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第七章 魔王復活

クリスは絶体絶命のピンチに立ちました。ワットの村に死病の黒死病が流行り出しました

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ワットでは厳戒態勢がひかれていた。
ジャスティンを倒したカーンが相手という事で魔導師団はジャンヌを中心に半数の人員を展開。
騎士団はアレクを中心にその半数を展開。北部の他地域にも一応残りの大半を展開していた。
手薄になる南部地方はドラフォード東方第一師団の助けを借りようとしていた。

騎士団の主力のジャスティンは病院だが、代わりにアレクがいる。
戦力的には充実していた。クリスもウィルと一緒に転移してきており、
今回はカーンが転移して来れば即座に攻撃できる準備は完璧だった。

しかし、中々カーンはやって来なかった。
いつまでもここに大軍を止めておくことも出来ずに、皆は焦りだした。


「カン・カンだか何だか知らないけど、おそれをなして来なくなったのか」
「そう言う訳は無いと思うが」
ジャンヌの言葉をアレクが否定する。
「しかし、暇だな。せっかくこれだけのメンツが揃っているのだから訓練でもやるか」
「そうだな」
アレクが言う。

「隙あり!」
次の瞬間にはジャンヌに転移して来たウィルが模擬剣で切りかかってきた。

ギンッ

それをジャンヌが剣で受ける。

「ふんっ。ウィルもまだまだ」
剣に魔力を込めてジャンヌはウイルを弾き飛ばした。

「まだまだ」
しかし、ウィルは態勢を整えて再度切りかかる。

「なんだかウィルはまだ学生気分ですね」
クリスの横で護衛しているアルバートが呆れ気味に言った。

「アルバートも行ってきていいわよ」
魔道具で決済文書を読みながらクリスが言った。
魔導電話話介して大量の決裁書類がオーウェンらから送られてきていた。
オーウェンはクリスらをワットの村で遊ばせるつもりはないらしい。

「しかし、私はクリス様の護衛です」
「でもこれだけ兵士がいれば何とでもなるし、障壁バリアはジャルカ様に訓練に付き合ってもらってさらに磨きをかけて来たから。奇襲されても基本的には少しはもたせられる様になったわ。
だからメイと交代で訓練してきていいわよ」
決裁書類を目も止まらない速さで処理しながらクリスが言う。
「判りました。交代で訓練に入ります」
アルバートも喜び勇んで訓練に挑んでいった。
何しろここには百戦錬磨の戦士が多々いるのだから、得るところも多いのだ。


現場ではみんな充実していたが、後方で待機しているオーウェンやグリフィズの方がイライラしていた。
「なんでモルロイの奴らは攻めて来ない?」
「まあ、我々の布陣に恐れをなしたのではないですか」
ヘルマンが言う。
「そうですよ。元々モルロイの国力などいくら落ちぶれたとはいえボフミエの半分もありませんよ。
そんな国に戦争を仕掛けるなど愚の骨頂では無いですか」
副官たちが言う。

「それなら、元々手は出してこないだろう。
使者まで送ってワットに注意を向けさせたんだ。
これは陽動で実は国都襲撃するとか」

「一応国都も厳戒態勢を敷いていますし、ジャルカ様もいらっしゃいます。
何かあればクリス様とジャンヌ様アレク様ウィル様もワットからならすぐに転移して来られますよ」
シュテファンが言った。

「うーん、しかし、何か良からぬことを企んでいると思うんだよな」
オーウェンが言った。
そう奴らが何も考えずにワットに兵士らを集めさせたのには理由があるはずだった。



クリス等幹部が今後の協議しているところに慌てた兵士が駆けこんで来たのは兵士たちが展開してから3日目だった。
「大変でございます。村はずれで倒れておりました旅人を介抱しておりましたところ、体のいたるところに黒い斑点が現れたとのことでございます」

「何だと黒い斑点だと」
アレクは青くなった。
「はい、当初は高熱を出しているだけだったのが今朝良く見ると体のいたるところに黒い斑点が現れだしたと」
兵士も青くなって報告する。

「黒い斑点と言うと黒死病か」
ジャンヌがぽつりと言った。

黒死病とは当初は高熱を発しているだけだが、黒い斑点が出だすと全身をその黒い斑点が覆って大半の者が死に至る伝染病である。今のところ治療薬は見つかっておらず、その致死率は50%を超えると言われていた。
ボフミエではここ100年間は出たという記録は残っていなかったが。

「どうする」
「どうすると言っても直ちにこの村全てを封鎖するしか無かろう」
アレクの問いにジャンヌが言う。
「クリス、お前は直ちに国都に帰れ」
ジャンヌがクリスを振り向いて言い切った。

「何を言っているのです。ジャンヌお姉さま。
この村にいる限り私も感染していると考えた方が良いですし、
国法によると、判明した瞬間からその村を封鎖して、村から一歩でも出ると死罪と決まっております。
筆頭魔導師自らがその国法を破るわけにはまいりません」
クリスがきっぱりと言った。
「それに筆頭魔導師たる私が村を見捨てるわけにはまいりません」
「しかし、お前までここに拘束されるとカーンには誰も対抗できなくなるぞ」

「おそらくカーンの狙いはそれかと」
ジャンヌの問いにクリスが言った。
「くっそう、カーンに嵌められたか」
ジャンヌが悔しがった。



「ふふふ、そろそろ黒死病の発生が判明する頃だな」
モルロイの宮殿の一室でカーンは笑って言った。
「そうですな。判った時の奴らの顔が見ものですな」
アラクシも笑って頷く。
「しかし、ボフミエの奴らも馬鹿だな。我らが何の考えも無しに攻撃目標をワットだと明かす訳は無いではないか」
「本当ですな。しかし、今回はうまく引っかかってくれましたな」
「筆頭魔導師を頭に暴風王女に赤い死神までワットに来るなど、戦力の大半がこれで使えなくなるではないか」
カーンが馬鹿にして言った。

「他地方に攻撃を仕掛けますか」
「いや、少し待とう。もし、奴らが感染したままこちらに向かって来られると厄介だ。
何しろほっておいても半数が死ぬのだ。うまくいけばあの小娘もころりと行ってくれるだろう。
そうなればボフミエなど何もしなくてもこちらのものになるわ」
「さようですな」

二人は目を合わすと馬鹿笑いを始めた。
その笑いは宮殿中に響き渡りそうなほど大きかった。
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