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第四章 王立高等学園

赤い死神は大国皇太子に愚痴を言います

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オーウェンはその後クリスと一緒に廻送していた馬車に乗って学園まで帰った。

「少しは気分が晴れた?」

「ありがとうございます。あんなに王宮の人らに喜ばれているとは思ってませんでした」
クリスが笑顔で言った。
少し憂いのあるクリスの笑顔もきれいだとオーウェンは不埒な事を考えていた。

「でも、ジャックを傷つけてしまったことがちょっと気になります」
「でも、お母さんがちゃんとやってくれるって言ってくれたでしょ」
「うーん、でも子供心にはまだ納得できないかなって」
クリスは少し複雑そうに言う。
「それはそうかもしれないけれど、段々わかって来るんじゃないかな」
「だと良いんですけど。ま、また時間置いて電話してみます」
ニコッとクリスは笑った。
オーウェンは曇っていたクリスの顔が少し笑顔になって良かったと思った。
何としてでも卒業式までにクリスの心をものにしたいと決意したオーウェンだった…


そして帰った寮の談話室では1区画がどよーんとすさまじい瘴気を発しているようにみんな避けていた。
何故か10メートル以上みんな避けている。
その中心には赤い髪の男がいた。
皆危険を感じて避けていた。

「おいっ。アレク。談話室で酒はダメだろ」
オーウェンは思わず叫んでいた。

「何だと。オーウェン。これが飲まずにやってられるか。お前も付き合え」
出来上がったアレクがグラスを差し出した。

その横では酒でつぶされたヘルマンとアルバートとウィルがいた。
何でヘルマンがここでつぶされているかは判らなかったが、どのみち格好つけてアレクに絡んだんだろう。
底なしのアレクに勝てるわけ無いのだが。

「この前クリスに振られた時に付き合ってやったろ。
愚痴愚痴言うと皆の前でその時のことをばらすぞ」
アレクが叫ぶ。

「何言っている。その時はお前もジャンヌの事について愚痴っていたろ」
グラスを受け取りながらオーウェンは言う。

「赤い死神って言われて、何故か子供の時から恐れられていた。
剣の師範で陰険な奴がいて、半殺しにしたこともある。
占領地で反乱軍を皆殺しにしたこともある。
あんな子供のいう事なんていつもの事だ」
アレクがグイっとウォッカの入ったグラスを差し出す。

「なら良いだろう。いつもの事なんだろ」
オーウェンはそれを受け取りながら言った。

「良い訳ないだろ。餓鬼どもはいつもは俺を恐れて寄っても来なかったんだよ。
餓鬼に面と向かって殴られたのも初めてだよ」
アレクは一気に入っているグラスを飲みきると自分の酒を注ぐ。

そして、オーウェンのグラスにも注ぎ込む。

「良く何もしなかったな。」

「出来るか!シャラザールがいるんだぞ。あいつの前で何かできるわけないだろ」
アレクが叫んでいた。

もう言っている事がハチャメチャだ。シャラザールって誰だ。ジャンヌの事でも言っているんだろうかとオーウェンは思った。

「お前は良いよな。想い人が同盟国の令嬢で。俺は敵国の皇太子なんて最悪だよ」
アレクはウォッカをグイッと飲み干した。そしてまた注ぐ。

「おいっ。飲みすぎなんじゃ」

「うるさい。こんなちょっとじゃ酔わないさ」
アレクはきっとしてオーウェンを見る。

「最初は敵情視察のつもりだったんだ。
あいつと剣を交えるのも、なかなか自分と本気でやりあえる奴がノルディンにもいなくて練習のつもりで。
でもなんかいつの間にか好意を持っていて。

それに、ジャルカの爺さんをはじめこのウイルにしても魔導中隊の奴らにしても誰も俺を恐れなくて普通に接してくれて…。
ノルディンにいてもみんな俺の事は恐れていて唯一恐れないのがカーチャだけで。だから一緒にいるのも楽しくていつの間にか入り浸っていた。
ジャンヌの代わりに皇太子は別にいるから最初は国に連れて帰ろうと思っていたんだ。

でも、いきなりあいつ皇太子になりやがって。どうしようって。
あいつのいない国境なんていても面白くないから、ここに留学に来た。
そしたら誰も俺を赤い死神って恐れないし、学園ってこんなに居心地が良いのかって。
別にノルディンの皇太子の地位なんてどうでも良いやって思ったんだけどな」

「今まで自分のやってきたことがあの子の態度で判ったってか」
オーウェンは聞いた。

「ジャンヌに言われた。お前と付き合うわけにはいかないってな」
アレクは酒を一気飲みした。

「はんっそんなのいつもの事だろ」
オーウェンは何を当たり前のことをと言う顔で言った。

「それはそうだが」

「お前らしくもない。断られても何度でも行っているくせに今更だろ」

「うん。それはそうだな」
アレクは頷いた。

「お前の方は進展があったのか」

「お前らが邪魔してくれるから全然だよ」

「お前だけうまくいってたまるか」

「よし、明日は朝から寮でお出迎えを始めるぞ。お前も付き合え」
アレクは威勢よく打ち出した。

「えっ。寮に迎えに行くのか?」
オーウェンは驚いて聞く。
朝からそんな事して大丈夫なのか?
とは思ったが、

「誠意を毎日見せれば、クリス嬢の心もいちころだぞ」

「本当か?」
喜んでオーウェンが聞く。

「当たり前だ」
アレクは太鼓判を押した。

酔った時の考えなどろくでも無い事を二人とも忘れていた。
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