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第九章 ザール教騒乱

田舎公爵令嬢はクリスにつっかかりましたが、田舎者の護衛達が主人を弾き飛ばしてしまいました

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ジャンヌらは前に丸テーブルをそれぞれ置かれて順番に生徒らが話しかける。
人気のあるテーブルは大行列が出来た。
魔導クラスの面々はジャンヌやアレクの机に群がり、事務クラスの面々はオーウェンの前に並んだ。

ロヴィーサらはオーウェンの前に並ぼうとしたが、憧れを抱く女生徒達と就職希望の生徒達の群れの前に弾き飛ばされていた。

「な、何で」
ロヴィーサは公爵令嬢なのに全く譲ってもらえなくて唖然としていた。
「まあ、姫様。皆暗くて姫様の事がよく見えないんですよ」
ドリスが慰めの声を上げる。

その弾き飛ばされたロヴィーサの前に机が置かれた。そして、遅れてきたクリスが学生であるビアンカを護衛に現れた。
全然場馴れしない、ビアンカ、目立つの大嫌いを慣れさせるために、メイとナタリーがクリスの横に強引につけたのだった。クリスはビアンカも学生だから学園生活を楽しませるためにも別行動させればと言ったのだが、二人は聞かなかった。

「あら、これは筆頭魔導師様ではありませんか。私ボフミエ皇帝の血を引く大公爵家の1つ、ロヴィーサ・ハイドランジアと申します」
いかにもお前よりは血筋が上なのだと精一杯背伸びをしたロヴィーサが挨拶をした。
クリスはその精一杯背伸びする姿勢に面白みを感じた。

「クリスティーナ・ミハイルです。ロヴィーサさんはハイランドにある公爵の方なのですね」
クリスのこの言葉にロヴィーサは切れた。ドラフォードとの国境にある台地ハイランドは四方を山に囲まれており、ハイランドの田舎者と入学してから散々陰でバカにされてきたのだ。

「そうです。マーマレードなんて田舎にある貴族と違って歴史のある公爵家なんです。」
ハイランドは精一杯嫌味を言う。ビアンカはクリスに投げかけられるロヴィーサからの嫌味に呆然とした。マーマレードはシャラザール3国の1つで歴史は古い。どちらかと言うと文明の中心地で、ボフミエと比べると絶対にマーマレードの方が立場的に上だ。高々出来て3代目のハイドランジアの1公爵令嬢が何を言うのかと目が点になる。ボフミエの公爵家は下手したらマーマレードでは子爵家と同等レベルであった。シャラザールの血が幾重にも入っているミハイル家に対して物が言える立場にはないはずだ。
とは思ったが、ビアンカは目立つのが苦手だ。出来たら何もしたくなかった。

「まあ、確かにミハイル領は穀倉地帯で田舎だわ」
クリスが笑って言った。クリスに嫌味を言ってくる令嬢は久しぶりだった。最近は雷撃のことが広く知れ渡っており、こんなにつっかかってくる令嬢はいなかった。

「なんでも、自国の皇太子に婚約破棄されてこの地に逃げて来たって本当ですの」
しかし、次の瞬間に周りは固まった。この小娘はなんて事言うのだ。少し距離をとっていた生徒達は、思わず雷撃を恐れたのか、さあーっと更に下る。

ビアンカは唖然としていた。この公爵のお嬢様、クリス様に何てこと言ってくれるのよ。私目立ちたくないのに。でも、なんとかしないと後でメイとナタリーに吊るし上げられる未来しか見えなかった。
「あ、あなた」
ボソボソとビアンカが反論しようとしたが、誰も聞いていなかった。

「まあ、事実はそのようなものね」
しかし、クリスはなおもにこやかに対応した。もうエドワードのことなどはるか昔の話で、クリスの胸は全く傷まなかった。

ビアンカはさっさと誰かが助けて見れないかと周りを見るとこちらに駆け寄ってくるアメリアが写った。

「ロヴィーサ、あなた筆頭魔導師様になんてこと言うの」
「学園長は黙って頂けますか。この由緒正しきハイドランジア公爵令嬢が話しているのです。学園長風情が話を遮るのはいかがなものかと」
その一言にアメリアは切れた。アメリアはシャラザール3国の筆頭テレーゼ王国の皇太子なのだ。辺境の地のボフミエのたかだか1公爵家など、テレーゼでは男爵クラス、その小娘が、何を言うのだ。
「はんっ。あなた何言っているの。この学園は身分を問わず平等なのよ。王族も公爵も関係ないの。そもそも、身分で言っても、…………」
その口を慌てた護衛騎士のレオが塞いだ。身分差云々を学園長が言ってはいけない。

「何なの。テレーゼなんて田舎の3流国でしょ」
そのアメリアにロヴィーサは爆弾発言をした。
流石にレオが目を見開いた。
動かないビアンカをどけて、クリスの横にメイとナタリーが出る。
プツツン切れてアメリアが叫ぼうとした時だ。

「うわあああ、メイ様」
それまで、呆然とロヴィーサを見ているだけだった護衛騎士見習いのドリスがクリスの横のメイに向かって叫んでいた。

「えっ」
皆慌ててこの田舎騎士とメイを見た。

「お会いしたかったです。わ、私、メイ様の大ファンなんです。サインください」
横にいたビアンカを弾き飛ばしてドリスはメイに飛びついていた。

「えっ私?」
今までクリスの横にいても地味で、凛々しいナタリーとか歴戦の勇士のアルバート、ジャスティン、ウィルの影に隠れていたメイは驚いた。

「私、魔術はあんまり得意でなくて、でも反射だけは少し出来るんです。師匠にクリス様の騎士で反射で魔王を倒した方がいるって聞いてずうーっとお会いしたいって思っていたんです。こんな所でお会いできて幸せで死にそうです」
辺りはこの田舎騎士見習いのドリスの出現にあっけに取られていた。怒鳴り返そうとしていたアメリアもそのタイミングを逸していた。

「どうしたの?姉さま」
そこへ騒ぎを聞きつけてウィルが転移してきた。

「ああああ、ウィル様」
また大声で今度は魔導師見習いのオスキャルが大声で叫んだ。
「えっ」
ウィルは驚く。女に言い寄られることは多々あったが、男に叫ばれるのは初めてだった。

その驚いているウィルにオスキャルは駆け寄った。
「お、俺、ウィル様の大ファンなんです。ウィル様は12歳で姉上を守るために実戦に出られて赤い死神とやり合われて勝ったって聞いて、俺、魔導師としてはまだまだなんですけど、転移は出来て、自分の一つ上に赤い死神とまともにやれるすごい人がいるって聞いてずうっとお会いしたかったんです」
腕をとらんばかりに言い寄られてウイルは引き気味だったが、赤い死神に勝ったと言われていると聞いて悪い気はしなかった。
最もウィルがアレクに勝てた試しはなかったが、そんな事は知ったことではなかった。そう言う噂が、魔導学園に広まればそのうちに勝てるようになるかもと楽観的なウィルだった。

その様子を驚いてクリスは見ていた。まあ、日頃日陰のメイが日の当たるところに出られて喜んでいたが。それよりもハイランドシアの人々は何故こうも声がでかくて自分勝手な人が多いのだろうか。個性的な人が多いような気がする。官僚に加えたら、もっとボフミエのためになるのかもしれない。クリスは調べてみようと思った。

一方、ロヴィーサは配下のオスキャルとドリスにその場の支配権を奪われて呆然としていた。

「な、何なのよ。この二人。私が話していたのに。そこのあなたどう思う」
同じく横に弾き飛ばされたビアンカにロヴィーサが愚痴った。いつもは絶対に自分が中心なのに今日は配下の二人が中心だった。

「本当に目立つ奴は厭よね」
「本当に」
何故か話が合って二人は急激に親しくなっていくのだった。
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