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第十一章 パレルモ王国の陰謀
大国の文官は最後の望みを絶たれたと思いました
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バルトルト・テールマンは祖父の代からドラフォードの文官だった。祖父はパレルモ王国の出身らしかったが、詳しくは何も知らなかった。バルトルト自身は外務省に勤務でこの道30年のベテランだ。今はボフミエの担当をしており、皇太子がこの国の内務卿をしている関係で、何度かホフミエ魔導国に来たこともあった。
皇太子はこの国の筆頭魔導師に何度もアプローチしているようだが、いつ見ても邪険にされていた。
今回なんか頬に思いっきりもみじマークをつけられていた。
はっきり言って皇太子はハンサムだし、能力も高い。邪険にされる女よりは寄ってくる女に乗り換えれば良いのに、といつもバルトルトは思っていた。
そう、ついこの前までは。
前回来た時に皇太子と話そうとして、また筆頭魔導師につれなく避けられている場面に出くわした。
二人の修羅場に出くわすのもよくないので、避けて物陰に潜んだ、その避けた場に皇太子から逃れた筆頭魔導師が入ってきたのだ。
バルトルトを見ると人差し指を自らの口の前にもってきて黙ってくれるように目で頼んできた。
ここは王子のためにも声を上げるべきではとも思ったが、女性に頼まれたら断るわけにも行かない。それに、自分らには絶対的な存在の皇太子をあっさり袖にする筆頭魔導師に、爽快感と言うか、自分らにはない何かを感じていたためでもあった。
慌てて走っていく皇太子を二人で見送ると思わず二人で目を合わせて微笑んだ。
「テールマン様。下らないことに付き合わせてごめんなさい」
テールマンは名前を呼ばれて固まった。まさか、他国の筆頭魔導師に名前を覚えられているとは思ってもいなかったのだ。
「ごめんなさい。オーウェン様に用があったのよね。なのに見送らせてしまって」
そうじゃなくて自分の名前なんて覚えていてくれたことに感動したんだとは言い出す暇もなかった。
「娘さん、学園で頑張って勉強していらっしゃるのですか」
「どうして、その事を」
「オーウェン様も人使いが荒いでしょう。本国に家族がいるのに、何回も呼んではダメだってお話した時に、優秀な後継ぎの娘さんがいらっしゃって学園で頑張って勉強しておられるって、オーウェン様からお伺いしたの」
その話にまたバルトルトは驚いた。皇太子が自分の家族構成について知っているのにも驚いたが、筆頭魔導師がその自分を気遣ってあまりボフミエに呼ぶなと言ってくれたことにも感動したし、その娘のことを覚えていてくれたことにも感激した。どこの王宮の后に一部門の下っ端の役人の家族構成を気遣ってくれる者がいるだろうか。
バルトルトはこの時から密かに皇太子を応援することにした。
ドラフォードの王妃にはぜひともこの筆頭魔導師様になって頂きたいと。
その帰る時に、娘さんにとお守りを貰ったから応援を始めたわけでは断じて無い。
「何故欲しいと言った俺には貰えないのに、部下には渡すんだ」
という皇太子の冷たい視線にもめげずに、
「うちの侍女たちの為に作ったんだけど、この前仕事を邪魔したお詫びです。余り物で申し訳ないけれど貰ってほしいんですけど、霊験も少しはあるはずよ」
ウインクして筆頭魔導師はバルトルトに握らせた。
「ありがとうございます。娘も喜んでつけると思います」
「気に入ってくれたら良いけど」
少し心配そうな筆頭魔導師と恨めしそうな皇太子の表情のコントラストに思わず笑いそうになったが………
そう、そして、そのバルトルトは切羽詰まっていた。
昨日いきなりパレルモ王国の影とかいう人物が接触してきて、アルフェスト卿の乗ったスカイバードを爆破しろと魔導爆弾を渡して来たのだ。そんな事ができるかと断ろうとすると、娘を預かっている。皆で嬲りものにした後にすっぱたかで川に浮かべてやろうかと凄まれた。
「助けて、お父さん」
男は娘の声を聞かせてきた。
バルトルトはどうしようもなかった。誰かに一言でも話せばその瞬間に娘の命は断つと脅されていた。部屋の中も全て監視されていると。
ボフミエの王宮にも影と言われる人はいるようだった。
娘のためにはやるしか無かった。
でも、それで娘が助かるという保証もなかった。
しかし、誰にも話せない。以心伝心が出来れば良いのに。
もうどうしようもなかった。
そして、スカイバードに乗る時間になった。
絶望のあまり何も考えられずに、バルトルトは下を向いて搭乗口に向かっていた。
もう終わりだ。何もかも。
その絶望する手を誰かに取られた。
はっとして見るとそれは筆頭魔導師様だった。
「今回はわざわざご足労賜りありがとうございました」
筆頭魔導師は全員と握手しているのだ。
バルトルトにはそれが最後の希望の手に見えた。
「すいません。筆頭魔導師様。お守り取られてしまって」
頼むから気づいて!
必至にの思いを込めて筆頭魔導師の瞳を見た。
全ての思いを瞳に込めて。
しかし、見ただけで意思を伝えられるわけはなかった。
筆頭魔導師からの返事はなかった。
バルトルトは後ろの男に押されて先に進んだ。
バルトルトは結局誰にも告げられずに、スカイバードに乗り込まざるおえなかった。
絶望がバルトルトを覆っていた。
***********************************************
この続きは明日の朝更新予定です。
皇太子はこの国の筆頭魔導師に何度もアプローチしているようだが、いつ見ても邪険にされていた。
今回なんか頬に思いっきりもみじマークをつけられていた。
はっきり言って皇太子はハンサムだし、能力も高い。邪険にされる女よりは寄ってくる女に乗り換えれば良いのに、といつもバルトルトは思っていた。
そう、ついこの前までは。
前回来た時に皇太子と話そうとして、また筆頭魔導師につれなく避けられている場面に出くわした。
二人の修羅場に出くわすのもよくないので、避けて物陰に潜んだ、その避けた場に皇太子から逃れた筆頭魔導師が入ってきたのだ。
バルトルトを見ると人差し指を自らの口の前にもってきて黙ってくれるように目で頼んできた。
ここは王子のためにも声を上げるべきではとも思ったが、女性に頼まれたら断るわけにも行かない。それに、自分らには絶対的な存在の皇太子をあっさり袖にする筆頭魔導師に、爽快感と言うか、自分らにはない何かを感じていたためでもあった。
慌てて走っていく皇太子を二人で見送ると思わず二人で目を合わせて微笑んだ。
「テールマン様。下らないことに付き合わせてごめんなさい」
テールマンは名前を呼ばれて固まった。まさか、他国の筆頭魔導師に名前を覚えられているとは思ってもいなかったのだ。
「ごめんなさい。オーウェン様に用があったのよね。なのに見送らせてしまって」
そうじゃなくて自分の名前なんて覚えていてくれたことに感動したんだとは言い出す暇もなかった。
「娘さん、学園で頑張って勉強していらっしゃるのですか」
「どうして、その事を」
「オーウェン様も人使いが荒いでしょう。本国に家族がいるのに、何回も呼んではダメだってお話した時に、優秀な後継ぎの娘さんがいらっしゃって学園で頑張って勉強しておられるって、オーウェン様からお伺いしたの」
その話にまたバルトルトは驚いた。皇太子が自分の家族構成について知っているのにも驚いたが、筆頭魔導師がその自分を気遣ってあまりボフミエに呼ぶなと言ってくれたことにも感動したし、その娘のことを覚えていてくれたことにも感激した。どこの王宮の后に一部門の下っ端の役人の家族構成を気遣ってくれる者がいるだろうか。
バルトルトはこの時から密かに皇太子を応援することにした。
ドラフォードの王妃にはぜひともこの筆頭魔導師様になって頂きたいと。
その帰る時に、娘さんにとお守りを貰ったから応援を始めたわけでは断じて無い。
「何故欲しいと言った俺には貰えないのに、部下には渡すんだ」
という皇太子の冷たい視線にもめげずに、
「うちの侍女たちの為に作ったんだけど、この前仕事を邪魔したお詫びです。余り物で申し訳ないけれど貰ってほしいんですけど、霊験も少しはあるはずよ」
ウインクして筆頭魔導師はバルトルトに握らせた。
「ありがとうございます。娘も喜んでつけると思います」
「気に入ってくれたら良いけど」
少し心配そうな筆頭魔導師と恨めしそうな皇太子の表情のコントラストに思わず笑いそうになったが………
そう、そして、そのバルトルトは切羽詰まっていた。
昨日いきなりパレルモ王国の影とかいう人物が接触してきて、アルフェスト卿の乗ったスカイバードを爆破しろと魔導爆弾を渡して来たのだ。そんな事ができるかと断ろうとすると、娘を預かっている。皆で嬲りものにした後にすっぱたかで川に浮かべてやろうかと凄まれた。
「助けて、お父さん」
男は娘の声を聞かせてきた。
バルトルトはどうしようもなかった。誰かに一言でも話せばその瞬間に娘の命は断つと脅されていた。部屋の中も全て監視されていると。
ボフミエの王宮にも影と言われる人はいるようだった。
娘のためにはやるしか無かった。
でも、それで娘が助かるという保証もなかった。
しかし、誰にも話せない。以心伝心が出来れば良いのに。
もうどうしようもなかった。
そして、スカイバードに乗る時間になった。
絶望のあまり何も考えられずに、バルトルトは下を向いて搭乗口に向かっていた。
もう終わりだ。何もかも。
その絶望する手を誰かに取られた。
はっとして見るとそれは筆頭魔導師様だった。
「今回はわざわざご足労賜りありがとうございました」
筆頭魔導師は全員と握手しているのだ。
バルトルトにはそれが最後の希望の手に見えた。
「すいません。筆頭魔導師様。お守り取られてしまって」
頼むから気づいて!
必至にの思いを込めて筆頭魔導師の瞳を見た。
全ての思いを瞳に込めて。
しかし、見ただけで意思を伝えられるわけはなかった。
筆頭魔導師からの返事はなかった。
バルトルトは後ろの男に押されて先に進んだ。
バルトルトは結局誰にも告げられずに、スカイバードに乗り込まざるおえなかった。
絶望がバルトルトを覆っていた。
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