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第八章 ボフミエ王宮恋愛編

東方王女はただひたすら大国皇太子の胸の中で泣きました

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依然は城壁の側のベンチで頭を抱えていた。
陳国は最盛期の帝国の時代からは遥かに国力が落ちていた。昔は周辺諸国の多くが朝貢に来ていたのだが、今はその数も殆ど無くなっていた。10年前のノルディン帝国との戦いで負けてからは転落の一途を辿っていた。周辺部族が次々に離脱し逆に襲ってくるようになっていた。
父国王からはどんな事をしてでもオーウェンからドラフォードの陳国援助の確約を得ろと言われていた。一生懸命オーウェンに接近したが、オーウェンの心はクリスにしか向いていないようだった。そして、信頼していた護衛魔導師の悠然がクリスに取られてしまった。依然は追い詰められていた。

その悩む依然の前にオーウェンは立った。
「悠然とは悠然が15歳の時からずうっと一緒だった。苦しい時も楽しい時も一緒だった。でも、あっさり聖女クリスに取られてしまったの。私の魅力がないからね」
悠然は自嘲気味に言った。

「さあ、それはどうだろう。たまたま、クリスの感覚と彼女の感覚にあったからではないのか」
オーウェンは言った。
「オウ、慰めは良いわ。没落の国の王女よりも聖女クリスティーナ様の方が魅力的よ」
そう言う依然にオーウェンは掛ける声がなかった。

「私じゃ無理なのよ」
依然はそう言うと泣き出した。
「依然……」
「オウ!」
依然が泣きながらオーウェーンに抱きついた。
オーウェンは驚いたが、ただただ、その依然を見おろしていた。
「ごめん、今だけ今だけ幼馴染のオウとしてこのままでいて」
月もない暗闇に依然の泣き声だけが、心の底からの泣き声だけが響いていた。
そして、その魂の叫び声をボフミエの亡霊どもが聞いていた。


一方ノルディン帝国の皇宮では外務大臣のバザロフが皇帝ヤロスロフ・ボロゾドフに拝謁し、アレクから言われた事を報告していた。

「皇太子は余がそのボフミエの小娘の機嫌を取れと申しておったのか」
急激に機嫌を悪化させて皇帝は言った。
「はっ。私も信じられない面持ちでございますが」
慌ててバザロフが応える。
「貴様もそう思うのか」
「とんでもございません。私めは皇太子殿下が大げさにおっしゃっていらっしゃるとしか思えません」
「そうであろう。イヴァン。現地軍の状況はどうなっておる」
皇帝は宰相に聞いた。
「はっ。一週間以内には大攻勢が可能かと」
「マーマレードの敗戦以来3年ぶりの攻勢だ。今回は負けるわけにはいかん。
バザロフ、その小娘はなんとしても抑えろ。やり方は貴様に任す。多少被害が出ても仕方があるまい」
「御意」
バザロフは皇帝の言葉に驚きながら前を退いていった。

「よろしかったのですか。皇太子殿下の言うことを聞かれなくて」
「あやつはボフミエの小娘を気にしすぎる」
不機嫌そうに皇帝は宰相の言葉に応えた。
「今回の件、マトヴェイがうまくやれば、皇太子の交代も考えねばなるまいて」
皇帝はそう言うと酷薄そうに笑った。マトヴェイはアレクの下の皇帝の息子でここ最近急激に発言力を増していた。皇太子がボフミエの小娘に牙を抜かれたのならば、交代させるしかあるまいと皇帝は考えていた。



バザロフは自宅に帰ると、すぐに暗部のミハイロヴィチを呼び出す。
「外務卿、お呼びでございますか」
ミハイロヴィチは特殊電話に出た。
特殊電話は魔導師同士を結ぶ通信手段で基本的に盗聴の恐れはなかった。

「奴隷として売られていたボフミエの小娘の侍女の母親を捕まえているな」
「はい」
「その者に魔導爆弾をセットしてボフミエ宮殿に派遣しろ」
「目標はボフミエの小娘ですか」
「そうだ」
「皇太子殿下に被害が及ぶ可能性がございますが」
ミハイロヴィチは危惧した。
「皇太子殿下の魔力量は絶大だ。問題なかろう。それに皇帝陛下は多少の犠牲は止む終えまいとおっしゃった」
「判りました。ただ、その者は人間爆弾として殺すのは惜しい容姿をしておりますが」
ミハイロヴィチは下卑た笑みを浮かべた。
「何を言っておる。今回の件、失敗は許されない。我らに繋がる証拠は残すなよ」
「了解いたしました」
ミハイロヴィチは頭を下げた。

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ノルディン帝国の圧力に苦しむ日の沈みそうな陳王国。在りし日の姿は見る影もなく、ドラフォードに援助を頼むもつれなく断られ最後の希望を依然王女に託します。
依然王女は初恋の幼馴染の胸の中でただただ泣くしか無かった・・・・・・
聖女クリスはそれを許すのか
一方アレクに釘を差されたにもかかわらず、クリスと言うかシャラザールにいらないことをしようとしているノルディン帝国
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