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第二章 大国での失恋

赤い死神は外交の餌を差し出す

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食事が終わると大使を伴ってアレクが王宮に来た。
アレクのところにいたジャンヌは朝を迎えるとさっさと帰って行った。
アレクとしては珍しく素直にジャンヌが帰って行ったことに驚いたが、
これでじっくりとオーウェンを邪魔出来るとホッとしていた。

「今回はトリポリの国王にも同席してもらいますが、ドラフォートとノルディンの皇太子が中心になって調印するという次代の仲の良さを、印象付けるにこれほどの機会はないと思います」
アレクがいかにも用意周到苦労して整えたように言う。
アレクにとってトリポリなんてノルディンの属国と化していて何でも言う事を聞く
便利な国だった。

「いやあ、さすがに大国ノルディンの皇太子殿下だけはあられますな。私としても、ノルディン国とは今後とも是非とも手を携えて行けたらなあと思っておったのですよ。
いつも貴国の皇帝陛下には相手にされませんでしたがな」
国王は礼を言うが嫌味も言わずにはいられなかった。
「今回の件は皇帝も喜んでくれていますよ」
その嫌味もアレクは流す。
ノルディンの皇帝としてもドラフォードとしばらく事を構えたくはなかったので、この提案にもろ手で賛成していた。

「そうですか。
いやはやノルディン国皇帝陛下は良い令息をお持ちだ。
我が皇太子にも是非ともあなたの爪の垢を飲ませたいですな」
クリスの事で頭が一杯な息子に嫌味を言う。

喜んでいる国王とは対照的にオーウェンは気持ちが落ち込んでいた。
今やる必要がどこにある。
何も初めてクリスがこの国に来てくれたこの時に。
もう少し時間があればもっとクリスと親密になれるのに。
オーウェンはアレクがそこまで邪魔して面白いかと本当に嫌になった。

「で、日程はいつくらいをお考えですか?」
国王が聞く。
「せっかくなので出来る限り早い方が宜しいのではと思うのですが」
「では10日後くらいでは」
オーウェンが言う。
「出来れば向こうの国王には待っていただいておりますし、私としてはこの足でそのまま行きたいくらいなのですが。」
アレクが言う。
「なるほど皇太子殿下もお忙しいですよね」
国王はオーウェンを見る。
トリポリはここから急げば5日くらいでつけるはずだ。
残り5日あれば何とか機会を見てとクリスと親密になって
とオーウェンは思っていたが、こいつは絶対に日にちをくれそうにないなとオーウェンには判った。
往復10日もいなかったらクリスは帰ってしまうだろう。
「出来れば5日後にいかがかと思うのですが。」
「いや、さすがに」
「オーウェン。お前は閑だろう。せっかくアレクサンドル皇太子殿下がお忙しい中、道筋を付けて頂いたのだ。すぐに行ってきなさい」
「御意」
オーウェンは憎しみのこもった眼でアレクを見た。そして、絶対にジャンヌ王女との仲を邪魔してやると心に誓った。ドラフォードの公爵家クラスの息子のうちの年齢的に合いそうな奴を対抗馬として送り込んでやる。
確かバーミンガム公爵の下の息子が軍にいたのを思い出した。あんまり公爵とは仲が良くなかったが、隣国の王女との婚姻なら喜んで乗って来るのではないかと甘い期待をオーウェンは持った。

「いろいろ皇太子殿下にはお骨折りいただき感謝の言葉もありませんな。」
オーウェンは不敵な笑みを浮かべていた。

その不気味な笑顔にアレクは思わず背筋を怖気が走ったのを感じた。
(しまった。やりすぎたか)

そもそもオーウェンは陰険王の息子。
ドラフォードの国王には単細胞な帝国皇帝は今まで散々やられていた。

父を単細胞と馬鹿にしているアレクもこの陰険王とまともにやりあって知力で勝てる気はしなかった。

その息子にも陰謀では勝てる気がしない。
あまりやりすぎると後が怖い。
とんでもないことをやってくれそうだった。

でも、ドラフォードの皇太子とシャラザールの化身とがくっついてくれるのはノルディンとしては絶対に避けたかった。

そうだ、いざとなったらジャンヌに助けてもらおう、とアレクは思った。ジャンヌはクリスと親しいし、何とかしてくれるだろう。
オーウェンが仕返しにそのジャンヌとアレクとの仲を裂こうと画策しだしたのには気づかなかった。


一方その頃クリスは王宮傍の軍の牧場でドーブネル自慢の馬を見せてもらっていた。
「そう、このようにして馬3頭に対して1人の専属の者がおるのです。騎兵ではこの馬の世話が基本ですからな」
得意げにドーブネルは案内している。
「ははは、こいつの馬好きは士官学校にいる時からですからな」
その横では好好爺としたウィンザー将軍がいる。

「こちらにいらっしゃいましたか」
「バーミンガム公爵」
クリスは驚いた。
「よお、フィリップ、久しぶりじゃの」
ウィンザー将軍がバーミンガム公爵に声をかける。
その3人の様子を見てクリスは思い出した。
「お三方は士官学校の同期でしたか」
「流石クリス様。よくご存じですな」
感心してバーミンガム公爵は言う。
その後ろには長身の近衛の服を着た青年が立っていた。

「息子のアルバートです。」
バーミンガム公爵が紹介する。
「アルバート・バーミンガムと申します。」
青年は値踏みするようにクリスを見た。別にどこにでもいる女の子だ。アルバートから見ても頑固な父が篭絡されるようなことは感じなかったが。

「クリスティーナ・ミハイルと申します。」
クリスはあいさつの礼をする。
「アルバート様は近衛で乗馬の達人であるとお伺いしております」
クリスがすらりという。
「いや、乗馬の達人とまで言われるとどうかなと思いますが、得意ではあります」
アルバートは自分の得意な事を即座に言われて驚いた。
「ほう、クリス様はすごいですね。私でもフィリップの息子が近衛にいるのは知っておりましたが、乗馬の達人であるとは失念しておりました」
ドーブネルが言う。
「いえ、ジャルカ様がおっしゃっていらっしゃったので」
「えっあの火の魔導士ジャルカ様がご存じなのですか」
喜んでアルバートが言った。
「なんとあの陰険ジャルカは我が国の若者にも名が知れておるか」
ウィンザー将軍が言う。
「何度かノルディンを撃退されているのを聞き知っている程度ですが」
「一度くらいでは若者も慕ってくれんか」
自嘲気味にドーブネルが言う。
「一度でもすごいですよ」
アルバートが言う。
「そうじゃ。わしなんか一度も勝ったことは無いからな」
ウィンザーが自嘲気味に言う。

「カンネーの籠城戦は見事だったとジャルカ様からお伺いしておりますが」
クリスが口をはさむ。
「あの昔の戦いをお聞き及びか。」
喜んでウィンザーは言う。
でも、ここではしゃぎすぎてもと考えて
「何、わしは怖かったので籠城して籠っていただけと言われておるがな」
と謙遜した。

「あの戦いはいかに長い間ノルディン皇帝をあの位置に引き止めておくのが重要だったと聞き及んでいますが。半年間も引き留めたおかげで兵糧がつきそのあとの行軍が出来なかったとか」
すらすらとクリスは言う。
「それもジャルカが?」
ウィンザーは驚いて聞いた。
「はい。戦の流れを再現していただきました。」
簡単な事のようにクリスは言う。

「いや、失礼ながら軍関係でもないご令嬢がお聞き及びとは存じませんでした」
驚いてウィンザーが言う。
「もう必要ないのですが、王妃教育の一環でジャルカ様が大切な戦いは知っておいた方が良いとお教えいただいたのです。」

「わしも長い間軍にいたが、1つでもジャルカに大切な戦いと認めてもらったか。あのジャルカに認めてもらっても全然うれしくないが、クリス様に知って頂いたとなると嬉しいですな」
「あの、それ以外にもマカロン奇襲とドーミパンの戦いもお教えいただきました」
ウィンザーは驚いていた。他国の令嬢が自分の3っつもの戦いを
それもドーブネルみたいに歴史の教科書に載るような戦いでないのに知ってくれていることに。
そして、横で青い顔をしているアルバートを見た。
「アルバート。お主知らなかったのか?」
フィリップが言う。
「いえ、士官学校では名前は聞いたことがあるのですが…」
アルバートは必死に言い訳をしようとしたが出来なかった。
「自国の近衛の騎士がこのていたらくではもう一度教育を考え直した方が良いかもしれませんな」
重々しくドーブネルは言った。

「しかし、クリス様は聞きしに勝る智謀をお持ちだ」
「師の言うとおりに、いろいろ勉強していただけですわ」
謙遜するクリスの肩越しに年寄り3人組はお互いに目で合図すると頷きあっていた。

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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

新作はじめました

「赤い死神の大侵攻作戦で王国を蹂躙します…しかし、その前に無敵の戦神が立ち塞がりました」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/167498546

このお話の3年前の話。

赤い死神が何故シャラザールを恐れるのか。読んでいただければよく判ります。

クリスがシャラザールに憑依された理由とか

ぜひともお読み下さい。
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