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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

クリスは改良された人間ロケットに乗りました。乗り心地は最高です

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その日の夜。
「どういう事ですか。バロン」
ランズベルトは魔道具越しにアント商会の会頭でGAFA最年長のバロンにくってかかっていた。
「マーマレード国内の調整は任せておけとの事でしたが」
「いやあ、申し訳ない。ミハイル内務卿の娘可愛さ100倍のパワーの前に負けました」
「……」
ランベルトはアントのあまりにもあっさり負けを認める姿にかける声も無かった。
「ここ20年間いろいろマーマレードの中にも入り込んだつもりだったのですが、一瞬で叩き壊されてしまいました」
バロンは笑っていたが、目は笑っていなかった。
「ミハイル卿にはGAFAに逆らった事をいずれ後悔させて頂くとして、ボフミエが手に入れた食料はどうされるおつもりで」
「あの辺りの海には海賊も多いですから。無事にボフミエに着けば良いのですが」
ランベルトが笑うと
「確かにそうですな」
バロンも笑い始めた。


翌日クリスら一行はジャルカに案内されて突貫で作られた発射台にやってきた。
天空に向けて長いレールが聳え立っていた。
見た目はジェットコースターの発射台のようだ。
その上に翼を付けた鳥型の物が鎮座していた。
よく見ると2階建ての乗り物だ。
操縦席は寝そべるようになっていて乗り物の底面に既に男が発射準備に当たっていた。
「ウィルとアルバートは操縦士の横で実際に操縦を学んでください」
ジャルカに言われてそのまま操縦室に寝転ぶ。
二人の目の前には窓があり地面が見えていた。

「クリス様たちは座席にかけてベルトを閉めてください」
ジャルカが言う。
クリスは10席あるうちの右から2番目窓側の席についた。
前の右側にはメイが左側にはナタリーが座る。
クリスの左側には秘書官のイザベラが後ろにはクリスの秘書官の一人であるボフミエ出身の平民フェビアン・クライルハイムが座る。
クリスは各部署にボフミエ出身者を割り当てていた。
そして左側に侍女のミアとアデリナが座る。
それぞれがシートベルトを締めた。
「はい、皆様。シートベルトを締められましたね」
ヘッドセットをした操縦士が言う。
「ジャルカ様。全員完了です」
操縦士が横の発射基地に連絡する。
「了解しました」
ジャルカは周りにいる5人の魔導師を見た。
1人はマーマレードの魔導師で残り4人はボフミエの魔導師だった。
「では皆の者、宜しいですか」
「了解です」
5人が頷く。
「ではクリス様良い旅を」
「はい。宜しくお願いいたします」
クリスらの座席の下ではウィルとアルバートの顔が引きつっていた。
「これはオーウェン様のロケットに比べてましになったのか」
アルバートが操縦士に聞く。
「魔道具によってましになったのは客席でこの操縦席まではまだバリアは有効になっていないですよ」
操縦士は言う。
「えっ」
「ちょっと待て。と言うとここはオーウェンと同じ?」
二人の顔が引きつった。
「発射5秒前」
「ちょっと待て」
「俺らも客室に」
二人は慌てる。
「ぎゃっ」
ウイルは転移しようとしたが客室は魔道具のバリアが張られていて拒絶されて操縦席の床に叩きつけられていた。
「3、2、1」

「発射」
5人の魔導師は乗り物に力を集中する。
「ギャアアア」
「死ぬ―――」
二人の悲鳴が途中で途切れる。
すさまじい加速度が操縦席の3人にかかり、乗り物は一気に助走路を飛び出していた。
そのまま5人の魔導師は1万メートルの高度まで一気に乗り物を押し出していた。

クリスらは飛び出す時にふわりと加速を感じたが、あっという間に周りの風景が後方に飛んでいって気付くと雲の上にいた。

「すごいあっという間に雲の上だ」
アデリナが言った。

「クリス様。雲の上です」
ミアも驚いて言った。
「いかがですか。クリス様。乗り心地は」
魔導電話でジャルカが出た。

「ほとんど考える時間も無い間に雲の上に出られて驚きました」
クリスが言う。
「飛び立つときのショック等はありましたか」
「ふわりと感じたら空の上で驚きました」
クリスが驚いて言った。
ウィルとアルバートの慌てふためいた感じからもっとひどい事になると思っていたのに、拍子抜けだった。
「どうですか。これなら王族の方にも乗ってもらえそうですか」
「まだ、着陸していなので何とも言えませんが、これならば問題無いかと」
ジャルカの問いにクリスは応える。
「他の皆様はどうですか」
他のメンバーにも聞く。
「ジャルカ様。これなら父と母にも勧められます」
「おじいさまでも大丈夫かと」
イザベラとナタリーも答える。
「ありがとうございます。
後は価格設定ですね。そこはこれから少し詰めますかな」
ジャルカは笑って言った。

一方その感動している女性たちの足元の操縦室ではウィルとアルバートが死んでいた。
「くそジャルカ爺め」
「信じられない」
加速が終わった操縦室内も静かだった。
でも、二人は加速のすごさに半失神状態だった。
「君は大丈夫なのか」
余裕の操縦士にアルバートが聞いた。
「僕らはオーウェン様が乗った人間ロケットに乗らされて何度も死にそうになりましたから。
それに比べたらこの機体は天国のようですよ」
そう言われると二人は何も言えなかった。
「オーウェン様もあの時は必至だったんですね」
オーウェンを憐れむようにアルバートはボソリと言った。
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