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第十一章 パレルモ王国の陰謀

大国皇太子は血しぶきを上げて倒れました

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ヘイモは荷馬車に揺られていた。体中ずぶ濡れだ。
馬車に強引に乗せられた時にはスカイバードショックのあまり、何も考えられなかったが、馬車の周りからの奇異なものを見るような多くの視線を受けて徐々に思考回路が動き出した。

一国の皇太子をここまで愚弄して、こいつらは絶対に許さんとヘイモは心に誓っていた。

本来ならば即座に抗議するところだが、この後のメインイベントが待っているのだ。慌てふためく筆頭魔導師らの顔をみて、溜飲を下げようと我慢することにした。マイヤネンも頷いて何とか宥めてきた。

荷馬車の後ろから騎乗してついてきたアレクは彼らを面白いものでも見るように見ていた。

もちろん攻撃してきたら即座に反撃、そのままパレルモに攻め込む気満々なのだ。

しかし、何故か馬車のゴキブリ皇太子は静かにしていた。

にたっと笑ったように見えた。

これは絶対に何か企んでいる。アレクは返って不審に思った。

そうだ。そう来なくては。高々スカイバードの嫌がらせなんかで心を折られてくれたら困るのだ。アレクには何にせよ楽しませてくれたら、言うことはなかった。

しかし、次の手に彼らは耐えられるんだろうか。

アレクは最後まで耐えて欲しいと希望を持ってみていた。


ボフミエ魔導国は亜熱帯で、王宮までの荷馬車の旅で衣服は完全に乾ききった。

筆頭魔導師に嫌味の一つも言ってやろうとヘイモは思っていたのだが、それも叶いそうになかった。

一方、王宮ではシュテファンが青い顔をして、その時が来るのを待っていた。
マークしたところを刺してもオーウェンは無事だとジャルカには保証されていたが、それでもシュテファンは不安だった。


そして、本当の当事者のサクサ公爵邸では、サクサ公爵が武装した影達に囲まれていた。

「そろそろじゃの。皇太子が着くのは」
「左様でございますな。世界各地に散った影共も一斉に行動に出る予定でございます。ザールにいる、ボフミエの兵たちも一斉攻撃で身動きが取れなくりましょう」

「上手く、筆頭魔導師が死んでくれればよいが」
「今回上手く行かずとも、次々と手は打っております」
シッランパーがしたり顔で言った。

「そうじゃな。パレルモの影に、どこからいつ襲われるか判らぬ恐怖をとくと味わって死ぬか」
「左様でございます。我らに楯突いたこと、いや程後悔させてやります」
シッランパーは舌打ちして言った。

「ま、あの小娘、顔だけは良いからな。後悔して泣きついてきたら妾にしてやっても良いがの」
「そうでございますな。必死になって、楯突いたことを謝って参りましたらそれも宜しいかと」
「そうじゃの」
部屋には公爵のいやらしい高笑いが響いた。




その王宮の謁見室では、クリスらが珍しく最初から揃って待っていた。

クリスの左横にはオーウェンが右横には帯剣したジャンヌが控えていた。
パレルモらに先んじて入ってきたアレクがジャンヌの横につく。

そして、扉が開けられる。

「ドラフォード外務卿アルフェスト卿暗殺容疑者ヘイモ・パレルモ皇太子入室」
高らかに読み上げられる。

「はいっ?」
驚きにヘイモは固まった。
まさかそんな名前で呼ばれるとは思ってもいなかったのだ。

今回は今後の勉学のために、ボフミエで働かせて欲しいとお願いに来たはずなのだ。
それがいつの間に暗殺犯にされているのだ。

「図ったな、赤い死神」
ヘイモが叫んでいた。

「黙れ。貴様らの悪事の数々、もう許されるわけにはいかんのだ。言い訳は、この動画を見てから言うが良い」
アレクが言うと同時に真ん前に動画が映し出される。

「私はドラフォードの外務省勤務の文官バルトルト・テールマンです。私の祖先はパレルモ王国の影として生きてきたそうです。私は何も知りませんでした。パレルモの悪事の数々はこのような何世代もの影によってなされていたのです。そして、今見ていらっしゃるあなたも影かもしれません。
何しろ私も何もつい先日まで何も知らなかったのです。

しかし、先日、いきなり、アルフェスト卿を暗殺せよと司令を受けたのです。何の前触れもなくいきなりです。卑怯なパレルモの奴らは私の一人娘を攫って、聞かないと娘を殺すと脅してきたのです。

彼らの恐ろしい事は、一度目をつけられたら死ぬまで何度も襲ってくることです。

そう死ぬまで。

例えここで、役所に訴えても、私も娘も長くは生きていけないでしょう。私は娘のためにアルフェスト卿と死にます。でも、娘もおそらくもう生きていないでしょう。私は皆さんにお願いがあります。二度と私のようなものを作らないで下さい。

パレルモ王国はサクサ公爵領で悪魔の麻薬パラウェイを作っているのです。それを資金源に影共で世界の暗殺業を行い世界を裏から仕切っているのです。そこでは多くの奴隷たちが働かされています。それを多くの国王たちは知っているのに、パレルモの影を恐れて手を出さないのです。

私は命をかけてここに告発します。だから、せめてこれ以上の犠牲者が出ないようにしていただきたいのです。

国民の為なら、自ら命をさらされることも厭われない、聖女クリスティーナ様。パレルモ並に悪辣な事をしていた悪徳商会GAFAを殲滅され、魔王をも浄化された貴方様ならば、シャラザールの再来と言われる貴方様のお力なら、この世界のクズ、ゴミ、ゴキブリのパレルモを殲滅していただけると信じております。
何卒宜しくお願い申し上げます」
バルトルトは頭を下げた。

そして、次の瞬間大音響とともに画面がブラック・アウトした。

多くの者は呆然と画面を見ていた。

バルトルトを助けたクリスはここまで演出するかと呆れてジャルカを見ていたが・・・・・

「世界のクズ、ゴミ、ゴキブリのヘイモ、この動画を見てもまだ何か言うことがあるのか」
アレクはヘイモらを睥睨して言った。

「いや、これは嘘だ。こんな訳はない」
ヘイモは叫んでいた。そう、バルトルトがこんな証言を残せるわけないのだ。

「そうだ。これは悪意に満ちた偽証だ」
マイヤネンも叫んでいた。

「ほう、これが嘘であると申すのか。クズ、ゴミ、ゴキブリはこの生命をかけた魂の証言を嘘と片付けるのか」

「左様でございます」
「こんな事が本当なわけはございません」
ヘイモらは高みで見学して笑う予定が、もう必至だった。

「さすが、ゴキブリ、本当のことも見えなくなっているらしい」
「外務卿、ゴキブリと言うのは言い過ぎでしょう」
「そうだ。あまりにひどいのでは」
二人が抗議した。

「ふんっ、ならば次の動画を見てもそれが言えるのかな」
アレクが合図を送るとそこにはサクサ公爵が映っていた。

「その方共の影の働きにより、我がパレルモ王国は世界の裏を支配してきた。かのシャラザールですらその方ら影を恐れて我らに手出しをしてこなかった。にもかかわらず、ボフミエの小娘が我らに手向かおうとしておる。由緒正しきそちら影がバカにされたのだ。このような屈辱、許せるものか。彼の国とそれに与する者共に影の恐怖を知らしめてくれる。いついかなる時もどんなところでも誰から襲われるか判らぬ恐怖、とくと思い知らせるのじゃ」

「・・・・」
「・・・・」
二人は絶句した。出ていたのは確かにサクサ公爵だった。
もうこうなったら最後の手段しか無かった。

「筆頭魔導師様。これはなにかの間違いにございます」
「我々共を嵌めようとする陰謀でございます」

二人はそう叫ぶや、クリスに駆け寄ろうとした。

ビアンカがミラー障壁を築いて二人は障壁にぶつかり弾き飛ばされた。
みんながホッとした時だ。

「グッ」
くもぐったオーウェンの声がした。

「えっ」
横を向いたクリスの目には、大量の血しぶきを上げながら前に倒れるオーウェンが映った。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
パレルモの最後の悪あがき、どうなるのか?
そして、クリスの想いは・・・・
続きは明朝更新します。
乞うご期待!
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