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第七章 魔王復活

クロチア侵攻前夜

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クロチア王国王都クロチアは騒然としていた。
クロチア川沿いに展開する王都は人口10万人を誇り、国の多くの人口がここにあった。
その王城は川沿いに石垣に覆われた小山の上にあった。
川側からは絶壁の上に町側は城壁に囲まれており、難攻不落の要塞と化していた。
かつてこの城を落とせた軍は数えるほどしかなかった。

その王城にはモルロイが軍を国境に集めつつあるとの情報が次々に入っていた。
「国境沿いのクロチア川沿いに敵騎兵を中心に5千人が展開しているようです」
国王ダーヴィト・クロチアにセサル騎士団長が報告する。
「こちらの展開は」
「東方軍1万が展開しております」
「数の上では勝てるか」
国王が言う。
「はい。元々モルロイの兵士の数は1万くらいです。内乱で少なくなっておりましょう」
セサルは頷いた。
「我が国に進攻しようとするなど何をとち狂ったのか」
クロチアにはカーンが魔王という認識は無かった。
「カーンが魔王になったという情報もございますが」
セサルが言う。
「ふんっ魔王など所詮伝説。何ほどの者があろう」
国王は言い切った。
「正義の騎士に勝ったというような噂もございますが」
内務長官のルチッチが一抹の懸念を言う。

「ふんっ所詮正義の騎士など眉唾物。わが国にも優秀な騎士団はあるし、ここに魔導師もおる」
国王は後ろに控える魔導師達の方を見た。

「さようでございます。我らボフミエ魔導国の魔導師達と比べても決してひけをとりません」
魔導師長のバジノヴァーが応えた。
「それにカーンはボフミエの筆頭魔導師に負けたとか」
「クリス様にでございますか」
「ベンヤミーンが報告してきおったわ」
ベンヤミーンはクロチアの第三王子で王族が揃うボフミエに今後の為にと留学したのだ。
やたらと赤い死神に心酔している様は良いとは思えなかったが。
まあ、大国ノルディンの皇太子と面識があるだけでも大分違うだろうとは思っていた。
ただ、その筆頭魔導師たるクリスの様子をやたらと世界最強の魔導師だとほめてくるのが玉に瑕だったが。

「その息子の話によると筆頭魔導師の小娘は何百キロも離れたカーンを雷撃攻撃したそうだが」
「何百キロも離れて雷撃したのののですか」
国王の言葉に信じられないという顔をしてルチッチは言った。

「そんな事が出来るはずはございません。何かを大げさにお聞きなされたのでしょう」
魔導師のバジノヴァーが言った。
「そうだな。そう言う事が出来るなら余から筆頭魔導師様にお願いしたいところだ。その遠距離攻撃でこのクロチアを救って頂きたいと」
「本当でございますな。そのような事が出来ましたら是非ともお願いしたいところです」
国王と騎士団長は笑い合った。
周りには楽観モードが立ち込めろていた。
ルチッチはそれがとても不吉に思えた。



「クシュン」
クリスはかわいくくしゃみをした。
「どうしたクリス。風邪か」
オーウェンが慌てて聞く。
「いえ、大したことはありません」
「そんなことは無い。注意してもらわないと」
オーウェンは後ろに手を挙げる。閣議場の後ろで控えていた侍女のアデリナが慌てて上着を持ってきた。
「そうだぞ。クリス。お前はカーンに対する最終兵器なんだから気を付けてもらわないと」
「ジャンヌ。勝手にクリスを兵器にするな」
ジャンヌにオーウェンが怒って言う。

「しかし、あの魔王に勝てるのはクリスだけだぞ。体は大切にしてもらわないと」
「何故、か弱いクリスを戦場に立たす必要がある」
ジャンヌにオーウェンが反論した。
「言ったろう。魔王に勝てるのはクリスだけだって。お前も謁見室で見たろう。あの雷撃を」
「それは見たが、しかし」
ジャンヌの言葉にオーウェンが反論しようとする。

「オーウェン様良いのです。私はこのボフミエ魔導国の筆頭魔導師。戦場といえども私がいる必要があるのならば立ちます」
「しかし、クリス」
「モルロイの動きはどうなっているのですか」
なお反論したそうなオーウェンを手で制してクリスは言った。

「今のところクロチアの国境に展開しているのみです」
アレクが言う。

「援軍の要請は」
「今のところありません」
クリスの問いにアレクが応える。

「テレーゼからの魔王に対する要請もありました。救援に出るかどうかですが」
「まだ必要ないのではないですか」
クリスの問いにオーウェンが応える。
「そうです。まだ要請が無いですから」
「そうだ。クロチアの奴らは頭が高すぎる。食料の援助もしてくれなかったんだから、なりふり構わず頭を下げてきた時に初めて出れば良いのではないか」
アレクとジャンヌもオーウェンの案に賛成する。

「援助要請も無いのに兵を出す事は下手したら侵略とみられることもありますし」
アメリアが言う。
「そうだ。クロチアはまだ、魔王の脅威が判っていないと思うぞ」
ジャンヌが言い切る。
「好意で出兵して勘違いされる程馬鹿馬鹿しい事もありませんし」
アレクもそう言った。

「そうですね。判りました」
残念そうにクリスは言った。
おそらく魔王の脅威が判った時には手遅れだろう。
何も出来ないで手をこまねいているのはとても心苦しかった。
しかし、準備をしておく必要はある。

「ジャンヌお姉様。お姉さまの魔導部隊を北方のカロエに向かわせて下さい。
ジャスティン様もカロエに。カロエに展開中の北方軍には内密に出撃用意を」
「判った」
「御意」
二人は頷いた。

「オーウェン様はカロエに兵糧の集積をお願いします。アレク様はどのような状況にも対応できる様、救援計画の策定をお願いします」
「判りました」
二人は頷いた。

しかし、ボフミエでは援軍の準備が着々と進められたが、不幸な事にクロチアからは援軍要請が来ることは無かった。
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人物紹介
ジャスティン・ギンズバーグ28 ボフミエの正義の騎士
皇帝に逆らって逃亡。悪を憎み例え皇帝といえども許さない正義の騎士
その力はおそらく赤い死神のアレクより上ではないかと。
おそらく世界最強騎士
今はクリスに心酔しクリスの騎士となっている。
ボフミエ騎士団長
魔王には負けたが、命をかけて撃退している



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