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第十一章 パレルモ王国の陰謀

テレーゼの皇太子は大国外務卿の前で自分に都合の良いようにしようとしました

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傷だらけのジャンヌを見てアメリアが言った。それを聞いてジャンヌは咳込む。

「アメリア、お客様の前でその事を話すなんて」
ジャンヌは必死に誤魔化そうとした。実際にジャンヌらがやったことが自分の母に伝わるとまた何を言われるか判った事ではない。それでなくともジャンヌは前回ドサクサに紛れて組まれた王妃の礼儀作法講座を逃げ出した口だった。

「何言っているのよ。そのアーサーをほっておいて、クリスの侍女を囮に使って酷いことをしていたと聞いたわ」
それを聞いた瞬間ジャンヌが固まる。秘密にしたかったのに、それをこの皇太子はあっさりとバラしてくれていた。

「ちょっと、アメリア、それをここで話すか」
いくら自分が幸せだからって、周りのことを考えて発言してほしい。更にジャンヌは慌てた。アーサーはやっと何故、慌ててクリスが転移していったか本当の事情を察した。自分の侍女を囮に使われたと知ったらクリスが怒るのも当然だった。

「あら、別に良いじゃない。アルフェスト卿はオーウェンのとこの外務卿だし、身内よ」
「身内と言ってもな」
ジャンヌが流石に言葉を濁す。

「また、オーウェンのところのおばさまから、ジャンヌのところのおばさまに言いつけられたら困るからって猫かぶらなくてもいいじゃない」
「お前は、その被害の大きさを知らないからそう笑って言えるんだ。母の1時間の小言は本当に応えるんだからな」
ブツブツジャンヌが文句を言う。

「で、その結果オーウェンは顔にもみじマークをつけているのね」
アメリアが目ざとく見つけて言った。

「そうだ。クリスがアデリナの所に駆けつけようとして邪魔してしばかれたそうだぞ」
「何言ってる。そもそも、貴様らが、クリスに隠れてその侍女を囮なんかに使うからだろ」
切れてオーウェンが言った。

「えっ、オーウェンはそれ知っていたよね」
アレクが横から言う。
「そうだ。私達に邪魔されないうちにクリスを説得しようとしたんだろう。そもそも、自分がクリスのラブレターの存在を知らなかったと、納得させるためにわざわざアルフェスト卿をドラフォードから呼んだんだよな。どれだけ公私混同なんだと言いたいんだけど」
「その上、クリスにもみじマークつけられてたら世話ないわね」
ジャンヌとアメリアの言うことに何も言い返せなくてオーウェンは無言になった。

そんな背景があったんだ。まあオーウェンにも言いたいことは多々あるとは思うが、そんな理由ならもみじマークをつけられても文句は言えないような気がアーサーにはした。

「で、その総督様は何の用だ」
ブスッとしてオーウェンが言う。

「何の用じゃないわよ。こっちから送った急ぎの書類が全然返ってこないから催促の電話をしているんじゃない」
「新大陸から急ぎの書類なんてあったか」
不審そうにオーウェンが聞く。

「何通か送っているでしょ」
「おい、アメリア、お前、どさくさに紛れてヘルマンの副総督任命依頼書を送っているだろう。それは却下だぞ」
「何でよ」
オーウェンの言葉にきっとしてアメリアが言う。

「何故って決まっているだろう。副総督はモニカだろうが。二人も副総督はいらないだろ」
「良いでしょ。二人いても。そもそもあなたに任命権無いじゃない」
「はあああ、何言っている。人のことを言っておきながら、お前こそ公私混同だろうが。そもそも、お前自身がそちらにもうそんなに長い間いないだろう。こっちに帰ってくるんだろうが」
「だから短期間なら良いじゃない」
「そんなわけに行かないだろう」
「そこをなんとか」
「無理」
「ケチ」
「なんとでも言え。というか、ヘルマンをお前の王配にするのに、単なる箔付けのためだけだろうが。そんな理由で副総督なんかにつけられるか」

オーウェンは話を終わらせた。アメリアはなんとか、ヘルマンとの婚約を成立させたいのだが、犯罪者の息子、ヘルマンの父は前ボフミエ皇帝で世界をひっくり返そうとした張本人で、帝国が崩壊したので、身分上はヘルマンは平民になっていた。それやこれやでテレーゼ女王のオリビア自身が納得していなかったのだ。


「あ、そうだ。アルフェスト卿。あなたの所に一人養子をもらってくれない」
「養子でございますか」
アメリアにいきなり話を振られてアーサーは戸惑った。

「ヘルマンっていう元ボフミエ帝国の第三王子なんだけど」
「ヘルマン様でいらっしゃいますか。内務次官の」
アーサーの頭が高速に回転する。
その横でライナーが嫌そうな顔をしていた。

「ちょっと待て、勝手に人のところの公爵家を利用しようとするな」
「良いじゃない。公爵もテレーゼの王配と縁続きだと今後の外交に何かとやりやすいでしょう」
「それやるならクリスの所に養子縁組させてもらえば良いじゃないか」
ジャンヌが横から出てきて言う。
「ちょっと待て。それやるとヘルマンは俺の義理の弟になるじゃないか」
慌ててオーウエンが言った。

「何よ。王配が弟なんだから良いでしょ。というか、あなたがクリスと結婚できるかどうかわからないじゃない」
「何言っている。これは決定事項だ。ドラフォードの考えは纏まっている。そうだよなアーサー」
「まあ、おそらく」
「しかし、一部貴族連中には反対意見も根強く」
ライナーが横から口を出した。

「そうだろう。そうだろう」
それを聞いて横からアレクが出てくる。

「何しろ本人はクリス様にもみじマークつけられるくらいだし」
「アレク、貴様な」
「陳国王からもぜひとも皇太子の配偶者にお迎えしたいと非公式の依頼もあるし、クリス様は貴様と違って引く手あまたなのだぞ」
「おのれあの陳国王め。この前助けてやったのに」
アレクの言葉にオーウェンは歯を食いしばった。

「良く言うわ。陳国を助けたのは、クリス様がご決断されたからだし、それまではまったく助けようとしていなかったではないか」
「うううう」
オーウェンは唸るしか無かった。

そして、すぐに賛成しなかったライナーをきっと睨む。ライナーさえ余計なことを言わなければ、まあ言わなくてもアレクはチャチャ入れたと思うが・・・・。
その怒りの視線にライナーはビクッとした。

アルフェストはそれを見てため息をついた。余計な口出しする息子はまだまだだし、怒りを顔に出す皇太子もまだ子供だと。

二人には折り入って注意しようとアーサーは思ったのだった。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
上手くいってお花畑のアメリアと上手く行かなくて悩んでいるオーウェン
話はまだまだ続きます。
アメリアとヘルマンの話は『「神様、助けて!」現れた無敵の戦神は実は可憐な少女でした』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/359551746
にあります。当然クリスやオウ、赤い死神や暴風王女も活躍しているのでそちらもお楽しみ下さい。
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