら、我がコフレンテス家は安泰だとその時はほくそ笑んだのだった。



しおりを挟む
感想 334

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

この誓いを違えぬと

豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」 ──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。 ※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。 なろう様でも公開中です。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。