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第一章 婚約破棄

何とか一番になりましたが、婚約者の顰蹙買いました

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クリスは走っていた。

にこにこ笑いながら。

まだ子供のころだった

まだ幸せな時。

目の前を走るエドの後ろを追いかけながら

自分の家の庭をかけていた。

そして思いっきりこけてしまった。

そこでさっと手を出してくれるのがエド…・

そんな訳無かった。エドは無視してピンクの髪の女の子を追いかけて行った。

「エド様!」

クリスは声をかけたがエド達は無視して走っていく。

「大丈夫?」
手を出してくれたのは黒い髪の男の子だった。

少し大きな男の子はクリスを助け起こして膝についた草を払ってくれた。

「ありがとう。あなたはだあれ?」

そのきれいな黒い瞳に思わずぽかんとして聞いていた。

その名前は何だっけ。

確かどこかの王子様。

ハッとしてクリスは目を覚ました。

結局昨日は寝ようとしてほとんど寝れなかった。

エドと仲の良かった時のことが思い出されて。

やっと寝れたと思ったらこの夢だ。

「考えたらエドに優しくされた記憶なんて無かったわよね」
昔からの幼友達だがどちらかというとエドの上のジャンヌ王女に遊んでもらっていた記憶の方が強い。

ここ最近は皇太子妃教育と学園のテスト勉強でエドの事にかまっている余裕はなかった。

もう少し、エドとの時間を増やした方が良かったんだろうか。

もっと自分からやさしくした方が良かったんだろうか。

でも、マティルダみたいに男に媚びるなんて絶対に無理だ。

それにテストで無様な点数を取るわけにはいかなかった。

今は他国の第一皇子も留学生として滞在しており、マーマレード王国の教育水準をバカにされるわけにもいかなかった。

「でも・・・・」
クリスはため息をついた。

エドはマティルダを抱きしめていた。
クリスにはしてくれなかったのに。
手をつないでくれたこともほとんど無かった。
最近はエスコートしてくれるのも義務感が強かったような気がする。
微笑みかけてくれたこともほとんど無かった。

というかエドはどちらかというと冷たい印象があった。

マティルダを抱いているエドはいつくしむようにマティルダを抱いていた。

このまま時が過ぎ卒業した後に自然に結婚するんだと思っていた。

しかし、愛のない結婚なんてしたくない。

エドはマティルダをどうするつもりなんだろう。

マティルダを側室にするつもりだろうか。

でも私は侯爵家、マティルダは民間で育った側室の子とは言え立場は公爵家だ。

「はあっ」

クリスはまたため息をついた。

まあ今学期も今日までだ。

明日はサマーパーティがあってそのあとは夏休み。

王妃主催の地獄の夏合宿が始まる。

「でもやる意味あるのかな」

疑問に思い出したクリスだった。

寝不足で目にクマが出来た顔を何とか化粧で隠しつつ、何とか寮を出る。

各園の広場では掲示板に人垣が出来ていた。

1学期の成績が貼り出さされているのだ。

トップは

よし

クリスはホッとした。

大国ドラフォード王国の第一皇子が留学生として同学年に留学していた。

その王子にはマーマレード王国の未来の王族としては負けるわけにはいかなかった。

第一位クリスティーナ・ミハイル

第二位オーウェン・ドラフォード

第三位スティーブン・スミス


えっ王子は

次々に見て行くがない。

王子は今まではクリスのすぐ下にいたはずだ。

でも無い。

第55位エドワード・マーマレード

第56位マティルダ・アーカンソー

なんでそんな下にいるのか

「全然勉強して無かったの?」

思わず声が漏れる。



「エド様、私やっと50位台になれました。エド様と同じですよ。」

「本当だ。マティルダ今回は頑張ったね」

その後ろでキャーキャー言っている馬鹿公爵令嬢がいた。

それと馬鹿面してにやけた婚約者が。

「すごいですね。ミハイル嬢。王妃教育も大変だというのにトップを取られるなんて」

そのクリスの横で感心するオーウェン・ドラフォードがいた。

大国ドラフォード王国の黒髪の皇太子だ。クリス達よりも3年ほど年上だが、この春からマーマレード王国に留学生として滞在していた。

王立学園の図書館や王宮の喫茶室でよく遅くまで勉強しているのを見かけるが話したことは最初に王妃に紹介された時くらいだった。

「いえいえ、他国の王子様が第二位になられるなんて。ドラフォード殿下こそ素晴らしいです」

にこりと笑ってクリスは儀礼的に答えた。

「我が国の人間ももっと殿下を見習わさせて頂かないと」

思わず嫌味を言う。

「クリス。それはどういう意味だ」
後ろから思わずエドは声を荒げて言った。

「皆があなたほどできるというわけではないぞ。出来ていると言ってその自慢気な言葉。周りに対する配慮が足りないのではないか」

「これは失礼いたしました。配慮が足りませんでしたわ」
まずいと思ってクリスは謝罪する。

「いやいや私の配慮が足りませんでしたよ。皇太子殿下」
オーウェンがとりなして言う。

「マーマレードの青と金の宝石と言われるお二人が喧嘩されるなど私の言い方がまずかったですね。」

「そうですよ。オーウェン様」
場違いな遠慮のない声が響いた。他国の王族が話している腰を折るなどもっての外だった。

「エドワード様は私の馬鹿さが目立たないようにわざと点数を低くされたのです。」

「マティルダはクリスと違ってやさしいな」

皇太子はマティルダの礼儀知らずを注意せず一緒になって騒いでいた。

「えへへへ。それほどでも無いですよ」
マティルダはそう言うと上目遣いにエドを見て体を摺り寄せる。
王妃が見たら発狂したかもしれない。

「さあこんな野暮なところにいずに明日の衣装について考えよう」

「えええ!私なんかに用意して頂いて本当に良かったんですか」

「君の髪にぴったりの衣装に仕上がっていると思うよ」

ちらっとマティルダは勝ち誇った視線でクリスを見るとエドに手を引かれて出て行った。

衣装?衣装って何・・・・

婚約者がいるのに他の者の衣装を準備したというの?

クリスは呆然とした。

それって明日のサマーパーティは私と出ないという事?

今まではクリスのパートナーは必ずエドだった。

でもマティルダの衣装をエドが準備するという事はクリスとは参加しない。

クリスのエスコートはしない。

という事だった。

そもそも婚約者がいるのに他者の衣装を準備するなんて許されないことだった。

「ミハイル嬢。私が皇太子殿下の気分を害してしまったか。私が出来る事なら何でもやるが」

「いえ。ドラフォード殿下は気にされることは無いですわ。こちらこそ殿下に無礼を働いてしまって失礼致しました。」
公爵令嬢の無礼を身分の低い侯爵令嬢がいうわけにはいかず誤魔化して謝る。

「いや、そこは良いのですが、明日のサマーパーティに婚約者であるあなたと参加しな・・・いや失礼」

王子は慌てて否定しようとしたが周りの者にもエドワード皇太子の態度ははっきりと判っていた。

「すいません。少し気分が悪いので失礼します。」

「えっ、ミハイル令嬢大丈夫ですか」

そう心配するオーウェンに礼をしつつ下がる。

余裕を持った風に見せるために、ゆっくりとその場を去りながらクリスの心は木枯らしが吹き荒れていた。



終業式のホームルームにも出ず、クリスは寮監に気分が悪いと断って自分の部屋に帰った。

顔は真っ青だった。

いつものルーティン通りにとりあえず風呂に入る。

ここ数年、自分を殺して勉学に礼儀作法に、魔法鍛錬とこなしてきた。

特にお転婆な性格は未来の王妃にあるまじき事と言われ無理やり押し殺してきた。

エドの隣に立とうと必死に我慢してやってきた。

厳しい王妃の叱責にも耐えて、最近は何とか王妃にも気に入られたと思っていた。

なのに、マティルダのあの全然礼儀にかなっていない態度にエドは魅かれたのだ。

クリスが自分を殺して必死に頑張ってきたのに。

得意でない物理も必死に勉強した。

礼儀作法なんて全然だった。

侯爵家では天真爛漫なクリスの態度に誰も何も言わなかった。

自由気ままにやってきた。

王妃からは何度もダメ出しされてそれなのに、我慢して必死にやってきたのに、

あんなのが良いの・・・・じゃあ私のしてきたことは何。

思わず涙が漏れてきた。

どれだけ王妃にダメ出しされても歯を食いしばって必死に涙を耐えてきたのに。

泣くのなんて久しぶりだ。

「今まで必死にやってきたのに…」
涙はとめどもなく流れてきた。
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