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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

暴風王女はクリスの父を責めました

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7万トンのうち何とか2.7万トンは確保出来た。
しかし、あと残り約5万トンも残っている。
どうすべきか悩みながらクリスはオーウェンと食堂に向かう。
王宮の食堂はクリスの希望に合わせて基本は王立学園の食堂と同じようなカフェテリア形式だ。
警備の関係もあり、役職者と一般兵士や侍女は食べるところを分けられたが、基本は同じだ。
本来ならいろんなものが食べられるのだが、食糧危機が判ってから中身はがらりと変わった。

「げっ今日もお粥…」
ウィルは思わず声をあげた。
あれ以来食事は薄めたお粥とおかずが少しだ。
量は王宮だからたくさんあるのだが、育ち盛りのウィルらには物足りない物だった。
「ウィル。ボフミエ国内では食料が無くて飢えている人もいるの。
食べられるだけまだましよ」
見とがめたクリスが悲しそうに言った。
「申し訳ありません。姉様」
慌てて立ち上がってウィルが謝る。
「まあ、食べ盛りのウィルが泣くのも判るぞ」
その後ろからジャンヌが声をかけた。
「お姉さま!」
クリスが咎めるように言う。
「クリスが苦労してくれているのはよく判るよ。
マーマレードはたったの2千トンだからな。
アレクの半分。オーウェンの5分の一。
クリスの手に入れたエスターからの1万トンの5分の一…」
言っててジャンヌは嫌になった。

オーウェンに交渉事で負けるのは仕方が無かったが、アレクに負けて
果てはクリス迄に負けるなど、自分の矜持が許せなかった。
「それを言うなら交渉事が得意な俺はたったの1万トンだ。
もっと俺が分捕って来ないと」
オーウェンが言う。
「クリスと同じなど許されない」
「うーん、何か微妙に嫌味に聞こえるが」
ジャンヌが言う。
「なんでだ。この中では交渉事は圧倒的に俺が得意なはずだ。
それがまだ全然いかせていない」
オーウェンが反省する。
「まあこれと言うのも全てはGAFAの金の亡者どもが食料を寄越さないからだが」
オーウェンは言う。
「そうだ。あいつら覚えてろよ。これが無事にすんだ日には必ず目にもの見せてやる」
ジャンヌは怨みを込めて呪った。
肉が食べられないのはGAFAのせい。
唐揚げが食べられないのはGAFAのせい。
腹一杯食べられないのはGAFAのせい。
ジャンヌの頭の中ではGAFAに対する怒りで一杯になっていた。
二度とGAFAとは取引なんてしてやるものか。
ジャンヌ等は心に誓ったのだった。
そう、食べ物の怨みは怖かった。
GAFAは絶対に方針を間違った。
おままごと王朝とか馬鹿にして罠にかけることにしたのだが彼らの多くは大国の皇太子や若手の将来有望な若者だった。
彼らがボフミエで飢えを体験したのは今後の国の運営の為には大きなプラスになったが彼らがGAFAを許すかと言うと別の問題だった。


「ジャンヌお姉さま。アレク様は」
クリスが聞く。
「アレクは5千トンをもらいにノルディン国境に立った。
忘れられないうちにもらいに行くと」
「ジャンヌお姉さまもエスターからの取り敢えず、5千トンとマーマレードからの2千トン受取に行って頂けますか」
「判った。明日朝一で出立しよう」
「私も近々ドラフォードへオーウェン様と農業の技術者を派遣していただくように、お願いに行きます」
「えっクリスとオーウェン迄がいなくなるとここには誰もいなくなるのではないか」
「グリンゲン様とジャルカ様にお願いしました」
クリスは言う。
「まあ、腹黒ジャルカがいるなら、GAFAとの駆け引きも何とでもなるか」
それを聞いて安心してジャンヌは言った。
「何か言われましたかな。姫様」
ジャンヌの後ろでジャルカが言う。
「いやいや、安心して留守を任せられるなと」
「まあ、GAFAなど、大したことはありませんが、姫様はおそらく食料を取るためにGAFAが雇った海賊が襲撃すると思われますぞ」
「それは本当か」
嬉々としてジャンヌが言った。
「あいつら。このお粥の呪い。絶対に叩き潰してやるわ」
そう言って喜んでジャンヌは粥をかき込みだした。

「クリス。少し顔色が悪いが」
オーウェンは余り食が進まないクリスを心配して言う。
「すいません。なんか食欲が無くて」
「少し休んだ方が良いのではないか」
「そうですね。ではそうさせてもらいます」
少し考えてクリスは立ち上がった。
しかし思わず立ち眩みする。
「クリス」
慌ててオーウェンが倒れそうなクリスを抱き上げる。
「クリス様」
アルバートらが駆け寄る。
「すいません。少し立ち眩みが下だけで。降ろしてください」
「そんな訳無いだろう。とりあえず、部屋まで送る」
「そうですよ。直ちに医者を呼びます」
オーウェンとメイが言う。
ウィルも慌てて立ち上がった。
クリスは諦めてみんなに任せる事にした。
最近、食料の事が気になって良く寝れていなかった。
早く食料の事を何とかしないとボフミエ100万人の民が飢えるのだ。
いや、すでに多くの人々が飢えていた。
クリスは倒れたことを大事にする気は無かったが、周りが許さなかった。

一団が食堂を抜けた後、部屋は急に静かになった。
その中電話の着信音が響く。

「あっ、クリスが電話を忘れて行ったのではないか」
ジャンヌが傍に行く。
「うん、父様?ミハイル卿か」
ジャンヌは電話を取った。そのジャンヌからは黒い物が湧いていた。

「ミハイル卿。久しいな」

「ジャンヌ殿下!これは娘の魔導電話では」
驚いてエルンスト・ミハイルは聞く。
「クリスは今心労のあまり倒れたぞ」
「何ですと。クリスが倒れた!」
大声でエルンストが言う。
立ち上がるのが見えた。
「貴様らが意地悪するからな」
「そんなつもりは」
「可愛そうなクリス。信頼していた父親にも裏切られて」
ジャンヌは悲しそうな顔をする。
「いや殿下。私は何もしておりませんぞ。それよりも娘の状態は?」
良心の呵責に悩みながらエルンストは聞く。
「単なる立ち眩みだと思うが、今ウイルらが寝室に連れて行った」
「そうですか」
少しホッとししてエルンストが言う。
「なんか良いものを食べているな」
エルンストの前の食べ物のを見てジャンヌは言った。
「いや、これは弁当で」
「こちらは粥だよ。内務卿が食糧援助してくれないから」
ジャンヌが粥を見せて言った。
「いや、殿下。私は援助を申し出たのですが、公私混同は良くないと陛下らに言われまして」
「なるほど。それで母上が出て2000トンしか融通してくれなかったのか」
ジャンヌは手を握りしめていた。
「2千トン?えらく少ないですな」
エルンストは疑問を声にした。
「はっ。母上はお前らは1500トンしか許さなかったのを2千トンに増やしたと言っていたぞ」
「はい?私は蔵からも多少は融通できると申し上げたのですが」
「そうか、母上らの策謀か」
益々黒くなりながらジャンヌは手に持っていたスプーンを折り曲げていた。
「いや、まあ、確かに今年は不作でそんなに余裕はありませんが」
「まあ、当然内務卿としては娘の健康よりもマーマレードの民を考えての事だろう」
にやりと笑ってジャンヌは言った。
「えっ、いやそんな」
エルンストは青くなった。
「クリスは言っていたぞ。父上は公私混同される方ではないので、マーマレードの為に娘は見捨ててもらっても仕方が無いと」
「えっ。いや、そんなことは」
「これがクリスの皿だ」
ドロドロのお粥が少し残っていた。
「えっ」
エルンストは青くなる。
「クリスが言っていたぞ。ボフミエの民が飢えるなら、私は1粒も食べないと」
「そんな、殿下」
真っ青になってエルンストは呆然としていた。
かわいいかわいい娘のクリスが苦しんでいるのに、何もできないなんて。
「マーマレードの奴らは冷たいな。
クリスが飢えているのに、自分らはのうのうと食べているなんて」
にこりとジャンヌは笑う。それも黒い笑みだ。
「そう、それと内務卿。
GAFAが、6万トンの食糧が欲しければその身を差し出せとクリスに要求したぞ」
「な、なんですと。そんなことを」
エルンストは激怒した。
あいつらめ、娘にそんなことを要望するとは許せない。
「オーウェンがそれを却下していたがな。いつまでもつか」
「殿下。6万トンあれば足りるのですか」
エルンストが食いついてきた。
「あるのか?」
「そこまで融通できるかは判りませんが、いろいろやってみます。
娘の事何卒宜しくお願いいたします」
エルンストが最敬礼して電話から消えた。

「姫様。あまりにもあざとくありませんか」
それを横から見ていたジャルカが言う。
「何を言う。事実しか言ってないだろうが」
ジャンヌが言う。
「しかし、あの様子では内務卿は6万トン用意してしまいますぞ」
「6万トンも用意できるのか」
「マーマレードには非常時の蔵には10万トンの食糧が備蓄されていますからな」
「そんなにあるのか。なのにあの母上は2000トンしかくれないと…・」
ジャンヌは歯を食いしばった。
自分の娘が飢餓で苦しんでいるのに、たった2千トンしか援助してくれないなんて本当に何だろうか。
ジャンヌは切れていた。
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