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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

クリスは公爵子息に魔力で攻撃されました

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ロルフ・ノーマンはこの事務官育成コースに入って驚いていた。
元々北部の農村で農夫を家族でしていた。
年は21歳だった。ここ5年間は戦争に飢饉と飢えに苦しんでいた。
最後の方は1日1杯のお粥があればいい方だった。
近くの森の食べられる草木はほとんど食べ尽くされて、毒キノコに手を出して死ぬ者もいた。
人買い商人に買われた村の女もいた。
無茶をしていた前皇帝が交代してそれを倒したクリスとかいうマーマレードの侯爵の娘が筆頭魔導師になって更に酷くなった。
しかし、その最悪の状態は2か月も続かなかった。
正義の騎士がこの北方にやってきて不正を一掃、更に不正を働いていた4大商会のGAFAをクリスが粉砕することによってやっと量だけはきちんと毎日食料が配給されるようになった。

そしてほっとした時に村長に呼ばれた。
村の優秀な者を1名、推薦しなければならないとの事でこの村からはロルフを推薦したいとのことだった。
元々荒事は嫌いだったが、村の中では一番の魔力量があった。
そして、人には言っていなかったが、ロルフには人がどれくらい魔力があるか感じる事が出来るという稀有な才能があった。それがばれたらろくなことは無いと思い黙っていたのだが、その力を見せることなくあっさりと村の中から推薦が通った。
ロルフとしては親元で一緒に働きたかったが、1年頑張ればうまくいけば王宮に勤める事も出来ると無理やり勧められて郡の選抜に行かされた。郡の中で選ばれることは無いだろうと思っていたが、何故か選ばれて国都の学園に連れて来られたのだ。
村は小さな村だったので選ばれても仕方が無いと思っていたが、郡の中でも選ばれるとは思っていなかった。
まあ確かに郡でもロルフ程の魔力量のある者はいなかった。
しかし、学園は違った。ロルフ以上のものがわんさかいるのだ。
魔導コースでは教師よりも魔力量が多い生徒も多くいた。
特にジャンヌとか言う女とアレクとかいう男の魔力量は大きかった。
しかし、ロルフが一番驚いたのは事務コースにはロルフが見た事も無い化け物がいた事だった。
そいつを見た時は目が点になった。
次いで恐ろしさで膝が震えた。

「どうかしたの?」
「いえ、何かでもありません」
あまりにも見すぎたからか化け物が聞いてきた。
慌てて目を逸らした。
失敗しただろうか。化け物に目を付けられたら命が無いかもしれない。
隣のアルバートとか言うやつも魔力量はロルフの2倍くらいあったが、そいつはどれだけ大きいか判らなかった。
見た目はさえないおかっぱの黒メガネの少女なのだが、遠くから正義の騎士を見たことがあるが、この目の前の人物はジャスティンの比では無かった。


その少女にハウゼン公爵のバカ息子が突っかかっていたが、命知らずの馬鹿としか思えなかった。
公爵の息子のくせに魔力量はロルフの10分の一も無かった。
何代も連なると魔力量も減るのだという事がよく判った。

そして今日の1限目は魔導実技だった。
先生はボフミエの5人の魔術師の一人と言われたフランツ・マルクスだった。
さすがにフランツの魔力量は大きかったが、それでも少女に比べようも無かった。

「皆さんの魔導実技の授業はボフミエ最強クラスの魔導師と呼ばれているこの私フランツ・マルクスが務めさせて頂きます」
クラスの人数は39名。早くも1人マーマレードからの留学生がいなくなっていたが宮廷にスカウトされたと噂になっていた。
1日にしてスカウトってどういう事なんだとロルフ等は不思議だった。マーマレードからのコネが使われたとか、マーマレード出身の筆頭魔導師に気に入られたとかいろんな噂が飛び交っていた。
官吏にはなりたくないロルフは出来るだけ目立たないようにしようと改めて誓っていた。

「では、まず皆さんの力を見せて頂きましょう。
何でもいいので的に向けて皆さんの精一杯の力で的に当ててみてください。デニスさん」

「出でよ火の玉」
デニスが唱えるとファイアーボールが飛び出して的の横を通り過ぎる。
「はいありがとうございます。次はあててくださいね」
次々に生徒たちがうつ。
ロルフは少女が気になって見てみると椅子に座って見学していた。
魔力量が大きすぎてここではやらないのだろうか。
自信満々の教師も何故か少女には目もくれなかった。
と言うかできるだけ目に入れないようにしているように見えた。
ロルフは少女が気になって良く考えずに順番を呼ばれてファイアーボールを射出した。

ドカーン。
すさまじい爆発が起こる。
しまった。考え事をして力を加減するのを忘れた。

「素晴らしい。ロルフ君。無詠唱でこの力とは。魔導師団からスカウトが来るかもしれませんね」
「えっやめて下さい。争いごとは苦手なんです」
慌てて否定する。

そして戻ろうとして後ろを振り返ると少女とばっちり目が合ってしまった。
ま、まずい。化け物に目をつけられてしまった。
少女はにっこり笑っているが、絶対にまずい事だった。
ロルフは慌てて視線を反らした。

「おい、そこの生意気女、お前の番じゃ無いのか」
アルバートが一撃で的を粉砕した後も少女は座って何か書付をしていた。
それをデニスが大声で指摘した。

「デニス君。クリスさんは見学でいいんです。また被害にあってはたまりませんから」
フランツが慌てて言った。後ろの独り言はほとんどだれも聞こえなかったが。

「えっなんでこいつだけ」
不満そうにデニスが言う。

少女はにこりと笑って立った。
ロルフにはその微笑みが悪魔の微笑みに見えた。
「私もやりましょうか?」
「おやめください。学園がつぶれます」
慌ててフランツが叫んだ。
この言葉の意味が大半の生徒には判らなかった。
でも、ロルフには判った。
そうこいつが本気を出せばこの学園と言うか下手したら国都が吹っ飛ぶと。

「そうですか」
クリスが残念そうに椅子に座るのを見てフランツはほっとした。
それだけ以前マーマレードでの攻撃はトラウマだった。

「では皆さん。大体の魔力量は判りました。
今日はその得意の魔力を磨くことに注意を払って練習してください。
ただし、ロルフ君とアルバート君は今出した力の半分で的の中央をめがけて攻撃することにしてください」

ロルフは唇を噛んだ。
事務クラスとはいえ、アルバートとかと言うやつと同じくらいの魔力量があると認定されてしまった。
目立ちたくは無いのに。

皆にも注目されてしまった。何故かあの化け物にも。
少女からの視線を感じる。
絶対に良くない予感がする。

皆がおのおの10の的に分かれて練習を始めた。
ロルフは後ろからの視線をやり過ごそうと横を向くとデニスが後ろのクリスに向けてファイアーボールを放とうとしていた。
「出でよ炎よ」
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