上 下
76 / 95

公爵邸までルードが迎えに来てくれましたが、そこから延々と勉強させられました

しおりを挟む
自国のカッセル国王に頭を下げられて私は固まってしまった。

「あの、陛下、私なんかに頭を下げないで下さい」
私は慌てて手を振ったが、
「一応けじめだ。本当に申し訳なかったな」
陛下は私に謝ってくれた。

なんか無理やり頭を下げさせたようで、私はとても居心地が悪かった。

陛下は私に伯爵位を継承するように言われたんだけど、何も知らない私なんかが無理だというと、
「まあ領地のことはオイゲンがちゃんとやってくれるわ」
とエルザ様が平然と言われたんだけど、そこまでお任せするのもどうかと思った。
でも、領地経営のことは私では右も左もわからないので、お任せするしかなかった。

夏休みにカッセルに帰った時に手続きはするからと陛下はおっしゃって帰っていかれたんだけど、本当に良いんだろうか?
まあ、国に帰った時にもう一度確認させてもらおう。
私は今考えることを止めたのだ。

「仕方がないわね。あなたがここまでやってくれたんだから私も帰るわ」
そして、エルザ様は懸命に帰るように説得する皇太子殿下と一緒に帰っていかれた。

「じゃあ、クラウちゃん。今度は皇宮にも遊びに来てね」
と最後に爆弾発言されたんだけど、私はできたらそれはご遠慮したい。
公爵家だけでもアップアップなのに、皇宮なんて礼儀作法のなっていない私では絶対に無理だ。


私は翌日まで公爵家にお世話になって、昔のお祖母様やお母様のことを大伯母様や大伯父様から色々お伺いしたりして過ごした。

「あなたのお母さんのエレオノーレちゃんは裁縫がエルザと一緒で苦手でね、よく週末にこの屋敷に来て、練習していたわ」
「そうだったんですね」
私が裁縫が上手くないのは母譲りだったんだ。
私は裁縫が下手だとよく継母に引っ叩かれたことを思い出していた。

そこへノックが鳴って、
「クラウ、迎えに来たぞ」
ルードがいきなり入ってきたのだ。
ルードは学園の制服を着ていた。

「えっ、ルード!」
私はいきなりのルードの登場に驚いた。
仕事が忙しくてこちらにはもう来ないと思っていたのだ。
私を迎えに来るとは思ってもいなかった。

「ルード、やけに早くない?」
大伯母様がからかうように言われたが、
「早くないですよ。お祖母様。学園には門限がありますからね」
ルードが仏頂面で言うんだけど、私はルードに会うのはあのキス以来なので、少し顔を赤くした。

「着替えてきます」
私は慌てて充てがわれた部屋に向かった。
本当にいきなり現れるのは止めてほしい。私にも心の準備というものがあるのだ。
どうして私にキスしたのか? 
出来たら確認したかった。

服を脱ぐのをカリトナさんに手伝ってもらうと、私は洗濯してくれていた制服を来たのだ。

「お待たせしました。ルード様」
そして、私は階下に降りると、リビングのルードに声をかけたのだ。

「ちょっと、待て、クラウ。何故敬語になる?」
「だって貴方様は帝国の皇子殿下ではありませんか」
私が当然のように言うと、

「宿題を倍に増やすぞ」
「えっ、ちょっと待ってよ」
私は慌てた。今でも宿題は多いのだ。これ以上増やされたらたまらない。

「じゃあ、もう一度」
「お待たせしました。ルードさん?」
「学年同じなんだから敬語はいらないだろう。コンスも呼び捨てだぞ」
「コンスは公爵家令嬢だけど、私は属国の男爵令嬢に過ぎません」
私は言い張った。そうだ。公爵令嬢のコンスと比べてもらっては困る。

「ああら、クラウさん。エレオノールさんもエーリック殿下の事を呼び捨てにしていたわよ」
大伯母様まで言ってくれるんだけど……

ええええ! お母様、エルザさんのお相手の皇太子殿下を呼び捨てにしていたの?
なんてことをしていたのよ!
私は叫びたかったが、今更どうしようもない。

結局、私はルードのことをまた呼び捨てで呼ばされる羽目になってしまったのだ。

「色々とお世話になりました」
私が頭を下げると
「これからは週末にここに帰っていらっしゃい」
と大伯母様には言われてたんだけど、そんなお世話になって良いのかと思わないでもなかった。
私は曖昧に頭を下げたのだ。

そして、私は立派な皇家の馬車にルードのエスコートで乗りこんだ。
ルードが乗って扉を閉めるとゆっくりと馬車が動きたしたのだ。

手を振る公爵夫妻に手を振り返して、馬車はゆっくりと公爵邸を出た。
なんか私にとって怒涛の週末だった。

今も皇子様と一緒に馬車に乗っているから続いていると言えば続いていた。
それも、私にキスしてきたルードと二人きりの馬車だ。
とても気まずい。どうしようと私が悩みだした時だ。

「ところで宿題はやったんだろうな」
ルードがいきなり言い出したんだけど……
そんなのやる暇がなかったのは知っているでしょ。
私はそう言いたかった。

「今の皇帝陛下の名前は?」
でも、私の考えなんて無視して、ルードはいきなり問題を出してきたのだ。
まあ、それは私でも覚えたわよ。

でもルードはどんどん聞いてきた。
片手には教科書まで持っているし、勉強させる気満々みたいだった。
そこには家系図が載っていた。
ルードの名前もはっきりとルードルフ・バイエルンと載っていたのだ。
父の皇太子がエーリック様で母がエルザ様だった。
これを勉強していたら、ルードが皇子様だって判ったかもしれない。

最もルードルフがルードだと判らなかった可能性のほうが高いけれど……

それから馬車の中で私は延々と皇家とライゼマン公爵家の事を勉強をさせられたのだ。
そして、やっと学園に着いたと思ってほっとしたら、そのままいつもの補講の教室に連れ込まれたのだ。

そして、その後も延々といつものように勉強させられたのだ。

私はルードがキスしてきた意味が、絶対に恋愛感情なんかじゃなかったと理解したのだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...