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第四章 王立高等学園

大国皇太子のクリスへの想い

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カフェでランチのデザートも皆が堪能し終わったのは13時頃だった。

「オーウェン様。この近くにおいしいパフェが食べられるところがあるんですの。
出来れば一緒に参りませんか」
エカテリーナが言う。
ご飯食べた後でパフェを食べるなんて信じられないとアレクは思うが食事と甘味は別腹らしい。

しかし、
「お兄様にでも案内してもらってください」
オーウェンはそう言うと立ち上がった。

「えっどちらに行かれるのですか?」
エカテリーナが驚いて聞く。

「今日は私とクリスのデートなんです。そろそろ邪魔するの止めてくれる」
オーウェンは言った。

「まあ、クリスなんてクリス様の事を呼び捨てにされるなんて」

「いいんだよ。幼馴染だし、マーマレードの王女の事もジャンヌって言っているし
そもそもアレクもジャンヌと呼び捨てにしているぞ」

「俺らは恋人だし」
しれっとアレクが言う。

「誰が恋人だ。呼び捨ても許していないぞ」
ジャンヌは思いっきりアレクの頭を叩く。

それを無視してオーウェンはクリスの側に行く。
クリスの隣にはいつの間にかアルバートが座って7人で盛り上がっていた。

「クリス嬢。そろそろ、次のあなたの希望のところにお連れしましょう」

「えっ、でもオーウェン様はエカテリーナ様とパフェを食べに行かれるのでは無いのですか」
オーウェンはクリスの言葉に絶句する。

「そんな訳無いでしょう。あれはあいつらに邪魔されていただけです」

「でも、楽しそうにお話しされていましたし」

「本当ですわね。エスコートしているご婦人をほったらかしにするなんて」
「本当に最低です」
イザベラやナタリーまでが言う。

「君らがクリスを取るからでしょ」
オーウェンはいつの間にか同国の者まで邪魔している現実に少し怒った。

「まあ、男のくせに言い訳なんて。自分がエカテリーナ様と仲良くしていたのに」
とそれに負けないイザベラ。

「いや、それは誤解でしょ」

「こんな皇太子よりもアルバート様の方がよほど誠実ですわ」
「公爵家のご令息ですし。クリス様とも十分に釣り合いますわね」
白い目でイザベラとナタリーはオーウェンを見る。

オーウェンは針の筵のように感じたが、
「お許しいただけないならアレクのように跪くけど」
クリスの耳元で囁く。

「えっオウ。それはやめて!」
クリスは慌てて止める。

「やってみようか」
悪戯っぽくオーウェンは言う。

「やめて!判りました。一緒に連れて行ってください」
慌ててクリスは立ち上がった。
クリスは、アレクがジャンヌに対したようにオーウェンにここで跪かれたらと思うとたまらなかった。

「アレク、ご馳走様」
そう言ってオーウェンは出る。

「えっおい、オーウェン!」
慌ててアレクは立ち上がる。

「皆、今日はアレクのおごりだって。じゃあアレクごちそうさま」
ジャンヌが言い切る。

「えっちょっと」

「ご馳走様です」
みんな喜んで出ていく。

「あいつらなあ」
ぶつぶつ言いながらアレクは勘定を持つ羽目になっていた。


クリスは店を出るとオーウェンを連れて下町の方に向かった。
「良かったんですか。エカテリーナ様をほったらかしにして」

「クリス。ずうーと何年間も君しか見ていないのにその言葉はひどくない?」

「エカテリーナ様。わざわざ馬車壊してそこで待っているなんてメチャクチャ健気じゃないですか」
クリスが言う。

「じゃあ今度、僕がそうしてクリス嬢を待っていれば良い?それで付き合ってくれるならいくらでもやるよ」
少しいじけてオーウェンは言う。

「やめてください。そんな恥ずかしい事」
慌ててクリスは否定するが、

「恥ずかしい事なんて全然問題じゃないよ。君と付き合えるなら」

「オウ、頼みますから付き合うまでは毎日跪くなんてやらないで下さいよ」
クリスが慌てて言う。

「そうだ。その手があった」
オーウェンが手を打つ。

「やめてください。やったら絶交ですからね」
先手をうってクリスが言う。

「クリス冷たい。ずうーっと君だけ見てきたのに」

「現実見てください」

「現実見ても問題ないだろう。
君は同盟国の侯爵令嬢だし、身分的にも何の問題も無い」
オーウェンは言う。

「でも、ドラフォードは大国、ノルディン帝国の王女様の方が釣り合いますわ」

「そもそもノルディンは敵国。それだけで難しいよ。
というか、君と結婚しても反対するドラフォード国内貴族っていないんだけど」

「そんな訳無いでしょ」

「何言っているの。そもそも君の騎士は反国王派の筆頭の公爵の息子じゃないか。
公爵は君の皇太子妃にも反対していたのに、息子を護衛騎士にするほどあっさり取り込んでいるし、
反対派の大半を味方にしたのはクリスだよね」
オーウェンが言う。

「えっ、私は単にドラフォードの中で今後マーマレードの事を良く思って頂ける方々を探しただけで…」
クリスが言い訳するが。

「それで頑固な反国王派を親クリス派にするなんてすごいよ。
国内的には僕がクリスとくっつけばオール親国王夫妻派になっちゃうんだけど」

「国王陛下は反対でしょ」

「そんなに気にしていないさ。と言うか反対は絶対にできない。国王の母と妻が君を推している」

「母って皇太后さま?」

「そう。そもそもおばあさまからは君を連れて帰ってくるまでは帰って来るなって言われているんだけど」

「嘘?」
クリスは唖然とした。
-じゃあクリスが承認しない限りオーウェンはドラフォードに帰れないって事?

「そもそも、君が王妃の器じゃない訳ないじゃない。女王でも十分にやって行けるよ。
今回の王弟に対する対処、本当に素晴らしかったと思う。
俺には到底ああは出来なかった。
俺がクリスには似つかわしくはないって振られる可能性の方が高いのも知っている。
でも、俺は必ず君に追いつくから。だから一緒にいろいろとやって頂けるとありがたい」
オーウェンは必死に言い募った。

「そんなに俺は君に似つかわしくは無い?」
今度はオーウェンが下手攻勢に出た。

「えっそんなことは無いですよ」

「じゃあもし僕がドラフォードの皇太子でなかったら付き合ってくれる?」

「それは喜んで」
クリスは頷いた。

「本当に!じゃあ皇太子の地位はガーネットに譲る」
オーウェンが瞬時に応える。

それを離れて追いかけながら探査魔法で聞いていたガーネットは石に蹴躓いてこける。
「ガーネット。皇太子になっちゃったね」
ウィルが面白がっていう。

「何言っているのよ。そうなったらウイルにも責任とってもらって国王になってもらうわよ」
ガーネットがぎれて言う。

「ちょっと待ってよ。なんで俺が関係あるわけ」

「あなたのお姉さまのせいでそうなるんだから弟として責任とるのは当たり前でしょ」
さも当然とガーネットは言い切った。

-そうか、あの陰険皇太子がドラフォードにいなくなってウイルが代わりにつけばこれほどやりやすくなることは無い-とアレクは瞬時に計算する。

「それメチャクチャ良いよね」
アレクが言う。

「お前はどのみちろくな事考えていないだろう」
とジャンヌ。

「ウイル様やガーネット様では赤い死神にいいようにされてしまいますわ」
とイザベラ。

「ここはもっと頼りない皇太子殿下を応援するしかないのでは」
ナタリーまで言い出す。


「そんな事は許されないでしょ。」
その前にクリスは否定していた。

「君の笑顔を見ていられるならドラフォードの皇太子の地位なんて必要無い」

「オウ、王族は責任を女によって放棄すべきでは無いわ」
クリスが正論を言う。

「じゃあ君を妃として迎えるしかないだろう」

「…」
クリスはそれに対して無言だった。
自分にドラフォードなんて大国の王妃が務められるとは思っていなかった。
それに育ったマーマレードにも愛着があった。

「判った。クリス。すぐに判断してくれなくていい。
だから一緒に図書館で隣に座って勉強する事を許してほしい」

「えっそんなことは」

「だって前期はジャンヌに似た陰険王妃に邪魔されて話す事もままならなかったもの。
それくらいは認めてくれてもいいだろ」
オーウェンはクリスの瞳を見る。

「そんな事で宜しければ」
赤くなってクリスが言う。

「物理も教えてくださいね」
オーウェンはとりあえず、これで図書館でクリスの隣に座る権利を得られてほっとした。
物理の勉強に入って来れるのは脳筋のジャンヌらでは無理だ。
そこで何とかもっと近づこうと思うオーウェンだった。
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