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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

スカイバードは口コミで広がります

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その頃その国王は妻の前で盛大にくしゃみを連発していた。
「まあ、あなた風邪でも召されたの?」
少し距離を置いて離れたキャロラインが聞く。
「そのような訳は無かろう。おそらく迎えに行った古狸が噂しているのだろう」
ピーターは嫌そうに言う。
「本当に今まで迎えになど行った事もないくせに、クリス嬢が来るとなると嬉々として行きおって」
苦虫を噛み締めたような顔でピーターが文句を言う。
「まあ実の息子が頼み込んだのに食料一万トンしか出さないドラフォードと6万トンの援助を申し出たマーマレードの違いなんかをオーウェンと一緒に愚痴っているんじゃない?」
ピーターはそれを妻から聞いてまた嫌そうな顔をする。
母の皇太后からはいつからドラフォードはマーマレードより格下になったのかと言われるし、国王陛下は倹約家であらせられますからとフォローになっていないフォローをブルーノ外務大臣にされるわで朝から極端に機嫌が悪かった。
「でね。その倹約家の国王陛下におねだりしたいことがあるんですけれど」
言いにくそうにキャロラインが言う。
「却下に決まっているだろう」
ブスっとしてピーターが応える。
「妃の話を聞きもしないで却下するなんてあんまりじゃない」
怒ってキャロラインが言う。
「私もボフミエに雇ってもらおうかしら」
「ボフミエでは今食事は粥しか出ないそうだぞ。
君が耐えられるわけないだろう」
笑ってピーターが言った。

「何言っているのよ。ボフミエだけじゃないわよ。マーマレードでもそうみたいよ」
「何故マーマレードが?あそこは食料の貯えも十二分にあったはずだが」
「エリザベスがジャンヌに意地悪して2千トンしか食料出さないって言ったら、ジャンヌが仕返しにミハイル内務卿相手にクリスが飢え死にしそうなのにいいもの食っているなってやったそうなのよ。
それで内務卿が食欲無くしたのは良いんだけど、それを伝え聞いた料理長や女官らが驚いてしまって。
あの城の使用人は皆クリスに恩義を感じているから、王宮の食事もクリスに会わせて余ったものをボフミエに送ろうって事になって、もう大変だってエリザベスが泣いていたわ」
キャロラインが言う。
「あなたも意地悪ばかりしているとこの国にもクリスのシンパはいるから食事も粥だけになるかもよ」
「そんな訳は無かろう」
ピーターは言ったが自信は無さそうだった。
皇太后をはじめ筆頭公爵や軍の重鎮たちにクリスの信奉者は多い。
マーマレードを見習ってその分食料を送れと下手したら言いかねない。
「ほら、自信無いでしょ」
キャロラインが言う。

「まあ、一度言ってしまった事は仕方が無いけど、今回クリスはとても素晴らしいものを持ってきてくれたのよ。食糧援助と引き換えにそれもらえれば」
キャロラインが売り込む。
「その素晴らしい物とは何なんだ」
「スカイバードと言う乗り物よ」
「乗り物?高速船で十分では」
「そんな遅いものでは無いわ。ボフミエとドラフォードのハイリンゲンを2時間で結ぶのよ」
「2千キロ以上離れている土地を2時間で結ぶ?そんな事が可能なのか」
国王が驚いて言った。
「だってクリスは今朝出てきたのよ。もうハイリンゲンに着いたと連絡もあったわ」
「転移でなくてか」
「クリスは転移は使えないはずよ。ジャルカが言うにはマーマレードとボフミエの魔導師の共同研究の成果だそうよ」
「それが欲しいと」

「まあどんなものかいろいろ研究してみないといけないけれど2時間で2千キロ。今までの常識が覆るわ。
既にマーマレードの王都マーレとボフミエの首都ナッツァにはその発射台を作り上げたそうよ。我がドラフォードも乗らないわけにはいかないでしょう」
「確かに。話を聞くだけでは素晴らしいもののように思うが。
マーマレードの技術馬鹿とボフミエの魔導馬鹿が作っているものだからな。
実用性にはもう少し時間がかかるのではないか」
ピーターは躊躇した。
魔導電話にしても出来た当初は魔導電話をつなげるのにとても魔力がいったのだ。
今回のもまだ完成していると信じられなかった。
「まあとりあえず話を聞いてみましょうよ」
「それはそうだな」
ピーターは頷いた。
それが本当ならばあと3万トンくらい出すのは問題無かった。


「ところでクリス様。
先ほど拝見しておりましたが、空を飛んでこられたのですな。いかがでしたか」
バーミンガム公爵が尋ねた。
「大変だっただろう」
オーウェンも聞く。
「えっいえ、そんなに大変では無かったですよ」
クリスが驚いて言った。
「いや、そんな訳は無いだろう。私が乗った時は死ぬ思いだったのだから」
二度と乗りたくないと思いながらオーウェンが言う。
「そんな事無いわよね。ナタリー」
「ええ、ふわっとしたらあっという間に空の上で驚きました」
クリスとナタリーが否定する。
「えっ。出発の時にすさまじい加速度で大変じゃなかったの?」
驚いてオーウェンが聞く。
自分の時は飛び出す時のショックで気を失いそうになった。
「全く感じなかったというと嘘ですけど」
「言われるほどではないかと」
二人が不思議そうに否定する。
「そうか。そこまで改良されたのか。それなら私もそれに乗って来れば良かった…」
オーウェンは後悔した。
でもジャルカのいう事だから絶対にまた悲惨な目にあわされると思っていたのだ。
(そうすればクリスの看病にももっと付き合えたし、一緒に来れたのに)
オーウェンは残念がった。
「自分が空飛べるなんて思ってもいなくて地上のものが小さく見えて本当に鳥になったような気分でした」
クリスが感激して言った。
「そうですか。そのような快適な旅でしたか。私もしてみてもいいかもしれませんな」
バーミンガム公爵が言う。
「ええ。公爵様も是非」
「まあ、冥途の土産にでも乗りますかな」
「また、公爵様はまだまだこれからですよ。ジャルカ様なんて公爵様よりも大分お年なのに、まだ前線で戦って頂いていますから」
「そうですか。ジャルカはまだ現役ですか。年寄りの冷や水と言うかそろそろ体も自由が利くまいと思いますがな」
と言うと公爵は笑った。
ジャルカが盛大なくしゃみを連発ししていたのは言うまでもない。

「ジャルカ様。いろいろお疲れになられましたか」
魔導電話の向こうの王立学園の理事長のアダム・ブラウンがくしゃみをするジャルカを心配して言う。

「なあに。皆がわしの噂でもしておるのじゃろうて」
「なるほど。相変わらずねたまれておりますか」
「ふんっ何を他人ごとのように言っておる。わしの噂がされればされるほど
このスカイバードが広まっているという事じゃぞ。その方にも感謝してもらいたいものじゃな」
「さすがジャルカ様。いろいろと手を打っていただいておるのですな」
「さよう、ドラフォードへの売り込みがうまく言った暁には、ボフミエへの復興資金宜しくお願いいたしますぞ」
「元々売り上げの五分と五分の契約ですからの。
あのスカイバード出発時の衝撃吸収装置を工夫して頂いたのはボフミエ側ですから」
「まあボフミエの魔道具改良力はけっこうめざましいものがある。理事長も一度目に入れられても良かろうて」
「そうですな。ついでに殿下のところに妃殿下でもお連れ致しますか」
「姫は今はそちらにお戻りのはずだが」
「食い物がこちらも貧しいと嘆いておられましたぞ」
「それは姫様が内務卿を煽りすぎるから、身から出た錆じゃな」
二人は笑い合った。



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