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第六章 クリス ボフミエ皇帝?になる

クリスは戴冠式で筆頭魔導師に任命されます

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帝都ナッツァには素晴らしい青空が広がっていた。
冬とはいえ亜熱帯地方の気温はそんなに寒くない。
クリス誘拐、魔王復活戦で皇帝が倒れて1か月。
所々戦乱の跡が残る宮殿の庭園で、クリス・ミハイルの筆頭魔導師への戴冠式ならぬ、任命式が執り行われようとしていた。

当初は断固拒否しようとしていたクリスだったが、仲間たちの説得と、ボフミエの知り合った民に頼まれて、拝まれて、跪かれてどうしようもなく、取り敢えず後継者が決まるまでの間、筆頭魔導師をやることを承認していた。

そして、今日はその晴れの戴冠式の舞台だった。
派手な事はいらない。そんなものはいらないというクリスにこれもけじめで、国の内外に知らしめるのも国政の基本だと、オーウェンらになだめすかし脅されてやることになっていた。


「はっ」
白い清楚なドレスを身にまとわされたクリスは扉の前で大きなため息をついた。
質素でいいと言ったのに、王宮の庭園には国内外官僚含めて1000名の招待客が参列しているという。
(目立ちたくなかったのに)
心の中で思う。

「クリス様。ため息をつくと幸せが逃げます」
クリス付きの騎士のメイがボソリという。
「でも、メイ。私で出来るのか不安で」
クリスが愚痴る。
「大丈夫ですよ。クリス様なら何でもできます」
「そうだよ。姉様。エリザベス王妃の死の王妃教育も及第点が出たんでしょ。どこの王宮でも大丈夫だよ」
「王弟叛逆時の反乱軍の兵士たちを救われたのは聖女クリス様です。そう言う事の積み重ねが政治です」
ウィルとアルバートが信頼しきって言う。
「クリス様。クリス様はその信じる道をお進みください。それを邪魔する者らは我ら4人が掃いましょう」
ジャスティンがクリスに礼をした。
「判りました。宜しくお願いします」
クリスは4人に頭を下げた。

「はっ」
4人が礼をする。

「すいません。お時間です」
城内の係官の声掛けとともに、中庭に面した門が開く。

帯剣したボフミエ騎士団の正装のジャスティン・・ギンズバーグの先導の元4人が歩き出した。

先頭のジャスティンから3歩遅れて左斜め前にメイが。
真ん中にクリス。
クリスを挟むように少し下がって左右にウィルとアルバートが続く。

おそらくこの4人だけで1個師団は無理でも、1個大隊を蹴散らすことは可能だった。
クリスを戦力に入れれば1個師団でも問題ないだろう。


参列者が並ぶ中を、マーマレードから強制帰国させたペトロ・グリンゲン公爵令息らが奏でるオーケストラの音楽のもと、ゆっくりと歩く。

クリスは白いドレスに包まれて頭には金色の輪を嵌めている。
金色の髪に金色の輪ではそんなに目立つことは無いが、太陽の光を浴びて輝いていた。
そして、クリスは学祭の演劇でも全世界に配信されたが、今日の任命式の様子もまた、全世界に配信されていた。

その姿を見ながら不機嫌な顔をしている貴族も見受けられた。
「おのれ小娘め。今に見ておれ」
ヨーナス・ハウゼン公爵は唇を噛んでいた。
今まで皇帝ゲーリングの圧政の時は表に出ないように隠れていたのだが。
皇帝がいなくなった今こそ、重要な役職が当たるに違いないと思っていたのだが。
待ても暮らせども連絡が来ない。
よそ者の筆頭魔導師ならば三顧の礼で迎えられるかと期待していたのだが、役職の多くは外部の大国の皇太子らに取られて機嫌が悪かった。
敵対するグリンゲン公爵が宮内卿に任命されたのも気にくわなかった。
「まあ、ハウゼン公爵。緒戦おままごと内閣。すぐに馬脚を現して我らに援助を乞うてきましょうぞ」
昨年まで内務次官だったオットー・フォルスト伯爵が言う。
「まあ大半が大国の威を笠に着ている小僧共ですからな。諦めるのも早かろうと思いますぞ。
公爵様もその後を見込んでいろいろ動かれてはどうですかな」
ケオルク・シャプター子爵が笑って言った。家は商売をしていて、それが先代皇帝に見込まれて子爵になった変わり種だ。

そのような不満を持つ者たちもいる中をクリスらはゆっくり歩く。
最前列のジャンヌやアレクなど政権を固める人物らの前を通り過ぎる。

そして壇の前まで来ると先導したジャスティンが横に道をあける。
階段をゆっくりとクリス一人で登る。

その先にはジャルカがいるはずだった。

ゆっくりとジャルカの前に進み出るクリスだったが、そのジャルカが突如現れた3魔導師に横にどかされる。
「小僧はどいていろ」
「えっちょっと」
小僧扱いされたジャルカの前にボフミエ建国の3魔導師が再び現れたのだ。

クリスは一瞬慌てたが、それに構わず、魔導師たちは声を出した。

「これは驚きました。彼らは誰なのでしょうか」
実況の司会者が驚く。
「えっボフミエの建国の3魔導師?ってもう1000年たっているんですけど」
司会者の慌てた声にはお構いなしに3人はクリスの前に立つと厳かに宣言した。

「我らボフミエ魔導国建国の魔導師がここに宣言する」
「クリスティーナ・ミハイル。前へ」

前に数歩歩いてクリスは3人の前に跪いた。

「クリスティーナ・ミハイル、汝をこの世界最強の魔導師として認定する」
「我が子孫ボフミエの民の為に尽くせ」
「はっ」
クリスは返事をした。

「ボフミエの子らよ」
「世界の魔導師たちよ」
「ボフミエの暗黒の時代は終わった」
3人は周りを見渡す。
3魔導師は晴れ晴れとした表情をしていた。

「新たな指導者クリスティーナ・ミハイルの元集結し事に当たれ」
「幾多の困難が襲おうとも夢疑う事無かれ」
「さすれば道は開かれん」

3魔導師の手元から次々と色とりどりの花が開いて空を舞っていた。
会場全てが瞬く間に花々に覆われていた。
その美しさに画面を見た人々は驚き感動した。
そして、その花々が魔術が切れて消えるとともに3魔導師の姿形も消えていた。
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