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第十二章 婚活と雪女

テレーゼ3姉妹はボフミエ魔導国の執務室の熱気に驚きました

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一方、夜ふかしして寝不足気味ののオリビアらは8時にアメリアらに起こされた。

「お母さま。おばさま方おはようございます」
颯爽とアメリアが3人の侍女を連れて現れた。
洗顔用の洗面器を持って女王の前に差し出す。

「ありがとう」
オリビアはそう感謝の言葉をかけると水を両手ですくった。

「ジャンヌはあなた達に優しく接してくれる」
エリザベスがタオルを差し出してくれた侍女に聞く。

「申し訳ありません。魔導師団長とは直接の面識はありませんので、詳しくは存じ上げません」
「そう、それなら仕方がないわね。あの子はこの地でもあいも変わらず、お転婆にしてるのでしょうね」
エリザベスは諦めて言った。

「まあ、ジャンヌはボフミエの突撃隊長ですから、ある程度は仕方がないかと」
アメリアがフォローになっていないフォローをする。

「でも、私の友人はジャンヌ師団長によって奴隷にされそうな所を救われて感謝しておりました」
他の侍女はジャンヌのためにフォローする。

「2年前まではこのナッツァの地も女子供が安全に歩けないところもあったのですが、師団長らが精力的に見回っていただいているおかげで今は危険なところはなくなりました」
「殿下は別名暴風王女ですから、兵士たちも恐怖を感じて不正も無くなって今は本当に住みやすい街にしていただきました」
「そこっ、暴風王女は褒め言葉になってないわよ」
必至にフォローしているつもりの侍女の言葉にアメリアが注意する。

「し、失礼しました」
慌ててその侍女が頭を下げる。

「良いのよ。あの子が役に立っていると言ってくれて私も安心したわ」
エリザベスが安心したように言う。
少なくともよそ者の侵略者と嫌われてはいないようだった。

その後客用の食堂で侍女たちの給仕の後に一同は執務室に案内された。


一同は巨大な執務室にまず圧倒された。
高い天井に円形のすり鉢状の闘技場のような作りだ。一番下の低い所に最上位のクリスら閣僚連中がいて上に上がるにつれて地位が下がっていくという普通とは逆の作りだ。

人数は200人以上いるだろうか。

皆忙しく働いているのが一望のもとに見えた。
すり鉢状になっているのでどこにいても四方が見えるが皆忙しそうに働いていた。

中央部ではクリスとオーウェン、財務卿のコレキヨらが顔を寄せて真剣に相談していた。
オーウェンとコレキヨ相手に一人の男が意見していた。
二人に何か言われるがひこうとしない。

「すいません。母上、少し外します」
慌ててアメリアがそちらに向かう。

「ヨーナス。どうしたの?」
アメリアは自分の教育省の文官に聞く。

「パレルモの義務教育の開始についてご意見させていただいていたんです」
「パレルモと言ってもまだ占領したところでそれどころではないのではなくて」
ヨーナスにアメリアが言う。
「まだボフミエ本国でも上手くいっていないのに、すぐには難しいだろう」
「そう、予算もあまりないし」
オーウェンとコレキヨが言う。

「それは判るんですが、魔導学園的なものを作って優秀な者を囲い込むのは良いことではないかと。少人数でも良いので出来たら早急に始めていただきたく思うのですが」
ヨーナスが言う。

「まあ、確かにそうだが、教える人がいないのではないか」
「そうなんですが、母の出身地がパレルモで出来たら少しでも恩返しがしたいんです」
ヨーナスが言う。
「じゃあ、ヨーナス様。あなたがやるというのはどう」
そこまで聞き役に徹していたクリスが言った。

「えっ、私がですか」
ヨーナスは驚いて言った。

「そう、やる気があるのならばあなたがやるのが良いわ」
ニコリとクリスが笑って言う。

「えっ、ちょっとクリス待ってよ。ヨーナスを教育省から動かすと言うの。それは困ります」
アメリアは慌てた。彼は優秀で義務教育推進の中心メンバーの一人でもあったのだ。アメリアが新大陸にいる時も中心的な役割をはたして進めてくれていた。今彼が抜けると痛い。

「でも、アメリア様。ヨーナス様は麻薬生産や奴隷問題で地に落ちたパレルモの復興を進めたいとおっしゃっていらっしゃるんです。自らの熱意のある方が行かれたほうが良いと思うんですが。私も国を治める下地は教育だと思うんです。国民の教育水準が上がれば収入も上がってくるし、治安も安定すると思うのですが」
そう簡単にいはいかないのは判っているが、何もしないよりもまず、始めたほうが良いだろう。修正点はおいおい直していけば良い。クリスはまずやる派だった。

「判りました。やらせてください」
クリスの言葉を聞いてヨーナスは言った。

「どれだけ出来るか判りませんが、出来る限りのことをしてみます。教育卿も無理言いますがよろしくお願いします」
ヨーナスが頭を下げる。

「でも、一から始めるのは大変よ。それでも良いの?」
切羽詰まった顔でアメリアはヨーナスを見た。優秀なヨーナスが抜けたら、明日からまた教育省は大変だ。それでなくても義務教育が始まったところでやることは山のようにあるのに。

「はいっ、頑張ります」
ヨーナスはアメリアを見た。

「学園から教師を5人連れて行っていいわ。それでなんとかしなさい」
諦めてアメリアは言った。クリスが言い出したら基本はそうなってしまうのだ。

「えっ、5人も連れて行って良いんですか」
「それくらいは必要でしょう」
アメリアは肩を竦めた。
本当にボフミエ魔導国では人手が足りなかった。ボフミエ魔導国本国だけでも大変なのに、急激に領土を広げてしまったのだ。しかし、政治は止めるわけにはいかず、次々と事態は展開していくのだ。人はいる人員でまわしていくしか無かった。

「また人員は募集しよう。飛び地からも人を集めてこのボフミエで教育しよう。ドラフォードの暇な貴族の2男3男も集めてみるよ。ジパグは優秀な読み書きの出来る人材がもっといるだろう」
オーウェンが言う。
「それはいますが、ボフミエの人々の融和もなかなか難しいかと」
コレキヨが反論するが
「これだけ大きくなったんだ。多国籍国家としてやっていけば良いんじゃないか。別に差別しているわけじゃないし、今年学園から入った奴らもがんばっているんだし」
「まあ、貴族や平民関係なしに能力で役職にはついていますよね」
二人が話し合う。

そのさまを遠くからオリビアらは唖然と見ていた。

「良くは判らぬが、綱渡りの施政をやっておるのじゃな」
「本当ですわね」
こんなのでよく回るとキャロラインは思った。自分の国では到底出来ないことだった。
周りのみなを見ると本当に忙しそうに働いていた。自国のようにのんびりと仕事をするなんてことはないようだった。そして、いるメンバーはまだ若かった。大量の学生が就職してきてやっと少しまともな陣容になったところだった。
しかし、ここまで任されてやらされると成長するのも早かろうと皆思った。
オリビアは若手を10名ほど派遣することを即決した。
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