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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

テレーゼの王女が鴨葱になりました

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「このように、いったん地面に蒔いてある程度育った苗を再度このように植えていくのです」
ドラフォードの若き農学者バルドゥル・ケンプは皇太后の前でクリスらに説明していた。
「面倒なことするんですね」
アデリナと一緒に奴隷から解放された口うるさい女、バーバラが驚いて言った。
農業に興味があるとのことで、40名の農技師の一人に抜擢されていた。
「面倒ですよね。でもこれで収穫量が増えるんです」
バルトゥルは解説する。
「このバルドウルは米の専門家なのよ。品種改良もいろいろやっていて、今回もいろんな種類の種籾を持ち込んで来ているの。絶対にボフミエに合う、種類もあるはずよ」
皇太后が横からフォローする。

「バルドウル様は米の権威として世界的に知られている農学者だとお伺いしております。
そのような方がこのボフミエにお越しいただいて本当に感激しております」
クリスがお礼を言う。
「いえいえ、今回の件はお世話になっている皇太后様からのたってのご希望です。
それに将来この世界を背負って歩かれるクリス様とオーウェン様の初期のお仕事を一緒にさせて頂けるのはこちらこそ歓喜に耐えませんかな」
クリスと並んで名前が挙げられて、その言葉にウイルは鋭い目を、やっと追いついたオーウェンは喜んだ目をしていた。
「まあ、バルドウル様。世界を背負って立つなど、ドラフォードの皇太子殿下のオーウェン様はいざ知らず、私などは到底出来ない事ですわ」
クリスが笑って言った。
「まあ、クリスは謙虚だね。
私から見たらクリスの後ろを追いつこうと必死に駆けているのがオーウェンに見えるがね」
港から馬を飛ばして疲れ切っているオーウェンを見て呆れて皇太后は言った。

「あれっスカイバードだ」
祖母の言葉にとげを感じたオーウェンは話題を変えるために目に大きくなってくるスカイバードを見て言った
皆も慌てて振り向く。
「変ですね。ナッツァにはもうスカイバードは残っていないと思っていましたけど」
先にスカイバードで来ていたイザベラが言った。

「衝撃吸収装置が付いていない機が1機残っていたと思うけれど」
青い顔をしてアルバートが言った。
アルバートにとっても衝撃吸収装置の無い操縦席での思い出は衝撃の体験だった。

すぐ近くの川に着水したスカイバードの中には操縦士とヘルマンとテレーゼの王女アメリアが乗っていた。
もっとも後ろの二人は泡を吹いて気絶していたが。

「クリス。あなたの国は酷くない。
テレーゼの皇太子である私にこんな悲惨なものに乗せるなんて」
起き上がったとたんにアメリアは文句を言い出した。

「これはこれは良くお越しいただきました。
アメリア皇太子殿下。お会いするのは10年ぶりですか」
クリスは我の強いアメリアが苦手だったが、取り敢えず挨拶する。
「挨拶はどうでも良いわ。あなたの所のヘルマンと言う内務次官の言うままにスカイバードに乗せられて気絶さするほどのひどい目にあわされたのよ。どうしてくれるのよ」
「ちょっと待て。お前が乗ろうと言ったんだろ」
「誰がお前よ。あなたみたいに頸になった王族では無くて私は今もテレーゼの王女なのよ。
内務次官風情がお前なんて言って良いの?」
「きっ貴様…・」
「ヘルマン様!」
クリスに止められてヘルマンは途中で話すのを止める。

「そうですぞ姫様。乗りたいと言われたのは姫様ではないですか」
そこへ後で転移してきたサイラスが言った。
「お、おじい様」
ウィルが慌てる。
「ウイル元気にしておったか。
噂はいろいろと聞いておるがまだまだじゃな」
にっこりとサイラスは笑う。

「おじい様。おじいさまがアメリア様を焚きつけたのですか」
非難するようにクリスが言う。
その目が冷たい。
「クリス、それは誤解じゃ。わしは今回はアメリア様にはおやめいただくようにお話ししましたぞ。そうですよね。アメリア様」
サイラスは慌ててアメリアに同意を取ろうとする。
いつもはうるさいサイラスだったが唯一の孫娘には弱かった。
「えっそうだったかしら」
アメリアがしらばっくれる。

「な、なんと。そこの小僧。確かにアメリア様自らが乗ろうとなされたよな」
「その通りだ。この生意気な王女様が勝負を挑まれたのだ」
何か禄でもない勝負のような気がしたが、クリスはそこは無視することにした。

「でも、どんなにすごいのかと思ったのに、せっかく500万枚の金貨で援助してあげようとここまで来たのに」
その瞬間に周りの空気が変わった。
500万の金貨…それだけあればボフミエの国民は2年間は食料の不足はない。
元々アントの物だし、アントを処分したのはクリスだからクリスの物と言えばそうかもしれないが。
それだけあればこれから全国民に識字や算数を教える教育システムの構築にも使えるに違いない。
クリスとオーウェンは目を合わせた。
この珍客を何としてもものにしなければ…。

「皇太子殿下。今なんとおっしゃいました」
クリスが慌てて聞く。目がらんらんと輝きだしていた。
このテレーゼへのスカイバードの売り込みがうまくいけばその問題が解決する。
イザベラらも慌ててアメリアの方に身を乗り出していた。

「いや、食糧難でかわいそうなボフミアに哀れを感じてしまって私がお母様に泣いてあげたのよ」
「さすが、アメリア様は違いますわ」
イザベラがよいしょする。
「それで金貨500万枚の援助をお持ちしたのだけれど」
「それでスカイバードのシステムをテレーゼにも欲しいと」
オーウェンが横から言う。
「でもこんなんじゃお母様にはお勧めできないわ」
「何をおっしゃっていらっしゃるんですか。衝撃吸収装置があればほとんど気にせずに空の旅に出られますわ」
「早速体験して頂けますわ」
「えっでもさっきみたいなのは」
「私も一緒にご案内させて頂きますわ」
クリスとイザベラが言う。
「皇太后様も一緒にいかがですか」
クンリスが誘う。
「いや、しかし、私のような年寄りが」
「今回の乗り物は本当にショックが無いのです。話のついでにぜひともお乗りください。
国都ではジャルカも楽しみにお待ちしておりますし」
「そうかい。クリスがそこまで言うのならば一度乗ってみようかね」
クリスらの口車に乗せられてアンも一緒に乗って行く事になった。
ドラフォードへの航路が開ければそこに更に余裕が出来る。
その余裕の資金を新たな新田開発や学校建設に回せば資金はいくらあっても足りなかった。

「カモがネギしょって来たみたいな感じだな」
ヘルマンがボソリと言った言葉は周りの者に無視された…。
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