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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

大国皇太子は剣を持ったウィルに追い掛け回されました

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翌朝、ベッドの中で目覚めたクリスはその横で椅子に座って突っ伏して寝ているオーウェンを見て目を見開いた。

「えっ」
なんでクリスのベッドの横でオーウェンがいるのだろうか。
そして昨日の事が思い起こされた。
オーウェンの胸で泣いて、そのまま泣きつかれて寝入ってしまったのだ。

「お目覚めですか」
そこへミアが温かい目をして入ってきた。
「ついにクリス様もオーウェン様と結ばれたんですね」
「えっ、違う。ミア誤解よ」
慌ててクリスが真っ赤になって否定する。

「殿方と一緒の部屋で一晩過ごされるなんて」
感激した面持ちでミアが言う。
「あっクリスおはよう」
もそもそとオーウェンが目を覚ました。
「お二人で素敵な一夜を過ごされたんですね」
ミアがからかう。
「そんな訳無いでしょ。これはショックを受けた私をオーウェン様が慰めてくれただけで」
「そうだ。クリスの寝顔を見ていたらそのまま寝てしまっただけで」
二人が必死に言い訳する。
「はいはい、そう言う事にしておいてあげます。
はい。オーウェン様は外に出てください。姫様は朝の準備がありますので」
ミアはオーウェンを外に追い出した。

オーウェンはミアの言葉に頷けばよかったと少し後悔していた。
一夜を共にしたとなればもう自動的に婚姻するしかなくなるからだ。
今までのクリスのガードが全て無くなり、クリスも拒否できなくなる。
しまった。失敗した。
と思ったオーウェンはしかし、その事は別の危機を手繰り寄せる事に気づいていなかった。

オーウェンは部屋を出たところで殺気を感じて避ける。
目の前にナイフが突き刺ささっていた。

「オーウェン。姉様に何をした」
そこには真っ赤な目をしたウィルが立っていた。
「いや、待て、ウィル。まだ何もしていない」
「はんっ姉様と一夜同じ部屋にいただけで万死に値する」
ウィルは剣で切り付けていた。
それをオーウェンはかわす。
ウィルはシスコンだった。そのウィルが部屋の外で寝ずの番をしていた事をオーウェンは忘れていた。
「ちょっとウィル」
「問答無用。死ねエエエ」
逃げるオーウェンを血走った眼をしたウイルが追いかけて行った。



4大商会のGAFAがクリスを暗殺しようとして逆に返り討ちに会った事は瞬く間に世界に伝わった。
クリスに親しみを持っているマーマレードやドラフォードでは天罰が下ったと言われ、
クリスに好印象を持っていない国では悪徳魔女の攻撃で殺されたとなった。

テレーゼに本店を構えていたバロン・アントも黒焦げの死体で見つかった。

雷撃の一撃は巨大な邸宅を瞬く間に灰燼と化していた。
「しかし、これはすごいな」
テレーゼの皇太子アメリア・テレーゼはその焼け跡を見て呆然とした。
ボフミエの地からここまでは3千キロは離れている。
ここだけでは無くてGAFAの4拠点を悉く灰燼と化したとのことだった。
アメリアはその力に空恐ろしいものを感じていた。
「さすがに魔力の強いヨークシャーの血筋か」
「御意」
となりにいた護衛隊長が頷く。
「付近に被害は無かったのか」
「アントの邸宅のみをピンポイントで攻撃しています。その能力は計り切れないかと」
「あのおとなしそうなクリスがな」
アメリアは昔遊んだことのあるクリスを思い出していた。
元々クリスの母親は魔術が強いとされるテレーゼのヨークシャー公爵の娘であり、
マーマレードの王妃もテレーゼの王女で、アメリアとジャンヌはいとこに当たっていた。
たまたま、遊びに行ったマーマレードでクリスらと遊んだこともあるのだ。
その時のクリスは小さくてエドワードにいじめられていて泣いていたのをオーウェンに慰められていたのを覚えていた。
そのクリスがこんなことをしでかすなど到底信じられなかった。

宮殿に帰るとバロンの息子のドロンが拝謁に来ていた。
面倒なのが来たと思いつつ、止む終えず面談に向かう。

「待たせたな。ドロン」
アメリアは颯爽と入って行った。
「殿下。殿下の僕が敵国の魔術の攻撃を受けました。
何卒殿下のお力で何とかして頂きたく、平にお願いする次第であります」
ドロンは頭を下げた。
そのドロンを白い目でアメリアは見る。

「ドロン、巷では今回の事は何と言われているか知っておるか」
呆れてアメリアは聞いた。
「悪徳魔女によって善良な商人が殺されたと」


「愚か者。それを言っているのは貴様等だけだろうが」
アメリアは一喝した。

「巷ではな、聖女クリスを殺そうとした悪徳商人らに天罰が下ったとな」
「そんな。殿下の僕であるまっとうな商人が殺されたのですぞ」
ドロンは顔を上げた。
「ふざけるな。前皇帝の悪政で飢饉が起こりそうなボフミエ国に更にあくどい商売を持ちかけて神の怒りを買っただけだろうが」
アメリアは叫んでいた。
「今回のボフミエ筆頭魔導師暗殺事件の逮捕依頼がボフミエ国からも来ておるわ。
貴様らGAFAはボフミエの民が飢えてどうしようもない時に攫って奴隷として酷使していたそうではないか。
それを救おうとしたクリスを殺そうとして逆襲されただけだろうが。
悪事の片棒をこの私に担げと言うのか」
アメリアは立ち上がった。
「直ちにアントの関係者をすべて捕縛、悪事の全てを詳らかにせよ」

この世の春を謳歌しておごり高ぶっていた4大商会GAFAはこのクリスの攻撃を機に壊滅していった。
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