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第四章 王立高等学園

魔導帝国に現るシャラザールの騎士

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ボフミエ魔導帝国、交易都市ボフミエを中心とした魔導国家で、魔導第一主義。
皇帝はアーベル・ゲーリング、40歳のでっぷり太った皇帝である。
そしてその玉座の前に男が這いつくばるようにして許しを乞うていた。

「この度の不始末誠に申し訳ありません」
その前でフランツ・マルクスは頭を地面につけて謝っていた。

「そもそも小娘の魔力が貴様よりも多い事は当然知っておろう。
それをわざわざ怒りを買うように仕向けて、警戒心を起こさせるとはどういうことだ、
フランツ」
皇帝はにやりと笑った。

「更にはヘルマンを示唆して小娘に対して既成事実を作ろうとして失敗するなど2度も失敗するとは許されるとでも思っているのか?」
フランツはぎくりとする
「……」
アーベルのその笑顔が怖い。
フランツは返す言葉も無かった。

「酒を飲んだクリスは酒乱になって力が激増したと報告書にあるがどういうことだ?」
「シャ、シャ、シャラザールが降臨したのではないかと他の者共は話しておりました」
震えながら言う。

「シャラザールが降臨か」
馬鹿にしたようにアーベルは言った。
「はいっ。さようでございます。すさまじい。魔力を感じました」
「ふんっ。しかし、お前は小娘と最初に対峙した時には何も感じなかったのだろう。
という事は相手の魔力はお前よりもはるかに大きいという事だ。
その貴様ごときのいう事でシャラザールなどと神話の世界の戯言をされてもな」
と言うと皇帝は立ち上がった。

「皇帝陛下。何卒お助けを。もう一度私めにチャンスをお与えください」
フランツは這いつくばって許しを請う。

「判った。貴様には魔人の心臓となって我に仕えよ」
「ひっ、ひえええ」
フランツは慌てて後ずさりする。
しかし、それは後ろにいた黒ずくめの男に当たることによって邪魔される。
「サロモン!」
ヘルマンは男を見上げて恐怖の声を上げた。

「やれ」
皇帝が命じる。
「ギャー」
男の絶叫が謁見の間に響き渡った。





畑の苗は枯れていた。
一面の涸れ畑だ。

「ここもか」
男はその苗に手を伸ばして言った。
ジャスティン・ギンズバーグ、ボフミエの魔導騎士だ。
ボフミエ一帯では近年の天候不順によって不作が続いていた。

「きゃあああ」
遠くから女性の悲鳴が聞こえる。
ジャスティンは慌てて声の方に駆け付ける。
女が男らに引きずられて家の外に連れ出されていた。

「お願いです。娘を連れて行くのだけはお許しください」
父親と思しきものが必死に男達に縋り付く。
「貸した金が払えないなら娘はもらっていくだけだ」
その父親を足蹴にして男は言った。

「何をしている」
きっとしてジャスティンは男共を睨みつけた。

「これは騎士様。我々は金の取り立てをしているだけですよ」
その男たちの元締めと思しき男が言った。

「貸した金を返せないなら娘を連れて行くしかないでしょう」
男は笑って言った。

「どうかお願いします。もう少し待ってください。
お金は何とかしますから」
男は必死になって言う。

「ふん、この天候不順で不作。娘以外に金目のものなど何も無かろう。
そうかおまえ自身を王宮に差し出すか」
男は笑って言った。

男を王宮に差し出す。
今の皇帝になってから税が払えないからと言って多くの者が王宮に連れて行かれた。
そして帰って来るものは誰一人いなかった。

「ふんっできまい」
男は笑って言った。

「この女はきれいな顔をしている。
何なら俺が最初にかわいがってやろうか」
下卑た笑いをして男は女の胸を服の上からもんだ。

「何すんのよ」
女は叫ぶと男の顔にとっさに衝撃波を叩きつけていた。

男が弾き飛ばされる。

「貴様。何しやがる」
他の男共がいきり立って女に向かった。
女は半狂乱になっていた。
周りに次々に衝撃波を叩きつける。

それに男の家族が加勢する。

ごろつきはあっという間に制圧された。

ジャスティンは呆然としたいた。
確かにボフミエは魔導帝国。
全ての基本は魔法にある。
魔力の強いものが全てだ。
当然平民にも魔力の強いものがいるのは当たり前だが。
ごろつきどもが弱すぎた。

しかし、魔導反応を感じて次は帝国騎士が駆けつけてくるだろう。
そして…。

「貴様ら何をしている」
10人ほどの魔導騎士が駆けつけてきた。

「この者たちが娘に不埒な行いをしてきたので逆らっただけです」
父親とみられる男が言い募った。

「何をいう。こいつらは質屋の幸福堂の手の者ではないか。
貴様らが金の取り立てを邪魔しようとしたのだな」
騎士の一人が言う。

「何言っているのよ。あなた騎士でしょ。騎士は庶民の味方じゃないの。
いつから悪徳商人の手先になったのよ」
女の子がきっとして言った。

「我らは皇帝陛下の騎士。皇帝陛下の命は絶対だ」
騎士らは言った。
騎士たちはその家族を拘束しようとする。

「何すんのよ。こんな天候不順で税金払えなんて無理よ。
あなたたち人間の心は無いの!」
女の子の悲鳴が聞こえる。
ジャスティンの心にその言葉は響いた。

「待て!」
思わず、ジャスティンは叫んでいた。

「何だお前は」
騎士の一人がジャスティンを見る。

「騎士のようだが、皇帝騎士団の我らに何かあるのか」

「我、戦神シャラザールの騎士、ジャスティン・ギンズバーグ」
ジャスティンは名乗りを上げた。

「げ、正義の騎士!」
騎士の一人が声を上げた。
皇帝のいう事を聞かずに城を追放された騎士がいると聞いたことがある。
そしてその通り名が正義の騎士。
その腕はボフミエ1だと。

「すぐに失せろ」
ジャスティンは言った。

「何を言う。我ら皇帝騎士団。皇帝陛下に逆らうやつを許すとでも」

「そうか。では死んで頂こう」
ジャスティンは剣を抜いた。

天空に突き出されたそれに向けて何故か雨雲が切れて一条の日の光が差し込んできた。
剣が爆発したように光り、次の瞬間には皇帝騎士団は地に這いつくばることになった。
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