魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

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13 最後の難関、娘が好きすぎて立ちはだかる父

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レグルスとキャサリンはクリスマス休暇にお互いの実家を訪問した。まず訪れたのはキャサリンの実家、ロバート家だ。まずは、簡単に済みそうなデイビー家からとも思ったのだが、そこはレグルスの父・アルタイルが『絶対にキャサリンさんの家に挨拶が先だ』とアドバイスし、服装も選んでくれた。

レグルスが着ているのは仕立てのいい水色のシャツ、紺色のセーターにグレーのズボン、まさしく好青年といった立ち姿である。『緑は着るな。要らぬ議論を生む。』と口を酸っぱくして言われた。ちなみにレグルスにとって緑はキャサリンの色なので、放っておくと緑を着がちである。

そして、キャサリンの父と仕事で付き合いのあるアルタイルは彼にとっても緑はキャサリンの色であることを把握していた。

「キャサリンさんと結婚を前提にしたお付き合いをさせていただいてます。今日はお義父さんとお義母さんに挨拶を…。」

「それってつまり、こ、こ、婚約の挨拶!?」

「はい、将来的にはキャサリンさんとけ……。」

「だめだ!!!!」

キャサリンの父、ヘンリー・ロバートは、誰もが想像していたと思うが、強硬に反対した。


「婚約しないと交流プログラムに行っちゃいけないなんて、そんな狭量な奴はキャサリンにふさわしくない!」

「確かに自分は狭量ですが、キャサリンさんをす、好きな気持ちは誰にも負けません!」

「キャサリンを一番に愛しているのは私だ!!」

とか。


「だいたい、まだ学園も卒業しないうちから婚約なんて早すぎる!」

「結婚は俺がしっかり働いて稼げるようになってからします!」

「パパとママだって学園を卒業してすぐに結婚したじゃない?」

「パパはママを世界で一番に愛しているから問題ないんだ!!」

「俺もキャサリンさんを……!」

「聞きたくない!!!!」

とか。


「あなた。二人はちゃんと自立してから結婚するって言ってるんだから、婚約ぐらいいいじゃない?私たちも婚約したのはあなたが六学年に上がる前だったわ。」

「まだ二人は五年生だ!」

「六学年に上がる前って五年生ってことよ?」

とか。


「大体、婚約するのに指輪も何も用意しなかったのか?そんな甲斐性のない男はキャサリンにふさわしくない!」

「私、別に指輪なんて…。」

「いえ、今家の手伝いで収入をもらっているので、婚約が認められたら二人で買いに行きます!あまり高価なものは買えませんが…。」

「レグルス…!私も半分出したい!それにお揃いがいい!」

「それは結婚指輪だ!!結婚はまだ早い!!」

「いえ、結婚したらそれとは別で……。」

「結婚なんてゆるさん!!!!」

とか。


結局、この日は許しがもらえなかった。

「レグルスくん、クリスマスにまた来れるかしら?家族だけのクリスマスパーティーをするからぜひ参加して。キャサリンの兄たちもくるし、この子の祖父も来るわ。」

「それいいかも。グランパも伯父さんたちも、絶対に反対しないから、きっと味方になってくれる。」

「必ず来ます。」


ちなみに、キャサリンとレグルスの両親の顔合わせはすんなりと終わった。レグルスの父、アルタイルはキャサリンに対してレグルスがクリスマスパーティーで暴言を吐いたのを覚えており、「本当にレグルスでいいのかい?」と何度も確認していた。

そして、キャサリンの父・ヘンリーの過激な娘愛ももちろん覚えており、「ヘンリー殿はやはりだめだといったのかい?仕事の時にもよくキャサリンさんの話をしている様子からも、一度では難しいと思っていたけどね…。」と困ったような顔をしていた。

キャサリンが経営を勉強しに国外の大学に行く話をすると、「卒業後はセドリック魔法商会に就職しないかい?」なんてリクルートするほどアルタイルは彼女を気に入っていた。



ー---



そしてロバート家の身内だけのクリスマスパーティーの当日。

この日もレグルスの父・アルタイルは彼の強い味方だった。『ロバート会長のお好きなワインだから』とレグルスにお土産のワインを持たせてくれたのだ。お高いワインを片手に、待ち合せていたキャサリンと合流して一緒にロバート商会の会長である彼女の祖父の家に向かった。

キャサリンは焦げ茶の地にタータンチェックのオシャレな厚手のコートを着ており、黒いショートブーツとコートの裾の間から除くのは赤いタイツだった。今朝この服装を見た彼女の父・ヘンリーは『かわいい』と褒めたたえてくれたが、母の『レグルスくんの色ね』という言葉に一瞬にして真顔になってしまったらしい。
ロバート家ではことあるごとにレグルスの名前が母と娘の間で出るのだが、その都度、ヘンリーは没交渉とばかりに無口になってしまうのだそうだ。


「前髪をあげてきたんだ?」

「それは…………、たまたまだよ。」

「ふうん?」

実は前回の訪問で彼女の母がこっそり、『キャサリンは前髪をあげている髪型のほうが好みだ』と教えてくれたのだ。心なしか、キャサリンも嬉しそうに見える。あげてきてよかった。

二人で話しながら目的地に到着し、中へ案内されると、何も知らなかったヘンリーが声をあげた。


「な、な、な、なんでお前がここにいるんだ!?」

「お義母さんにご招待いただきました。」

「お前は家族じゃないだろう!?」

「ヘンリー!うるさいぞ!」

少ししゃがれた声でヘンリーを叱責した主は晩餐の会場となる部屋で大きな椅子にゆったりと腰かけた白髪の多く混じる年を重ねた男性だった。
ロバート商会を立ち上げた人物であり、現在は会長として相談役をしているジェームス・ロバートその人である。

「キティの婚約者なんだろう?もう家族じゃないか。」

「まだ私は認めてません!」

「セドリックの後継のアルタイルの息子なんだって?」

ジェームスはヘンリーを無視してレグルスに話し始めた。

「はい。本日はお招きくださりありがとうございます。これは父からです。」

「ほっほー!これはいい品だ!早速、今日いただこうか…。君とキャサリンはもちろん飲んではいかんがね。」


ジェームスの孫たちの中ではキャサリンが一番年下であり、唯一成人していない。キャサリンには兄が二人おり、どちらも父のヘンリーとよく似た容姿をしていたが、幸いなことに全くシスコンではなかった。
ちなみにキャサリンは母似である。

「まさかキャサリンがこんなイケメンを連れてくるとは!」

「本当にうちのキャサリンをもらってくれるのかい?君ならもっと美人が選びたい放題だろう?」

ヘンリーが「結婚なんて認めない!」と騒ぐのに対して、「気にするな」「あの人はキャサリンに対してだけ残念なんだ」と励ましてくれた。


「ところで、レグルスは就職は決めてるのかい?」

「いえ、まだいろいろと考えているところです。」

「上級魔法科ならどんな魔法職でも問題ないだろうし、選択肢が多いと逆に悩むよな。」

「今日、ショーン兄さん来るんだっけ?俺たちの従兄で魔法騎士をしているんだ。上級魔法科の卒業生だから話を聞いてみるといいよ。」

レグルスがキャサリンの兄たちと話している間に、キャサリンは女性陣に捕まっていた。


「キャサリンが恋人を家族に紹介するなんてね!」

「家のために結婚しなさいって言ったらあんなに怒って嫌がってた子がね!」

「セドリック魔法商会長の一人息子なんですって!まあ及第点かしら。」

先ほど紹介を受けたヘンリーの兄や甥の妻たちである。

「でも、あなたが大学にいっている間に捨てられてしまうかもしれないわ。」

「魔法職に就く予定らしいし、収入も安定するでしょうから、卒業後はすぐに嫁入りした方がいいんじゃない?」

ぴーちくぱーちく騒ぐ女性たちにキャサリンの顔はひきつっていた。そういえば、以前キャサリンが結婚という言葉に過敏に反応して喧嘩になったことがあった。
もしかしたらこの女性たちのせいなのかもしれない。


「失礼します。キャサリンを返してもらってもいいですか?」

するりと間に入り彼女の肩を持つ。こういう時に自分がイケメンであることが役に立つ。女性たちはレグルスに対してどうぞどうぞとキャサリンを譲った。

「魔法騎士の従兄の人と話してみたいんだけど、紹介してくれよ。」

「ああ。ショーン兄さんね。あの人よ。………ありがとう。」

「……別にお前のためじゃない。」

他人の前だとすらすらとキャサリンへの愛の言葉が出てくるレグルスだが、本人を前にすると相変わらずひねくれたことを言ってしまう。



ー---



「認めない!」

「ヘンリー、キティに対して我儘を言うのはやめろ。アーサーの時はあっさり結婚を許したじゃないか。」

「息子と娘は違う!」

大人たちにお酒が進み始めたころ、ヘンリーの兄二人にキャサリンとの婚約をヘンリーが認めようとしないことを話すと喜んで説得に乗り出してくれた。

「レグルスはいい子じゃないか。キティが他国に行っても待ってるって言ってくれているんだろう?」

「本当に待ってるかどうかなんてわからない!」

「ヘンリー、じゃあ、キティが駆け落ちしてもいいのか?」

ヘンリーが驚いて兄二人を見た。

「か、駆け落ちだって!?なんだってそんな!?」

「このままお前が婚約を許さなくてもキティの性格からして諦めないだろう?となると駆け落ちだ。」

「成人すれば親の許可なく結婚できるしな。」

「二度と家には帰ってこないな。」

「永遠に会えなくなるぞ。」

兄二人の言葉に、ヘンリーの顔はみるみると青ざめていく。

「き、キティ!そんなことしないよな!?パパを捨ててこいつを取るなんて…!?」

「今はしない。」

キャサリンの言葉にヘンリーは露骨にほっとした。しかし、次の言葉で地獄に落とされる。

「でも、独り立ちしたときにまだパパがそんなならするかも。」

ヘンリーは声にならない悲鳴をあげてその場に崩れ落ちた。


二人の婚約に許可が出るのはその翌日のことである。

レグルスの家に電話してそのことを伝えてくれたキャサリンは、「すんなり認めてくれたらパパへの好感度もあがるのに。」とあきれたように言っていた。


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