魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
13 / 19

12 避けられない距離、つなぎとめたくて提案する絶対条件

しおりを挟む
レグルスはキャサリンと離れていることに一日しか耐えられなかった。


どうしてなのか、魔法学園にいるはずのキャサリンを一度も目にしなかった。まるで付き合う前の専科進学直後のような状態だ。歩み寄らなければ二人は会えないのだとレグルスは痛感した。

キャサリンは食事も女子寮の食堂で食べている様で、レグルスには全く会わなかった。

もちろん、レグルスはキャサリンの授業を把握しているので教室まで行けば会えるのだが、その日の最後の授業で耐えきれなくなって授業後に獣人の脚でキャサリンの教室まで走ったが、すでに彼女はいなかった。


朝食の時の比じゃないほどに萎れているレグルスの背をヨークは叩いた。

「空きコマで張り付くしかないだろうな。」

「そうだな…。明日の朝に頑張るよ。」

「でも、どうやって許してもらうんだ?留学は許すんだよな?」

本当はレグルスが許す許さないの問題ではなく、レグルスにはキャサリンとこのまま別れるか、留学することを許して付き合い続けるかの二拓しかない。

「…条件付きで。」

「おい、まだそんなこと言ってるのか?」

「条件を飲んでもらえないと許せそうにない…。」

「どんな条件だよ?」

「………キャサリンに最初に言う。」



ー---



翌朝、一時間目に授業があるキャサリンのいる教室にやってきた。中からは元気なキャサリンの友人の声がする。

「だめ、絶対に許しちゃだめよ、キャサリン。」

オリヴィア・マクレガーという貴族の女子である。キャサリンと同じ特進コースに在籍しており、レグルスも彼女と付き合い始めた直後に紹介された。黒い貴族然としたくるくるした巻き髪が記憶に残っている。

「俺と留学のどっちが大事?ですって?留学に決まってるじゃないの!そんな男、この先も何度だって同じことを言ってくるわ!絶対によりを戻しちゃだめよ!」

な…!あの女、なんてことを…!

「でも、私…、レグルスと別れたくない。」

切なさげなキャサリンの声にドキッとする。…そっか。別れたくないと思ってくれているんだ。と顔を赤らめる。

「じゃあ交流プログラムをあきらめる?」

「それは絶対無理。」

…あ、はい。

開きかけていた教室の扉をがらりと開けると思ったよりも大きな音が出た。ちらりとこちらを見たオリヴィアがただでさえ吊り上がっていた目をさらに吊り上げてこちらを睨みつけてきた。そして机をたたいて立ち上がる。

「あなた!どんな顔でキャサリンの前に出てきたのかしら!もう話すことなんて何もないのよ!帰りなさい!」

教室にいた全ての学生がレグルスの方を向き、キャサリンもこちらを振り返って目を丸くする。レグルスがあまりにも黒い隈をこしらえているのでぎょっとしたのだったが、レグルスは一日以上ぶりのキャサリンに内心は歓喜していた。
いや、落ち着け、ここからが大事なんだと盛り上がる心臓を意思の力で押さえつける。

「キャサリンに大事な話があるんだ。」

「交流プログラムへの参加を許すから、よりを戻してくれって謝りに来たの?」

「ち、違う!」

「違う!?それ以外にあなたに許される言葉なんてありません!帰りなさい!」

キャサリンの何倍もの剣幕で怒っているオリヴィアをなだめて座らせて、キャサリンが立ち上がった。

「話を聞いてくる。」

「だめ!またひどいことを言うかもしれないでしょ!」

「でも…。」

「どうしてもっていうなら今ここで話してもらいましょう!」

オリヴィアが「話せるものならね」と呟いてレグルスを睨みつけるが、毎度のことでレグルスの視界にはキャサリンしか入っていない。
獣人の脚ですぐに駆け寄るとその手を握りしめた。「ちょっと!」というオリヴィアの声は耳に入らなかったし、教室中からの注目も気にならなかった。


「キャサリン、昨日は………悪かった。ショックで…。でも、キャサリンの夢を応援してないわけじゃないんだ!」

素直にまず謝ったことにキャサリンは驚いていた。レグルスはどこまでも素直になれない口の持ち主だから。

「応援してくれると思ってたって言われて、しまったと思った。違うんだ!本当に、離れたくなかっただけで!」

「………でも、交流プログラムへの参加は反対なんでしょ?」

「………………賛成できない。」

オリヴィアの「なんですって!?」という声が響き、キャサリンも落胆のため息をついた。


「どうしても行くなら!一つ!約束してほしい!」

「約束?」

顔を赤らめて息を吸ったレグルスはその場に膝をついた。立ち上がっていたキャサリンを見下ろす形から見上げる形になる。


「お、俺と…………。」

たっぷりの間が空く。喧嘩してる時にこんなこと言っても受け入れられないかもしれない。一度断られているし。と否定的な考えが頭をぐるぐるする。

「レグルス?」

困ったようなキャサリンの顔を見て、この手を放したくないと決意する。物理的に距離が開いても、心の距離は開いていない、その証拠がほしい。
それがあれば、きっとレグルスも耐えられる。


「……………結婚してくれ!!」

「「「「「……え?」」」」」


周囲から驚いたような声が多数あがるが、レグルスは握ったキャサリンの手を自分の額に押し当ててまくしたてた。

「結婚してくれていないと耐えられない!!他の男に目をつけられたらどうするんだ!?俺のキャサリンはこんなに可愛いのに!!
そうじゃなくても、俺よりかっこいい男のところにふらふらと目移りしたらどうする!?う、うううう、浮気なんて!?せめて結婚して最低限の予防線を張っておかないと!!」

「れ、レグルス!落ち着いて!」

自分が平凡であるという自覚があるキャサリンはかあっと顔を赤くして恥ずかしい言葉をはきまくるレグルスを止めようとするが、彼はここぞとばかりに畳みかける。


「それに恋人じゃ優先順位が低すぎる!!帰国したら一番に俺に会いに来てくれないと!!実家に帰ってあの父親につかまって休暇が終わったらどうするんだ!?
恋人に会うための休暇は取りにくくても夫に会うための休暇は取りやすいだろう!?」

「ええ!?」

「それにプログラムに夢中になったら、キャサリンは俺への連絡を忘れるかもしれない!!いや、恋人のままじゃ絶対に忘れられる!!なんたって俺はべた惚れでキャサリンはちょいと惚れなんだから!!」

「ちょ、ちょいと惚れ!?」

「だめだ!!恋人のままじゃ絶対に行かせられない!!嫁に来てもいいし婿に行ってもいいからとりあえず結婚してくれ!!」


レグルスの怒涛のプロポーズに辺りは静まり返っていた。緊張したレグルスが顔をあげると、真っ赤になって手を握られているキャサリンも、どうしていいかわからずわなわなと震えていた。

そこで、教壇の方から咳払いがした。

「授業を始めたいが、いいかな?」


いつの間にか入室していた教師の声に我に返ったキャサリンは「も、問題ないです!」と言ってレグルスの手の中から自分の手を引き抜こうとしたが、固く握られていて太刀打ちができない。

「ちょっと、レグルス!」

「返事を聞くまで放さない!!!」

「確かに、それもそうだな。ロバートくんには後でレポートを課すから今日は欠席でよろしい。」

「え!?」



ー---



荷物を持って教室を出たキャサリンはレグルスに向き直った。

「あんなに大声で!恥ずかしい!もうこの授業受けられない!先生にも聞かれた!」

「な!結婚してくれないのか!?」

「そうは言ってない!!」

「してくれるのか!?!?」

「ままま、待って!!!」


がらりと教室の扉が開いて中から教師が「うるさいぞ」と声をかけるので二人は無言で教室の前から移動する。その間、レグルスはずっとキャサリンの手を握っていた。

人のいないところまで来るとレグルスはキャサリンの手を引いて向かい合うように立った。見るとキャサリンの顔は真っ赤になっている。

「キャサリン…。」

「結婚はまだ早い!!早いけど!!」

レグルスから見ると可愛いところしかないキャサリンは可愛さが倍増する上目遣いでレグルスを見上げた。

「婚約なら、いい。」

「……え?」

「婚約なら、いい。」

「こん、やく…。」

音の変換ができたレグルスは顔を輝かせ、喜びの叫び声をあげながら軽々とキャサリンを抱き上げてその場で回った。

「必ず幸せにする!!」

「ま、まだ結婚はしない!!」

「いずれは結婚するんだ!!」

しばらく黙ってレグルスに振り回されていたキャサリンだが、やがてレグルスの顔に手をあてて目を合わせた。


「…交流プログラム、応援してくれる?」

「もちろん。」

「…大学も?」

「ああ。」

「…ちゃんと会いに帰ってくるから。」

「帰ってこなくても会いに行くよ。」

レグルスはキャサリンの唇に何度かキスをした後に優しく床におろした。


「…次の休みにパパに会う?」

「…………最難関がまだあったな。」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんな目で見ないで。

春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。 勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。 そのくせ、キスをする時は情熱的だった。 司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。 それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。 ▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。 ▼全8話の短編連載 ▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

ヤンデレ、始められました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
ごくごく平凡な女性と、彼女に執着する騎士団副隊長の恋愛話。Rシーンは超あっさりです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

処理中です...