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第七章 魔王復活

魔王復活しました

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カーンは必死に駆けた。
林を駆けながら矢を避ける。

その体を目指して林の木々や地面に次々に矢が突き刺さる。
いつの間にか雨が降ってきた。

何回かこけて既にカーンは泥まみれだった。

近臣もほとんど寝返り、今また、最愛の婚約者も弟の物になり、自分だけ逃げて何になるという思いはあった。
でも、ここで殺されたら単なる馬鹿だ。

『力が欲しいか?』

遠くから声が聞こえたような気がした。
力なんてあってもこの四面楚歌の中でどうしようもないだろう。

「いたぞ。こちらだ」
黒ずくめの男が叫ぶ。
王宮の中で王子が襲われるなど異常だ。
内部で手引きした者もいるはずだし、護衛が誰もかけて来ないというのも異常だった。
もう王宮内には味方は誰も残っていないのかもしれない。


『力が欲しくないか?』
また声がする。
もし、カーンに力があったら今頃は弟を処分して王となっていたはずだった。

『力が欲しくないか?』
力があれば弟に婚約者を取られる事も無かった。

カーンは切りかかってきた男を一太刀で袈裟懸けにする。
次の男は剣を突き刺して殺した。

足元が崩れてがけ下に落ちる。

もう泥まみれだった。

落ちたカーンを兵士たちが追ってくる。

次々に切りかかって来るが、何とか躱して1人切り捨てる。

『力が欲しくないか?』
カーンはいつの間にかおどろおどろしい声のする方に進んでいた。

雨は大雨になり、周りは川になっていた。

カーンは追手の剣を必死に躱す。

しかし、きりが無かった。

またこけて崖を転がり落ちる。

追手は諦めるどころか今日はどんなことをしても仕留めようと追ってきた。

カーンは立ち上がろうとしたが、もう立てなかった。

でも、ここで犬死するのは嫌だった。

こんな目に合わせた奴らを絶対に許さない。

せめて一太刀でも奴らに浴びせたかった。

『小僧、力が欲しくは無いか』
目の前にはおどろおどろしい色をした石があった。
雨も何故かその石を避けていたし、川の水もその石を避けて流れていた。

「欲しい。何としても奴らに一太刀浴びせる力が」

「死ね」
黒づくめの男が切りかかってきた。
カーンはその石に手を伸ばした。

『貴様にやろう、我が絶大なる力を』

一瞬で石が暗黒に包まれ、その暗闇がカーンを飲み込む。

「ギャー」
男たちの悲鳴が周りで聞こえたかどうか。

闇が晴れた後は、狂ったように笑っている血まみれのカーンとその周りに散り散りばらばらに散らばった無数の惨殺された黒服の男たちの死体があった
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