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第八章 ボフミエ王宮恋愛編

赤い死神はクリスのお気に入りの宋の地を攻めるなと本国に言ってくれました

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取り敢えず、悠然の身柄をどうするかは明日また考えるということで、悠然は外務の職務に戻ろうと食堂から外に出た。
しかし、執務室に入る前に、アレクとペトロに呼び止められた。そして、隣の個室に連れ込まれる。
えっなんで?クリス様と長くお話したから?でも、赤い死神のターゲットは暴風王女だと皆言うし、クリス様と話しても問題ないはずだ。長い間話しすぎたというのは確かにあるが。その注意を受けるのだろうか。悠然は不安一杯だった。

「そんなに警戒しなくて良い」
アレクが言った。
そんな事言われても赤い死神と一緒に個室だ。悠然は生きた心地がしなかった。

「本当に君もいらないことやってくれるよね」
しかし、アレクの言葉はなかなかきつい。
「私はクリスティーナ様とお話していただけですよ」
なんとか、赤い死神相手に噛まずに言う。
「まあ、良い。今からノルデインの外務大臣を呼び出してくれ」
アレクが指示をする。
「私がですか?」
「そう、そして、これからやることははっきりとクリス様に報告してくれよ」
アレクがそう言うと、悠然は何のことか全然判らなかったが、取り敢えず、ノルディンの外務省に電話することにした。

「俺が話したいと言えばすぐに繋がるだろう」
「こちらボフミエ外務省。アレクサンドロ外務卿がそちらの外務卿とお話したいと」
「少々お待ち下さい」
出てきたオペレーターは慌てて、切り替える。
少しの時間を経て外務卿が出た。

「これはこれは皇太子殿下。いかがされましたか」
「バザロフ。また、軍部がいろいろ暗躍しているようだな」
「さあ、それはどうだかわかりませんが、陳国の人間を通して私にお話とはなんですかな」
不審そうにバザロフがいう。
「貴様に忠告しようとしたまでだ。今までの友誼によってな」
「ほう、これはこれはありがたいお言葉ですな。皇太子殿下にご助言賜るとは」
「バザロフ。言えることは一つだけだ。筆頭魔導師様がこの女に大変興味を持たれた。貴様らの愚かな行動からこいつの故郷の宋の地を外せ」
アレクが何を言っているか悠然には判らなかった。たしかに今国境沿いにノルディン軍が集結している。悠然の故郷の宋の地も戦場になる可能性があると父が、南部の周氏に養子に差し出して3年。今回は更に安全なボフミエに来させてくれた。もしもの時は帰ってくるなとは言われている。
依然王女はドラフォードに援助を求めようとしていた。しかし、外務大臣の周氏によるとなかなか難しいと。ボフミエに何とか伝を作って、将来的に援助してくれればありがたいと言われていた。

しかし、このボフミエは、まだ建国した所、GAFAとの争いをなんとかしのぎ、魔王との戦争をおえた所で到底ノルディンの大軍相手に手を貸してくれるとは思わないし、そもそもノルデインの皇太子が政権にいるのだ。一緒に攻め込まれても仕方がないと思っていた。
クリス様の魔導師になろうとしたのは、少しは温情を宋の地にかけてくれるのではないかと思ったことがないとは言えなかった。ボフミエと将来的な伝を作りたい国王からの指示でもあったが。
しかし、まさか、こんなに早く、それも赤い死神からその本国に手を出すなと言ってもらえるとは思わなかった。

「何をおっしゃっていらっしゃるかわかりませんが」
「別にしらを切ってもよいが、貴様らが良く理解していないからはっきり言っておく。
3年前、ノルディンの精鋭、2個師団を殲滅したのはクリス様だ。クリス様は戦神シャラザールの化身だ。クリス様が切れればノルデイン帝国と言えども、存続が難しくなる。ゆめゆめ逆らうな」
「またまた、そのような伝説の戦神を出されても」
バザロフはとっさには信じられなかった。赤い死神が冗談を言っていると思った。

「貴様らは馬鹿なのか。魔王も殲滅された。クロチア王都の惨状の跡を貴様らの暗部は確認したのではないのか?」
「あれは魔王がしたことでは」
「対外的にはそうなっている。愚かな魔王はクリス様の怒りを買った瞬間、王都もろとも殲滅されたんだよ」
「殿下そのようなことが本当だとは到底思えません」
バザロフは首を振った。
「私は冗談を言わない。元々皇帝陛下にもお伝えしているが、クリス様を怒らせると全20個師団と言えども殲滅させられるぞ」
「そんなバカな」
「ま、信じる信じないは貴様に任せる」
アレクの言葉に呆然とバザロフはしていた。
悠然もその言葉は信じられなかった。しかし、剣を交えた赤い死神は本物だった。凄まじい魔力と剣技を持っており、悠然は全然太刀打ちできなかった。その赤い死神が言うのだから本当にクリス様は凄いのかもしれない。

「あっそうだ」
最後に思い出したようにアレクが言った。
「つまらない小細工をクリス様相手にするなよ。怒りに切れると無意識にクリス様は雷撃を飛ばされる。GAFAがどうなったか、モルロイ城がどうなったか知っていような。
クリス様が切れると帝都と言えど一瞬で消滅されるぞ。シャラザール山を一瞬で消滅させたお方だ。くれぐれも気をつけるように父上にもお伝えしてくれ」
そう言うとアレクは電話を一方的に切った。

悠然は呆然と見ていた。

「以上だ。悠然は今日はもう上がれ」
アレクは立上った。

「アレクサンドロ様。有難うございます」
悠然はアレクの前に、椅子から前に身を投げだして土下座していた。
赤い死神がまさか、自分の宋のために自国の外務大臣に指示を出してくれるとは思ってもいなかった。
「何をしている。俺に土下座などするな。礼なら筆頭魔導師様に言え。あそこまで言われたら釘を指しておくに越したことはない。もっともノルディン帝国が守ってくれるかどうかは別の問題だぞ。いや、現場は守らないと思うぞ。俺が出来るのはここまでだぞ」
いうや、アレクは出ていった。
悠然は号泣していた。
もう国がノルディンの大軍に蹂躙されるのも時間の問題だと思っていたのだ。
それを怖い赤い死神がやめろと命じてくれるなんて思ってもいなかった。


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人物紹介戦神シャラザール

戦神シャラザール クリスに憑依している1000年前にシャラザール帝国を作った女帝
その当時魔王を退治したことで神として天界に招かれる。
しかし、曲がったことは許せないシャラザールは邪神共を次々地上に叩き落として全能神の怒りを買って(全能神の娘で寵姫でもあった爛れた関係の美の女神も叩き落としていた)地上に落とされる。
見た目や性格はクリスと言うよりもジャンヌとそっくりなのだが、何故クリスに憑依することになったかは下記参照下さい。
「赤い死神の大侵攻作戦で王国を蹂躙します…しかし、その前に無敵の戦神が立ち塞がりました」
https://ncode.syosetu.com/n4865gt/
なんとシャラザールはジャンヌとクリスを見比べて自分はクリスに似ていると言ったとか言わないとか他の誰もが認めなかったとか。しかし、その見栄のおかげで散々忍耐強い我慢を強いられることになるなんてシャラザールは思っていなかった……
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