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第一章 婚約破棄
クリスは大国皇太子と踊ります
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クリスは今日のサマーパーティーは婚約者に相手にされず、とてもつらいものになるのではないかと危惧していた。
ウイルと踊った後は壁の花になろうと。
しかし、弟と踊った後は舞踏を希望する男性に取り囲まれていた。
いつもなら王妃様から言われている事を守って、王太子以外とは踊らなかったはずだ。
「ミハイル嬢。隣国のしがいない王子の留学の最高の思い出と貴国との今後の末永いお付き合いになる事を祈って一曲、是非とも踊って頂けないでしょうか?」
目の前に正装した黒髪のオーウェン・ドラフォードが手を差し出していた。
どうしようかと逡巡するがその瞳の端に仲良さそうにするエドとマティルダの姿が見えた。
「私で良ければ喜んで」
クリスは手をオーウェンに預ける。
そのまま、中央に歩みを進めて踊り出す。
「無理言って申し訳ない。」
「そんな、私で良ければいつでもお付き合いし致しますよ。殿下」
「よく言うよ。図書館で会って話しかけても無視するくせに」
オーウェンはからかう。
「図書館は勉強するところですから」
すましてクリスは答える。
「でも本当によく頑張っているね」
「殿下も遅くまで図書館でお見かけしますわ」
「ありがとう。気づいてくれていたんだ」
嬉しそうに黒い瞳が輝く。
思わず赤くなってクリスは下を向いてしまった。
「ごめんごめん。また、王妃様に叱られちゃうかな?」
「えっ」
クリスは思わず不審に思ってオーウェンの顔を見る。
「留学するときに、王妃様からはくぎを刺されているんだ。
あなたとは出来る限り話すなって」
「????」
「あなたもあんまり異性と話すと醜聞になるから控えろって言われているでしょう」
「未来の皇太子妃ですから、ある程度は仕方がないと」
「でも王子は守っていないよね。」
頷くわけにもいかず、愛想笑いをする。
「ごめん。あなたをいじめるつもりはなくて。ただ、いつも無理していないかなって」
王子は次々に触れられたくない核心を突いてくる。
でも私は未来の皇太子妃。笑ってごまかさないと・・・・
「昔はもっとお転婆だったのに」
「えっ昔?」
「そう。僕と結婚しても良いって言ってくれたのに」
「そんなこと・・・・」
ドラフォードの皇太子と会った事なんて今まであったっけ。
最近ではないはず。という事は最近の夢を思い出していた。
昔こけた自分を助けてくれたのが黒髪の子供だった。
その子の名前は・・・
「ひょっとしてオウ?」
「そう、オーウェンが言えなくてオウになっちゃったけど」
「えっこんなに立派になって」
「それはあなたこそ。こんなにきれいになられて」
「まあ、お上手になられたのね。昔はもっと意地悪だったような気がするわ」
「そんなことないよ。それはエドだろ。虫とか君に押し付けてたよ」
そんなことあったような。それでよくオーウェンに助けてもらっていたんだ。
そう言えばオーウェンは年上でどこか落ち着いていた。
「でも、オウ、結婚の話の返事は確か考えておくだったような」
「ちぇっ、覚えていなくて良いこと覚えているんだ」
少し悔しそうにオーウェンは言った。
「あの時は楽しかったわね」
無邪気だったし。
クリスには懐かしかった。
「そろそろ曲も終わりだね」
残念そうにオーウェンは言った。
クリスももう少し話したかったが立場上出来なかった。
「ええ、また機会がありますわ」
「本当はもう一曲踊りたい」
オーウェンはクリスの華奢な手を強く握りしめた。
思わずクリスの目が見開かれる。
「ごめん。冗談だよ。君の婚約者の目が怖いから戻すよ」
先ほどからきつい目で睨んでいるエドの視線は感じていた。
笑って言うオーウェンの目は何故か悲しそうだった。
「オウ・・・」
「ミハイル嬢。幸せにね」
次の順番を争奪する男たちの中にクリスを置いてオーウェンは離れて行った。
ウイルと踊った後は壁の花になろうと。
しかし、弟と踊った後は舞踏を希望する男性に取り囲まれていた。
いつもなら王妃様から言われている事を守って、王太子以外とは踊らなかったはずだ。
「ミハイル嬢。隣国のしがいない王子の留学の最高の思い出と貴国との今後の末永いお付き合いになる事を祈って一曲、是非とも踊って頂けないでしょうか?」
目の前に正装した黒髪のオーウェン・ドラフォードが手を差し出していた。
どうしようかと逡巡するがその瞳の端に仲良さそうにするエドとマティルダの姿が見えた。
「私で良ければ喜んで」
クリスは手をオーウェンに預ける。
そのまま、中央に歩みを進めて踊り出す。
「無理言って申し訳ない。」
「そんな、私で良ければいつでもお付き合いし致しますよ。殿下」
「よく言うよ。図書館で会って話しかけても無視するくせに」
オーウェンはからかう。
「図書館は勉強するところですから」
すましてクリスは答える。
「でも本当によく頑張っているね」
「殿下も遅くまで図書館でお見かけしますわ」
「ありがとう。気づいてくれていたんだ」
嬉しそうに黒い瞳が輝く。
思わず赤くなってクリスは下を向いてしまった。
「ごめんごめん。また、王妃様に叱られちゃうかな?」
「えっ」
クリスは思わず不審に思ってオーウェンの顔を見る。
「留学するときに、王妃様からはくぎを刺されているんだ。
あなたとは出来る限り話すなって」
「????」
「あなたもあんまり異性と話すと醜聞になるから控えろって言われているでしょう」
「未来の皇太子妃ですから、ある程度は仕方がないと」
「でも王子は守っていないよね。」
頷くわけにもいかず、愛想笑いをする。
「ごめん。あなたをいじめるつもりはなくて。ただ、いつも無理していないかなって」
王子は次々に触れられたくない核心を突いてくる。
でも私は未来の皇太子妃。笑ってごまかさないと・・・・
「昔はもっとお転婆だったのに」
「えっ昔?」
「そう。僕と結婚しても良いって言ってくれたのに」
「そんなこと・・・・」
ドラフォードの皇太子と会った事なんて今まであったっけ。
最近ではないはず。という事は最近の夢を思い出していた。
昔こけた自分を助けてくれたのが黒髪の子供だった。
その子の名前は・・・
「ひょっとしてオウ?」
「そう、オーウェンが言えなくてオウになっちゃったけど」
「えっこんなに立派になって」
「それはあなたこそ。こんなにきれいになられて」
「まあ、お上手になられたのね。昔はもっと意地悪だったような気がするわ」
「そんなことないよ。それはエドだろ。虫とか君に押し付けてたよ」
そんなことあったような。それでよくオーウェンに助けてもらっていたんだ。
そう言えばオーウェンは年上でどこか落ち着いていた。
「でも、オウ、結婚の話の返事は確か考えておくだったような」
「ちぇっ、覚えていなくて良いこと覚えているんだ」
少し悔しそうにオーウェンは言った。
「あの時は楽しかったわね」
無邪気だったし。
クリスには懐かしかった。
「そろそろ曲も終わりだね」
残念そうにオーウェンは言った。
クリスももう少し話したかったが立場上出来なかった。
「ええ、また機会がありますわ」
「本当はもう一曲踊りたい」
オーウェンはクリスの華奢な手を強く握りしめた。
思わずクリスの目が見開かれる。
「ごめん。冗談だよ。君の婚約者の目が怖いから戻すよ」
先ほどからきつい目で睨んでいるエドの視線は感じていた。
笑って言うオーウェンの目は何故か悲しそうだった。
「オウ・・・」
「ミハイル嬢。幸せにね」
次の順番を争奪する男たちの中にクリスを置いてオーウェンは離れて行った。
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