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第十三章 全能神の逆襲
【『つぎラノ』ノミネート記念】年末年始特別閑話 除夜の鐘を突きました
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私の書籍『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! ~学園生活を満喫するのに忙しいです~』が【次にくるライトノベル大賞2023】にノミネートされたのでその記念で書きました。少し早いですがお楽しみ下さい
****************
ボフミエ魔導国の年末は亜熱帯なのでそれほど寒くはなかった。
しかし、亜熱帯とはいえ、夜は多少冷える。
だが、今年の年末の王宮はねじり鉢巻きに和装の姿の物が多く見られた。
そして、その順番を待つ列の先に王宮に巨大な鐘が鎮座してその時を待っていたのだ。
今年は財務卿のコレキヨの故郷ジパグ王国にある風習の年末から年始にかけて鐘を突く除夜の鐘というものを皆でやろうということになったのだ。ジパグでは人間の108の煩悩を除くことを願って108回突くといわれているのだが、何がどう、トチ狂ったのか、自らの望みを鐘を突いて願うという、煩悩まみれの除夜の鐘になったのだが。
「では、一番は筆頭魔道士のクリス様お願いします」
フェビアンがマイクを握って話す。
カメラが回っており一応全世界に放送されていた。何しろ、多くの大国の皇太子や王族が多数この国の運営には参加しているのだ。
「はい。世界の人が来年一年幸福でありますように」
そう祈るとクリスは巨大な鐘つき棒を引いた。
「えっ」
手伝おうとしたクリスの騎士たちは驚いた。クリスは一人で引いてしまったのだ。
護衛騎士のミア自身、一人では引けなかった。その鐘つき棒を、そんな力がどこにあるのかというか華奢なクリスがあっさりと引いてしまったのだ。
そして、思いっきり振りかぶると、手を振り下ろした。
しかし、最後は勢いを殺してコツンと当てたのだ。
ゴーン
小さく鐘がなった。
「すいません。小さすぎましたよね」
クリスが頭に手をやって皆に謝る。
「まあ、クリス様。クリス様らしくて、よろしかろうて」
ジャルカが言った。
皆も頷く。
ここで思いっきりついてシャラザールが来臨したら大変なことになるのを皆は怖れていた。
「では、オーウェン内務卿、宜しくお願いします」
「今年こそ、クリスとうまくいきますように」
「おいおい、煩悩のままかよ」
オーウェンの声にアレクが言うが、
ゴーーーーーーン
思いっきり引いたオーウェンの鐘の音はボフミエの王都中に響き渡った。
「信じられない」
真っ赤になったクリスが固まっていた。
「では、次はアレクサンドル外務卿」
「じゃあ、俺も、ジャンヌと仲良くなれますように」
「おい、俺と何が違うんだ」
みんなの白い目の中アレクも思いっきり鐘を突いていた。
グォーーーーーーーン
今度も巨大な音がする。
「人類の煩悩が無くなりますように」
コレキヨ財務卿は、除夜の鐘の本来の意味に戻したのだ。
しかし次に続いた
「今年も腹いっぱい食べられますように」
ジャンヌ、魔導師団長の祈りを皮切りに、
「姉さまと仲良くなれますように」ウィル
「魔術が上達しますように」ミア
と煩悩まみれの鐘つきが続いた。
「今年こそは闇落ちした全能神を退治できますように」
という、ジャスティン騎士団長の鐘つきで終わるはずだった。
「あれ、これで107ですよ」
「もう一人誰でしたっけ」
フェビアンとイザベルが言い出した。
「いや、待て、もう107で終わりでいいだろう」
「そうだ。もう一人を探していてやぶ蛇を突いたらどうするんだ」
アレクとジャンヌがシャラザールの来臨を恐れて言っていた時だ。
「ねえ、クリス、年明けに甘いものでも王都に食べに行こうよ」
クリスはオーウェンから年明けのデートについて誘いを受けていた。
「そうですね。でも、新年は色々と忙しいですから」
「そんな事言わずにね、クリス」
オーウェンがクリスに抱きつくように言い寄る。クリスは周りに人がいるのでとても恥ずかしかった。その暑さを冷ますために、近くのグラスを取ったのだ。
「あっ、クリス、それダメ」
ジャンヌが叫んだ時は遅かった。クリスは一口口に含んでいたのだ。
そう、それは少しアルコールを含んだ飲料だったのだ。
ダンッ
凄まじい音がした。
アレクが飛び退ろうとしたが遅かった。
そこにはクリスではなくて、シャラザールが立っていたのだ。
当然その瞬間、オーウェンは弾き飛ばされていたのだが・・・・
「アレク、ジャンヌ、その方共、こんな面白いことをしているのに余を呼ばないとはいい根性をしているではないか」
じろりとシャラザールが二人を睨みつけた。
「いえ、その様な」
「今お呼びしようとしていたところなのですよ」
二人は必死に誤魔化した。
「まあ、良いわ。この鐘を突けばよいのだな」
シャラザールはニコリと笑った。
そして、鐘つき棒を持つと思いっきり引いたのだ。
「今年こそはゼウスを地獄にお繰り返してやるわ」
自らの希望を叫ぶとシャラザールは思いっきり鐘を突いたのだ。
ドカーーーーーン
その瞬間だった。凄まじい大音響を残して鐘はその衝撃を受けきれずに、そのまま、空の彼方に飛んでいったのだった。
皆唖然とそれを見ていた。
「何だ。ちゃちじゃの」
シャラザールはムッとして言うと
「まあ良いわ。夜はまだ始まったばかりじゃ。騎士たちを呼び集めよ。余が年初の訓練を付けてやろう」
「・・・・」
そこにはとてつもない沈黙が訪れた。アレクなんてへなへなと座り込んでしまったのだ。
アレクとジャンヌの恐れが現実になって、騎士たちは夜通しシャラザールの訓練につきあわされて半死半生の目に合わされたのであった。
**********************************************
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
このお話の続きはもう少しお待ち下さい。
さて前述の『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! ~学園生活を満喫するのに忙しいです~』が【つぎラノ】にノミネートされました。下記にリンク貼っているので投票頂けたらとてもうしいです。
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ボフミエ魔導国の年末は亜熱帯なのでそれほど寒くはなかった。
しかし、亜熱帯とはいえ、夜は多少冷える。
だが、今年の年末の王宮はねじり鉢巻きに和装の姿の物が多く見られた。
そして、その順番を待つ列の先に王宮に巨大な鐘が鎮座してその時を待っていたのだ。
今年は財務卿のコレキヨの故郷ジパグ王国にある風習の年末から年始にかけて鐘を突く除夜の鐘というものを皆でやろうということになったのだ。ジパグでは人間の108の煩悩を除くことを願って108回突くといわれているのだが、何がどう、トチ狂ったのか、自らの望みを鐘を突いて願うという、煩悩まみれの除夜の鐘になったのだが。
「では、一番は筆頭魔道士のクリス様お願いします」
フェビアンがマイクを握って話す。
カメラが回っており一応全世界に放送されていた。何しろ、多くの大国の皇太子や王族が多数この国の運営には参加しているのだ。
「はい。世界の人が来年一年幸福でありますように」
そう祈るとクリスは巨大な鐘つき棒を引いた。
「えっ」
手伝おうとしたクリスの騎士たちは驚いた。クリスは一人で引いてしまったのだ。
護衛騎士のミア自身、一人では引けなかった。その鐘つき棒を、そんな力がどこにあるのかというか華奢なクリスがあっさりと引いてしまったのだ。
そして、思いっきり振りかぶると、手を振り下ろした。
しかし、最後は勢いを殺してコツンと当てたのだ。
ゴーン
小さく鐘がなった。
「すいません。小さすぎましたよね」
クリスが頭に手をやって皆に謝る。
「まあ、クリス様。クリス様らしくて、よろしかろうて」
ジャルカが言った。
皆も頷く。
ここで思いっきりついてシャラザールが来臨したら大変なことになるのを皆は怖れていた。
「では、オーウェン内務卿、宜しくお願いします」
「今年こそ、クリスとうまくいきますように」
「おいおい、煩悩のままかよ」
オーウェンの声にアレクが言うが、
ゴーーーーーーン
思いっきり引いたオーウェンの鐘の音はボフミエの王都中に響き渡った。
「信じられない」
真っ赤になったクリスが固まっていた。
「では、次はアレクサンドル外務卿」
「じゃあ、俺も、ジャンヌと仲良くなれますように」
「おい、俺と何が違うんだ」
みんなの白い目の中アレクも思いっきり鐘を突いていた。
グォーーーーーーーン
今度も巨大な音がする。
「人類の煩悩が無くなりますように」
コレキヨ財務卿は、除夜の鐘の本来の意味に戻したのだ。
しかし次に続いた
「今年も腹いっぱい食べられますように」
ジャンヌ、魔導師団長の祈りを皮切りに、
「姉さまと仲良くなれますように」ウィル
「魔術が上達しますように」ミア
と煩悩まみれの鐘つきが続いた。
「今年こそは闇落ちした全能神を退治できますように」
という、ジャスティン騎士団長の鐘つきで終わるはずだった。
「あれ、これで107ですよ」
「もう一人誰でしたっけ」
フェビアンとイザベルが言い出した。
「いや、待て、もう107で終わりでいいだろう」
「そうだ。もう一人を探していてやぶ蛇を突いたらどうするんだ」
アレクとジャンヌがシャラザールの来臨を恐れて言っていた時だ。
「ねえ、クリス、年明けに甘いものでも王都に食べに行こうよ」
クリスはオーウェンから年明けのデートについて誘いを受けていた。
「そうですね。でも、新年は色々と忙しいですから」
「そんな事言わずにね、クリス」
オーウェンがクリスに抱きつくように言い寄る。クリスは周りに人がいるのでとても恥ずかしかった。その暑さを冷ますために、近くのグラスを取ったのだ。
「あっ、クリス、それダメ」
ジャンヌが叫んだ時は遅かった。クリスは一口口に含んでいたのだ。
そう、それは少しアルコールを含んだ飲料だったのだ。
ダンッ
凄まじい音がした。
アレクが飛び退ろうとしたが遅かった。
そこにはクリスではなくて、シャラザールが立っていたのだ。
当然その瞬間、オーウェンは弾き飛ばされていたのだが・・・・
「アレク、ジャンヌ、その方共、こんな面白いことをしているのに余を呼ばないとはいい根性をしているではないか」
じろりとシャラザールが二人を睨みつけた。
「いえ、その様な」
「今お呼びしようとしていたところなのですよ」
二人は必死に誤魔化した。
「まあ、良いわ。この鐘を突けばよいのだな」
シャラザールはニコリと笑った。
そして、鐘つき棒を持つと思いっきり引いたのだ。
「今年こそはゼウスを地獄にお繰り返してやるわ」
自らの希望を叫ぶとシャラザールは思いっきり鐘を突いたのだ。
ドカーーーーーン
その瞬間だった。凄まじい大音響を残して鐘はその衝撃を受けきれずに、そのまま、空の彼方に飛んでいったのだった。
皆唖然とそれを見ていた。
「何だ。ちゃちじゃの」
シャラザールはムッとして言うと
「まあ良いわ。夜はまだ始まったばかりじゃ。騎士たちを呼び集めよ。余が年初の訓練を付けてやろう」
「・・・・」
そこにはとてつもない沈黙が訪れた。アレクなんてへなへなと座り込んでしまったのだ。
アレクとジャンヌの恐れが現実になって、騎士たちは夜通しシャラザールの訓練につきあわされて半死半生の目に合わされたのであった。
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ここまで読んで頂いてありがとうございました。
このお話の続きはもう少しお待ち下さい。
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