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第八章 ボフミエ王宮恋愛編

王宮舞踏会2 大国皇太子はクリスと踊れませんでした

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そして、舞踏会が始まった。
ペアを作れた組が踊りだす。
官僚も参加していたので、圧倒的に男の方が多かったので、見ている男性は多かった。
クリスは新閣僚のコレキヨと踊りだした。
社交界の特訓を散々されたクリスは今日も流れるように体を動かしていたし、ジパグ国で皇太子のコレキヨの踊りは洗練されていた。クリスとコレキヨの踊りは美男美女のペアで優雅だった。
クリスが回る度に金髪が黒髪の周りを舞っていた。
黒い天使と金色の天女の舞だった。
「クリス様、こんなに優雅に踊られる方と初めて踊りました」
腕を添えてステップを踏みながらコレキヨが言うと
「まあ、コレキヨ様がそのようにお世辞を言われるなんて」
クリスが少し笑って振り返る。
「いえいえ、決してお世辞などではありません」
「まあ、でも、私もコレキヨ様みたいに優しい方と踊ったことがありませんわ」
そう言うと満面の笑みでクリスはコレキヨを見た。
「有難うございます」
思わずコレキヨは赤くなった。


それをみて、オーウェンは歯ぎしりする。
クリスは自分と踊った時でもあんな笑みを見せてくれたことはないのに。

依然は夢にまで見たオウとの舞を踊れてとても幸せだった。
でも、オウはクリスの方ばかり見ていた。
「オウ!」
頭にきてわざとオーウェンの足を踏む。
「痛っ」
オーウェンは思わず顔をしかめて踏んだ依然を見る。
「酷い。他の人見るなんてマナー違反」
ブスッとして依然が言う。
「ごめんごめん、もう見ないから」
そう言ってオーウェンが依然に笑いかけた。

その姿を視界の片隅に見てクリスの胸が痛む。
「クリス様。私と踊って良かったんですか」
その姿に思わずコレキヨが話しかける。
「ええ、当然です。あなたは私達の新しい仲間なんですから」
そう言ってクリスはコレキヨに微笑みかけた。


そして、一曲目が終わるとクリスはコレキヨをイザベラに任せてた。
そう、今日は新しい人の紹介以外に、いつも頑張ってくれている官僚の皆を舞踏会に慣れさせるという意味もあるのだ。オーウェンのことなんて後回しだ。
クリスはそう自分に言い聞かせると巨大な執務室の扉を開けた。

「あああ、やっぱりスティーブとロルフがいる」
ブスッとしてクリスが言った。

「えっクリス様、災害対策で手が離せなくって」
スティーブ・スミスがパーティー会場にいない言い訳を告げる。

「ジャスティン、災害対策ご苦労様」
魔導電話で画面に映っていたジャスティンに言う。

「でも、今日は災害対策に格好つけてパーティーを逃げたでしょ」
「えっいゃ、そのような」
クリスの言葉にジャスティンは目を泳がせる。
「まあ良いわ。現場だからお酒を飲めとは言えないけど、帰ってきたら皆で食事でもしましょう。それで許してね」
「クリス様。そのような………………」
「ヤッター」
「クリス様本当ですか」
ジャスティンの言葉を打ち消して後ろで男達が叫んでいた。

「で、今日のこれからの指揮はジャスティンお願い。非常時は王宮に連絡をして下さい」
「お任せ下さい」
画面のジャスティンは腕を胸につけて頭を下げね。
「はーい、全員、そのまま会場に行きます」
残っていた20人くらいを会場に行くようにクリスは促した。。
「一曲は必ず踊ってね」
クリスの声が執務室に響く。
「クリス様。俺はちょっと……」
ロルフは逃げようとするが、
「ロルフはスティーブの後に私と踊るのよ。判った!」
「そんな、クリス様と踊るなんて」
ロルフは呆然とした。目立つのが嫌いなのに、美しい筆頭魔導師様と踊るなんてとんでもなかった。

「何言っているの。たまには付き合いなさい。はい。じゃあスティーブからね」
クリスはスティーブの手を繋いで強引に執務室から連れ出す。

「えっ、いや、クリス様。そんな事したらオーウェン様に殺されます」
「何言っているのよ。オウは依然王女と踊っていたわよ」
いうや、強引に、広場の中央まで連れて行くとペトロに合図する。

ペトロがヴァイオリンを弾き出す。それに合わせてオーケストラが音を奏でる。
壮大な音楽で、皆踊りだした。ジャンヌはザンとライラはフェビアンと踊っている。オーウェンは悠然と依然はシュテファンとペアを組んでいた。

「どう、スティーブ。少しは慣れた」
「はい。強引に内務につかされてから休む間もない怒涛の3ヶ月ですけど」
そして周りを見るとこちらに強い視線を感じる。
「それよりもオーウェン様の視線が怖いんですけど」
「ふんっ。今日は踊り慣れていない者に少しは慣れてもらう為のものだから、良いのよ。
元々そういう話になっているし」
クリスはぷいっとして言った。
「そうは言ってもオーウェン様の機嫌が悪いと僕たち最悪なんですけど」
「えっ。内務卿は自分の至らなさのせいで部下に当たるの」
不機嫌そうにクリスが言う。
「いや、そういうわけではないですけど…………」
必死に言い訳をスティーブは探す。
「ま、オーウェンのことはどうでもいいわ。せっかくだからスティーブも楽しみなさい。それとも私とでは嫌?」
「いえ、そんな事は。クリス様と踊れるのは光栄です」
「なにか違うよ。その言い方」
「そうは言っても平民風情が言えるのはそんな言葉しか」
「スティーブ。ここは平民も貴族も関係のないボフミエ魔導国よ。魔力の大きさが全てなんだから」
「魔力もクリス様に比べると殆ど無いんですけど」
スティーブはボソリと言う。
「でも、内務の仕事には精通してるじゃない。ここは貴族の出身とか関係ないからね。いつまでも下にいられるとは思わないでね。オーウェン様もいつまでもここにはいないと思うし」
「しかし、ヘルマン様やシュテファン様もいらっしゃいますよ」
「それはそうだけど、あなたの可能性を閉ざさないでね。あなたの推薦をしたのは私だと忘れないで」

そのクリスの言葉に驚くスティーブを見て、オーウェンは歯ぎしりして悔しがっていた。
「オーウェン様。そんなにクリスティーナ様が気になりますか」
パートナーの悠然が聞く。

「ああ、ごめん。今日は俺は君らのお相手をするように言われているんだ」
「そうですか。無理しなくていいですよ」
「仕事しないとクリスに殺されるよ」
その言葉に悠然は真っ赤になる。
「クリス様の事呼び捨てなんですね」
「まあ、幼馴染だからね。ジャンヌとか依然も呼び捨てだし」
「まあ、そうですけど」
悠然はここが、超ハイスペック舞踏会だと改めて気付いた。
真横にはジャンヌ・マーマレード皇太子が通過したし、その横には今、陳国と紛争しているノルディンのアレクサンドロ皇太子殿下がいた。アメリア・テレーゼ皇太子殿下やコレキヨ・ジパング皇太子殿下もいる。そして、今踊ってくれているのは世界中の女性が熱望する大国ドラフォードの皇太子殿下のオーウェンなのだ。こんな事はもう二度と無いはずだった。
「オーウェン様。踊って頂いて有難うございます。一生の思い出にします」
「えっいや、俺なんて大したことは。君も1年間はボフミエにいるんだろ。こんな機会ならまだまだあるさ」
「えっ、でも、ナタリー様がおっしゃっていらっしゃいましたよ。オーウェン様はクリス様以外とはめったに踊らないし、ナタリー様自身、子供の時に一回しか踊ったことは無いと」

「えっ、そうだっけ?」
そう言えばクリスに他の令嬢と踊れと言われた時以外は殆ど舞踏会で踊ったことが無かったことを思い出した。ま、自分と踊る事が一生の思い出になるのならば、たまには踊るしか無いかとオーウェンは思った。クリスからもできるだけいろんな奴と踊れと言われていたし。でも、オーウェンはクリスが笑顔で踊っているのを見る度に歯ぎしりして悔しがっていたが……。
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