上 下
407 / 444
第十二章 婚活と雪女

閑話 クリスは雷撃しないように厳重注意されました

しおりを挟む
その日の午前中の閣議は順調だった。
サウス王国救援は成功裏に終わり、新たに占領地も發生せずに誰もがホッとしていた。


「最後に財務卿より予算の執行についてお話があります」
クリスの補佐官で司会のフェビアンがコレキヨに話を振った。

「すいません。財務部からですが、4月からの年度予算ですが、半年強しかたっていないのに既に全てにおいて予算オーバーになってしまいました」
厳かにコレキヨは宣言した。

「半年で、予算使い切ったのか」
「計算できなかったのか」
アレクとジャンヌが能天気に言う。

「何言っているのよ。基本的に予算は何事もなく、普通の状態で1年間やるようになっているのよ」
アメリアが言う。

「でも、魔王の襲来は昨年度だろう」
「そうだ。あの時は大変だったが」
「何言っているのよ。その後すぐに陳国遠征があったじゃない」
「でも、行ったのは50人だぞ」
アメリアの言葉にジャンヌが反論する。

「その後6万人の捕虜連れてきたじゃない。輸送費とか食料とかメチャクチャかかっているのよ」
アメリアが言う。

「その後のザール教制圧戦、パレルモ制圧、新大陸救援と普通半年で4回も出征なんてありえないわ」

「しかし、どれも人員は大したことはないぞ」
「その後の治安維持で1個師団出しているから。その費用が結構かかっている」
内務卿のオーウェンが言った。

「前年度になりますが、モルロイ、クロチア等の吸収合併ザール教国、パレルモ、新大陸の領土とここ1年で領土が約倍になっておりますが、まだ新領土の税収はなく、財政的にも大変厳しい状況にあります」
「確かに、新領土は今年は税収は厳しいかもしれないな」
コレキヨの報告にオーウェンも頷いた。

「でも、新たに領土に加えたところは宮殿等に宝玉とか金貨とかたくさん押収できたのではないのか」
「そうだ。その宝玉等を金に変えたら良いのではないか」
アレクとジャンヌが言う。


「何言っているのよ。基本はクリスの雷撃一発だから跡地には金目のものはほとんど何も残っていなかったわよ」
アメリアは言い切った。

全員クリスを見る。確かにモルロイの宮殿はクリスが破壊したし、クロチアは街を破壊し尽くしたのはクリスに憑依したシャラザールだった。ザールもパレルモもクリスが雷撃していた。

「えっ、私のせいですか」
クリスはまさか自分に飛んでくるとは思っていなくて慌てた。

「まあ、私もクリスに助けられた口だから、あまり言えないけれど」
アメリアが口を濁す。

「まあ、その分あっという間に制圧できたんだから良しとすべきだろう」
「それは確かにそうだよな。普通は攻城戦で結構時間取るし、今回はどれもほとんど瞬殺だったからな」
オーウェンとアレクも言う。

「まあ、新たな領地も増えて将来的にはボフミエ魔導国にプラスになりましょうが、しばらくは新領地経営は火の車です。ぜひとも皆様の協力をお願いしたい」
コレキヨが頭を下げた。

「ということは、新たな予算は通りにくいということだよな」
「はい。下手したらまたお粥の世界になるかもしれません」
「な、何だと」
コレキヨの言葉にジャンヌは固まった。

「と言うことだからジャンヌ。これから半年間の遠征は絶対禁止だからね」
アメリアが言う。

「しかし、攻撃を受けたら反撃するしか無いぞ」
「じゃあ、ジャンヌ部隊はお粥で」
「・・・・」
ジャンヌはその一言に何も言えなかった。慎重派のアメリアが強硬派のジャンヌに初めて勝った瞬間だった。

「それとクリス。あなたも雷撃は厳禁だからね」
アメリアはクリスを指差して言った。

「でも、アメリアお姉さま。雷撃は仕方がない時だけで」
クリスが言い訳する。

「何言っているのよ。やっとボフミエ本国の領土経営がうまく動き出したところなのよ。でも、ここのところの遠征費の増加で領土経営に赤信号が灯りだしたのよ。どこの国に建国1年で領土2倍にする国があるのよ。せっかく国民皆教育を始めたのに、予算不足で大幅に遅れているのよ。堤防工事等も遅れているし、このままでは国が崩壊してしまうわ。あなたそれでも良いの」
アメリアの言葉にクリスはつまる。

「教育卿。それは言いすぎかと」
いつもは黙っている占領地に駐在しているジャスティンが魔導電話を通して声を上げた。皆それに驚く。

「元々クリスティーナ様は我らの暴虐非道なボフミエの皇帝を倒していただきました。また、GAFAの陰謀で我々が飢饉に陥ろうというのを自らの身を張った雷撃によって悪徳業者を一掃いただいたのです。そのご恩は山より高く海より深いのです。我らボフミエの民はクリスティーナ様のためならばお粥の生活に戻っても全然問題はございません」
ジャスティンは言い切る。

「ジャスティン!」
クリスはかばってくれたジャスティンに感激した。

「ジャスティン。それはあなたがクリスに心酔しているからよ。そうでない民もいるでしょう。そう言う面々に不満がたまるわ」
アメリアが言う。

「何を言われるのですか。ボフミエ皇帝の恐慌政治で国民の大半は飢えて、税金の払えない者は奴隷としてGAFAに売られたのです。聖女クリスティーナ様のおかげでそのような生活に終止符を打てたのです。そのクリスディーナ様に文句を言うなど今までのご恩を忘れる行為です。そう言う恥知らず共は私がこの剣にて成敗いたしましょう」
ジャスティンは剣を掴んで言い放った。

「ジャスティン。私のことを思っていってくれて嬉しいけれど、成敗するのはやりすぎです。意見が違うというだけで成敗するものではないわ」
クリスが言う。

「な、なんとクリス様はお心がお広い。このジャスティン感激いたしまいした」
ジャスティンは目をうるうるさせている。
アメリアはなんと言っていいか少し言葉に詰まった。

しかし、ここで電話の状況が悪くなってジャスティンの画面がいきなり切れた。
「すいません。電話障害です」
シュテファンが謝罪する。魔導電話網を作っだばかりで時々こういうことが起こった。

「まあ、アメリア、クリスの雷撃は本当にどうしようもない時に、放たれているだけで、それは仕方がないのではないか」
オーウェンがジャスティンに変わってフォローする。

「でも、元はと言えば併合せざる負えなくなったのは、クリスが雷撃したからよ。
ザール教国しかり、パレルモ王国しかり、新大陸に至っては介入しなくても良かった所に強引に介入した感じじゃない」
アメリアが本来の調子を戻して言った。

「しかし」
「しかしもクソもないわよ。あなたボフミエ国民200万人が飢えてもいいと思うの」
言い返そうとしたクリスはアメリアの次の言葉に沈黙した。

「ボフミエの民はジャスティンみたいな奇特な人ばかりではないわ。民は昔の悪い時の苦労などすぐに忘れるけれど、悪くなった時の文句はすぐに言うものよ。ジャスティンの言うように不満を持つ民を一掃なんて出来ないでしょう。ここはクリスにも我慢してもらうしか無いわ」
アメリアは言い切った。

「すいません。筆頭魔導師様。私が至らぬばかりに苦労をおかけして」
コレキヨが頭を下げる。

「いえ、コレキヨ様は精一杯やっていただいております。出来る限り私も気をつけるように致します」
クリスは下を向いていった。

「ジャンヌも判った?」
「善処する」
アメリアの言葉にジャンヌも頷いた。
さすがのジャンヌは再びお粥生活に戻るのは嫌だった。
アメリアはジャスティンが復帰する前にさっさと会議を終わらせようとした。

「これで少しはじっくりと国造りに精が出せるわ」
アメリアの言葉はコレキヨの率いる財務省、オーウェンの内務省、依然の農務省とアメリアの教育省の面々の思いだった。

しかし、虐げられた人々を放っておけない聖女クリスと面白いことには絶対に首を突っ込む暴風王女と赤い死神、クリス命の正義の騎士が揃う世界最強軍団がじっとしていられるのだろうか。そもそも、クリスには曲がったことの大嫌いな無敵の戦神シャラザールが憑依しているし。

コレキヨは一抹の不安を、いや、大いなる不安を感じていた・・・・・・
*****************************************************************
ここまで読んで頂いてありがとうございます。

新作「大国に乗っ取られそうな王女の侍女は後ろ盾を探すために異国に留学しますが、気付かぬうちに超大国の方々と仲良くなっていました」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/520576250

おかげさまでHOTランキングベスト10に入り物語はは佳境に入りました。

このお話のサイドストーリーです。

小国の王女の侍女は自らの王女の危機に危険を顧みず帰国しますが、王女を亡き者にしようとしている母の仇の王妃に捕まってしまいます。

果たして侍女の命は?

恋人のアルバートは間に合うのか。

ぜひともお楽しみいただければ幸いです。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生令嬢は庶民の味に飢えている

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,364pt お気に入り:13,929

アイオライト・カンヴァス -交わることのない、俺と、君の色-

BL / 連載中 24h.ポイント:3,586pt お気に入り:72

あの日から

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

拝啓、殿下♡私を追い出して頂いて感謝致します【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,093pt お気に入り:2,299

時のエスカリエ〜幸せへの階段〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

処理中です...