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第五章 ボフミエ皇帝誘拐する

クリスは魔導帝国によって魔王の憑代にされないために逃げ出します

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クリスはこけて泣いていた。
「どうした?」
その頭を撫でられる。
「ん?」
顔を上げるとそこにはオーウェンがいた。
「大丈夫か?」
心配そうに聞く。
「うんっ、何とか大丈夫」
そう言うクリスをオーウェンが抱きしめた。
「えっ」
慌ててクリスは目が覚めた。
何なんだ。
今の夢は。
こけて泣くってどういうことだ。
ともう大人になっていると思っているクリスは赤面した。
子供の頃と今がごちゃ混ぜになっているのだ。
オーウェンに抱きしめられるなんて…
思わず両手を前で握りしめようとして、両腕が後ろで縛られていることに気づいた。
慌てて四方を見る。
何処かの小屋の中のようだった。
「そうだ。舞台の終わりに攫われて、船の上でお姉さまらが助けようとしてくれて」

「気付いたか。小娘」
そのクリスの視界にボフミエの皇帝が入ってきた。

「皇帝陛下?」
そうだった。ボフミエの皇帝に攫われたのだった。

「どういうつもりです。私なんて攫って」
クリスには疑問だった。
ボフミエの皇帝なんてそもそも会った事も無いし、攫う理由なんてあるのか

「ふんっ。わしを見ても怯えんのか」
「なんで怯える必要があるの?」
クリスは気丈夫に答えた。
その顔を手でつかむ。
「触らないで」
首を振って手をどける。
しかし、両腕を固定されていては逃げられない。
魔導を発動させようとしたが、まったく発動しなかった。

「ふんっ魔導を使おうと思っても無理だ。魔封じの手錠がかけられている」
皇帝は言った。

「きれいな顔をしておるな。わしの子を孕ませてやるのもいいな」
下劣な事を言いながら皇帝はクリスの顔に手をかけようとした。
「ふざけないで」
クリスは逃れようと後ろに脚で体を下げる。
しかし、両腕を後ろで縛られていては逃げきれない。
もうこうなったら最後の手段だ。
クリスは思いっきり急所を蹴り上げていた。
「ぐわっ」
急所を押えて皇帝は悶絶しそうになる。

「何をされておるのですが」
後ろにいたサロモンが慌てて皇帝に駆け寄る。

「おのれ、この小娘」
殴りかかろうとした皇帝を慌ててサロモンが後ろから羽交い絞めにする。
「陛下、そこまでにしてください。大切な憑代です」
「憑代?」
クリスが声を上げる。

「そうだ。貴様は魔力が大きいから魔王の憑代にしてやろうとしているのだ」
忌々しそうに皇帝は言った。
「魔王?」
伝説の魔族の王だ。
そんなのが本当に存在するのか。
クリスには疑問だった。
「そうかつて戦神シャラザールを倒されたお方だ」
皇帝が珍しく敬意を払って言った。
「いろんな説があるけど、魔王が戦神シャラザールに勝ったなんて記述は無いわ」
はっきりとクリスが言う。
「多くの記述がシャラザールの前にひれ伏したと。良くて引き分けよ」

「何を言う、小娘。我々ボフミエ帝国で発掘した遺跡の中に確かにシャラザールを倒したという記述があるのだよ」
サロモンが言った。

「というか、そもそも魔王などいるのかどうかも怪しいわ」
クリスが言う。
「ふんっ。それは貴様が憑代になってから判れば良い」
皇帝は言い切った。

「お断りするわ」
はっきりとクリスが言った。
「貴様には拒否権は無いのだよ」
皇帝はにやっと笑って言った。

その時はっとして3人は頭上を見た。
強烈なく魔導反応だ。
ジャンヌらが上空に転移してきたのを感じた。

「陛下。転移4.きます」
サロモンが慌てて言った。
「良し、すぐに王宮に」
慌ててクリスを二人で片手ずつでつかむ。
クリスが逃れる暇も無かった。
そして起こされる。
皇帝とサロモンも手を取り合った。
そして転移しようとする。

クリスはもうやけだった。
転移する瞬間に飛びあがると思いっきり皇帝には頭突きを、サロモンの手にはけりをくらわしていた。

「うっ」
転移に入ったのだが、その瞬間に皇帝とサロモンから離れる。
クリスが消えとる同時に転移終了し、クリスに衝撃を与えられたので、姿勢が狂い王宮の壁に思いっきり二人は叩きつけられていた。

「陛下!」
慌てて兵士たちが駆け寄ってくる。

「おのれ、小娘め、絶対に許さん!」
顔から突っ込んだ皇帝は血まみれになって顔を押えながら叫んでいた。
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