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10 大好きな彼女、証明したくて挑むスキンシップ
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もうすぐ夏季休暇となる期末試験終わり、二人は湖畔でピクニックデートをしていた。二人とも試験期間中は試験勉強に没頭していたため、恋人らしい逢瀬は久しぶりのことである。キャサリンは大学進学に向けて成績を落とすわけにはいかないし、レグルスも学年一位であり続けたいという意地があったからだ。
一月に付き合い始めた二人の交際期間は五か月といったところだが、デートでシートの上に並んで座る二人の間にはまだ二人分ぐらいの距離があった。
夏季休暇になるとキャサリンは父親の仕事に引っ付いて隣国のロマーノに行ってしまう。なかなか会えなくなる前に、この二人分の距離をどうしても縮めたいのが今のレグルスだ。
事の起こりは一月ほど前にさかのぼる。
ー---
「レグルス、また告白されたのか?」
休み時間に呼び出され、用件をきいて『またか』と断って教室に戻ってくると一部始終をじーっと見ていたヨークとマーリンに声をかけられた。
「最近、また増えてきたわね。」
「俺にはキャサリンっていう恋人がいるのに、なんでこんなに声がかかるのか、意味が分からない。」
「でも、正直めちゃくちゃかわいい子も来てるじゃない?ぐらっと来たりしない?」
「何言ってるんだ、キャサリンが一番かわいいだろう?」
「あーはいはい。本人がいないと本当に惚気るわよね。」
「ロバートの前では名前を呼ぶだけで照れてるのにな。」
事実なので何も言い返せないが、それでもむっとしながらレグルスは学年一のモテ女でもあるマーリンに向き直る。
「お前も一時期告白ラッシュだったじゃないか?どうやって減らしたんだ?最近は全くないだろう?」
「『追われるより追いたいの』、って言ってるから。」
マーリンがなまめかしい仕草でドヤ顔を見せつけてくる。
「俺は恋人がいるのになんでみんな遠慮しないんだ?」
レグルスは心底わからないという顔で腕を組んで体を背もたれに預ける。ヨークとマーリンが顔を見合わせて「どっちが言う?」「そっちが言って?」とけん制し合った後に、ヨークが口を開いた。
「ロバートは、可愛くない。」
「……あ゛?」
いつもより一オクターブ低い声が出た。肉食系獣人の鋭い眼光がヨークを射抜く。正確には熊は雑食だが。普通の学生ならビビって何も言えなくなるところだが、ヨークは気にせずに続けてきた。
「お前も昔、言ってたじゃないか。『平凡女』って。ブスだとは言わないが。容姿に関しては普通なんだ。それが学年一番のイケメンと付き合ってるだなんて、女子はみんな『私の方がイケてるはず!』と思ってお前をあきらめないんだよ。」
「キャサリンも容姿にはあまり気を使ってないタイプだしね。なお勝てそうに見えるのよ。」
マーリンは「それに」と続ける。
「あなたたち、あんまり人前でラブラブしてないし。」
「ラブ…!?!?」
「そうだな。いちゃいちゃしてないから関係がさめてきてるのかもと思われてる。」
「いいいい……!?!?!?」
レグルスは思わず机をたたいて立ち上がった。
「そ、そんなことできるわけないだろ!!不純異性交遊だ!!」
教室中の視線がレグルスに集まる。ヨークがまあまあ落ち着けと座らせる。
「何も人前で乳繰り合えとは言ってない。」
「ちち…!?」
レグルスの顔が真っ赤になった。
「手をつないで歩くぐらいでいいのよ。まあ、あなたたちは手をつないだこともまだなさそうだけど。」
図星である。
「いい、見て、左端に座っている上級生の男女二人。」
次の授業は選択制の授業であるため同級生のみならず、上級生も混じっている。マーリンに示されたところに座るのは青いネクタイをした五年生と思われる男女だ。二人は並んで着席し、近すぎる距離で何かをささやき合って笑いあっている。
「あれがみんなが思うところの仲睦まじい恋人の距離感よ。あんなに好き好きしあってる恋人がいる人にアタックしてみようと思う?」
その後の授業の間、レグルスはひたすらにそのカップルを観察した。イケメンの熱視線に気づいた彼女が顔を赤らめて何か誤解をし、そのカップルはぎくしゃくし始めることになるのだが、レグルスは気にしなかった。
俺もキャサリンとい…いちゃいちゃしたい…。その思いが頭をぐるぐると回り続けていた。
ー---
「レグルス?どうしたの?」
押し黙るレグルスに疑問に思ったキャサリンがその顔を覗き込む。名前を呼ばれて胸がときめく。ちなみにレグルスがいまだに名前呼びに耐性がないのはキャサリンに名前を呼ばれる機会がそんなにないからでもある。
案外、名前を呼ばなくても会話はできるものだ。もともと二人は”お前”と”あんた”の喧嘩腰スタイルで会話していることも多いし。
「キャ…キャサリン。その、夏季休暇に入るとしばらく会えないだろう?」
「うん。でも一か月ぐらいでロマーノから帰ってくるし、その後はまた首都でデートしよう?お店めぐりしてもいいし、あんたの好きなとこ行ってもいいし。」
当然のようにまた会う計画を立ててくれるし、当然のようにデートと言ってくれるし、大丈夫、い、いちゃいちゃしたいっていうお願いも、きっと大丈夫…、多分。
レグルスはいちゃいちゃしたいと言ってキャサリンに嫌われることを警戒していた。素直にその話をマーリンやヨークに相談したのだが、「問題ない」「無理なら別れるしかない」と取り合ってもらえなかった。
「あ、会えなくなる前に…、その、あの…。」
レグルスの声がしりすぼみに小さくなっていく。ひたすら葛藤しているレグルスはキャサリンが勘違いのないようにしっかり内容を聞こうと、ゼロ距離近くまで寄ってきていることに気づかなかった。
「あのな…!……っつ!!!」
思い切って顔をあげると目の前に大好きなキャサリンの顔があり、声にならない悲鳴をあげた。
「どどどどどどうしてこんな近くにいるんだ!!」
「え?なんかあんたの声がどんどん小さくなっていくから、また聞き間違えて大声で恥ずかしいこと叫ばれるような事態にならないようにちゃんと聞こうと…。嫌だった?ごめん。」
キャサリンが少ししょんぼりして離れていこうとするのを思わずがしっと引き留める。
「いいいいいいい、嫌じゃない!!」
「うるさい。」
「…ごめん。」
「で?」
「ん?」
「会えなくなる前に、何?」
キャサリンは真剣な顔をしている。実際、キャサリンはレグルスの様子に告白された時を思い出していた。何かすごいことを言おうとしている。あの時は告白からプロポーズまでされた。
プロポーズに匹敵するすごいこと、一体何を言おうとしているのか。まさか、別れ話?最近、五年生のマドンナに告白されたって聞いたし。
キャサリンはまだレグルスの照れ隠しを完全理解できていなかった。
「その……………。」
レグルスは階段から落ちたキャサリンを助けた時以来の距離の近さにどぎまぎしていた。でも、手をつないだりハグをしたりしたいと言うなら今しかないと思える距離感でもあった。
「お前と…その………、い、いちゃいちゃしたいんだ。」
「イチャイチャ…?」
言葉を理解するのに数十秒を要したが、とたんにキャサリンの顔がカッと赤くなった。
「い、今!?外で!?れ、レグルス、それはね、結婚を誓うほどの仲の男女がするものよ!?別れ話じゃなくてよかったけれど!」
深刻な話であると覚悟していた彼女はもっと大人のイチャイチャをしたいという意味に勘違いしていたが、そこのすれ違いにレグルスは気づかず、後半の別れ話の方に引っかかった。
「別れ話…!?なんでそんな…!?するわけないじゃないか!!俺はこんなにも……、す…、絶対に別れないからな!!」
レグルスがまだキャサリンのことを告白時と変わらないぐらいに好きだということはキャサリンも理解できた。
「そう!それはよかった!でもイチャイチャはまだ早い!」
キャサリンの宣言に露骨に落ち込んだレグルスは彼女を近距離に引き留めていた手を放して体を少し離した。
「……ごめん。」
二人の間には重い沈黙が横たわる。
「…………わかった。」
顔を真っ赤にして決心したらしいキャサリンがレグルスの両手を自分の方につかんで引き寄せた。え、いちゃいちゃはダメなんじゃ?と驚いてキャサリンの顔を見ると見たことないほどに赤く染まっていた。
「イチャイチャはまだ早いけど、キスならいい。」
「………え?」
「イチャイチャはまだ早いけど、キスならいい。」
「………………え?」
顔は赤いがキャサリンは真剣である。レグルスは手をつなぎたいだけだったところがキスにまで飛躍してついていけない。
キスってあれだよな…、唇をくっつけるあれ。なななな、なんであれはよくていちゃいちゃはダメなんだ?
「…イチャイチャしたかったけど、キスはしたくなかったってこと?」
返事をしないレグルスにキャサリンはいぶかし気な顔になる。顔の赤みも引いて行っており、目つきも軽蔑するような鋭いものになったものだからレグルスは慌てる。
「もちろんしたい!!でも、それはいちゃいちゃの後だろう!?」
「どう考えてもイチャイチャの前でしょう!これは常識!!」
「なんでハグの前にキスなんだ!?手をつないで、ハグをして、それからキスだろう!?」
「………え?」
今回、先にすれ違いに気づいたのはキャサリンだった。
「待って、いちゃいちゃって、ハグのこと?」
「………それと手をつないで歩きたい。」
「それだけ?」
キャサリンは自分の勘違いに気づき、顔を両手で覆って耳まで真っ赤にして天を仰いだ。顔を覆う手の下からくぐもった声で「それはキスの前で全然問題ないね…」と呟くのが聞こえた。しおらしく手を降ろすと赤くなった顔のままレグルスの前に正座する。
「ごめん、勘違いしてた。」
「一体、何を勘違いして……。」
「そこは考えないで!!忘れて!!ハグしよう!ハグ!!」
そう言ってキャサリンはレグルスの首に腕を回すと、ぎゅっとしがみついてきた。レグルスはそれまでの会話を一度すっかり忘れて恐る恐るキャサリンの背中に手を回した。
キャサリンの髪のにおいを胸いっぱいに吸い込み、細い体をぎこちなく支える。ちょっと物足りなくて、胡坐をかいた脚の間にキャサリンが座るように体を持ちあげて移動させた。
これが本当のゼロ距離である。
しばらくそうしていたが、やがて落ち着いたキャサリンが腕を緩めて赤みの引いてきた顔をレグルスに見せた。逆に時間が経つにつれてキャサリンの誤解を完全に理解したレグルスは赤い顔をしている。
まあ、キャサリンの前でレグルスの顔が赤いのは珍しいことではない。
「……キスもしたい。」
勇気を振り絞ったレグルスの言葉にキャサリンが小さく頷くのを確認して、レグルスは彼女に唇を寄せた。
一月に付き合い始めた二人の交際期間は五か月といったところだが、デートでシートの上に並んで座る二人の間にはまだ二人分ぐらいの距離があった。
夏季休暇になるとキャサリンは父親の仕事に引っ付いて隣国のロマーノに行ってしまう。なかなか会えなくなる前に、この二人分の距離をどうしても縮めたいのが今のレグルスだ。
事の起こりは一月ほど前にさかのぼる。
ー---
「レグルス、また告白されたのか?」
休み時間に呼び出され、用件をきいて『またか』と断って教室に戻ってくると一部始終をじーっと見ていたヨークとマーリンに声をかけられた。
「最近、また増えてきたわね。」
「俺にはキャサリンっていう恋人がいるのに、なんでこんなに声がかかるのか、意味が分からない。」
「でも、正直めちゃくちゃかわいい子も来てるじゃない?ぐらっと来たりしない?」
「何言ってるんだ、キャサリンが一番かわいいだろう?」
「あーはいはい。本人がいないと本当に惚気るわよね。」
「ロバートの前では名前を呼ぶだけで照れてるのにな。」
事実なので何も言い返せないが、それでもむっとしながらレグルスは学年一のモテ女でもあるマーリンに向き直る。
「お前も一時期告白ラッシュだったじゃないか?どうやって減らしたんだ?最近は全くないだろう?」
「『追われるより追いたいの』、って言ってるから。」
マーリンがなまめかしい仕草でドヤ顔を見せつけてくる。
「俺は恋人がいるのになんでみんな遠慮しないんだ?」
レグルスは心底わからないという顔で腕を組んで体を背もたれに預ける。ヨークとマーリンが顔を見合わせて「どっちが言う?」「そっちが言って?」とけん制し合った後に、ヨークが口を開いた。
「ロバートは、可愛くない。」
「……あ゛?」
いつもより一オクターブ低い声が出た。肉食系獣人の鋭い眼光がヨークを射抜く。正確には熊は雑食だが。普通の学生ならビビって何も言えなくなるところだが、ヨークは気にせずに続けてきた。
「お前も昔、言ってたじゃないか。『平凡女』って。ブスだとは言わないが。容姿に関しては普通なんだ。それが学年一番のイケメンと付き合ってるだなんて、女子はみんな『私の方がイケてるはず!』と思ってお前をあきらめないんだよ。」
「キャサリンも容姿にはあまり気を使ってないタイプだしね。なお勝てそうに見えるのよ。」
マーリンは「それに」と続ける。
「あなたたち、あんまり人前でラブラブしてないし。」
「ラブ…!?!?」
「そうだな。いちゃいちゃしてないから関係がさめてきてるのかもと思われてる。」
「いいいい……!?!?!?」
レグルスは思わず机をたたいて立ち上がった。
「そ、そんなことできるわけないだろ!!不純異性交遊だ!!」
教室中の視線がレグルスに集まる。ヨークがまあまあ落ち着けと座らせる。
「何も人前で乳繰り合えとは言ってない。」
「ちち…!?」
レグルスの顔が真っ赤になった。
「手をつないで歩くぐらいでいいのよ。まあ、あなたたちは手をつないだこともまだなさそうだけど。」
図星である。
「いい、見て、左端に座っている上級生の男女二人。」
次の授業は選択制の授業であるため同級生のみならず、上級生も混じっている。マーリンに示されたところに座るのは青いネクタイをした五年生と思われる男女だ。二人は並んで着席し、近すぎる距離で何かをささやき合って笑いあっている。
「あれがみんなが思うところの仲睦まじい恋人の距離感よ。あんなに好き好きしあってる恋人がいる人にアタックしてみようと思う?」
その後の授業の間、レグルスはひたすらにそのカップルを観察した。イケメンの熱視線に気づいた彼女が顔を赤らめて何か誤解をし、そのカップルはぎくしゃくし始めることになるのだが、レグルスは気にしなかった。
俺もキャサリンとい…いちゃいちゃしたい…。その思いが頭をぐるぐると回り続けていた。
ー---
「レグルス?どうしたの?」
押し黙るレグルスに疑問に思ったキャサリンがその顔を覗き込む。名前を呼ばれて胸がときめく。ちなみにレグルスがいまだに名前呼びに耐性がないのはキャサリンに名前を呼ばれる機会がそんなにないからでもある。
案外、名前を呼ばなくても会話はできるものだ。もともと二人は”お前”と”あんた”の喧嘩腰スタイルで会話していることも多いし。
「キャ…キャサリン。その、夏季休暇に入るとしばらく会えないだろう?」
「うん。でも一か月ぐらいでロマーノから帰ってくるし、その後はまた首都でデートしよう?お店めぐりしてもいいし、あんたの好きなとこ行ってもいいし。」
当然のようにまた会う計画を立ててくれるし、当然のようにデートと言ってくれるし、大丈夫、い、いちゃいちゃしたいっていうお願いも、きっと大丈夫…、多分。
レグルスはいちゃいちゃしたいと言ってキャサリンに嫌われることを警戒していた。素直にその話をマーリンやヨークに相談したのだが、「問題ない」「無理なら別れるしかない」と取り合ってもらえなかった。
「あ、会えなくなる前に…、その、あの…。」
レグルスの声がしりすぼみに小さくなっていく。ひたすら葛藤しているレグルスはキャサリンが勘違いのないようにしっかり内容を聞こうと、ゼロ距離近くまで寄ってきていることに気づかなかった。
「あのな…!……っつ!!!」
思い切って顔をあげると目の前に大好きなキャサリンの顔があり、声にならない悲鳴をあげた。
「どどどどどどうしてこんな近くにいるんだ!!」
「え?なんかあんたの声がどんどん小さくなっていくから、また聞き間違えて大声で恥ずかしいこと叫ばれるような事態にならないようにちゃんと聞こうと…。嫌だった?ごめん。」
キャサリンが少ししょんぼりして離れていこうとするのを思わずがしっと引き留める。
「いいいいいいい、嫌じゃない!!」
「うるさい。」
「…ごめん。」
「で?」
「ん?」
「会えなくなる前に、何?」
キャサリンは真剣な顔をしている。実際、キャサリンはレグルスの様子に告白された時を思い出していた。何かすごいことを言おうとしている。あの時は告白からプロポーズまでされた。
プロポーズに匹敵するすごいこと、一体何を言おうとしているのか。まさか、別れ話?最近、五年生のマドンナに告白されたって聞いたし。
キャサリンはまだレグルスの照れ隠しを完全理解できていなかった。
「その……………。」
レグルスは階段から落ちたキャサリンを助けた時以来の距離の近さにどぎまぎしていた。でも、手をつないだりハグをしたりしたいと言うなら今しかないと思える距離感でもあった。
「お前と…その………、い、いちゃいちゃしたいんだ。」
「イチャイチャ…?」
言葉を理解するのに数十秒を要したが、とたんにキャサリンの顔がカッと赤くなった。
「い、今!?外で!?れ、レグルス、それはね、結婚を誓うほどの仲の男女がするものよ!?別れ話じゃなくてよかったけれど!」
深刻な話であると覚悟していた彼女はもっと大人のイチャイチャをしたいという意味に勘違いしていたが、そこのすれ違いにレグルスは気づかず、後半の別れ話の方に引っかかった。
「別れ話…!?なんでそんな…!?するわけないじゃないか!!俺はこんなにも……、す…、絶対に別れないからな!!」
レグルスがまだキャサリンのことを告白時と変わらないぐらいに好きだということはキャサリンも理解できた。
「そう!それはよかった!でもイチャイチャはまだ早い!」
キャサリンの宣言に露骨に落ち込んだレグルスは彼女を近距離に引き留めていた手を放して体を少し離した。
「……ごめん。」
二人の間には重い沈黙が横たわる。
「…………わかった。」
顔を真っ赤にして決心したらしいキャサリンがレグルスの両手を自分の方につかんで引き寄せた。え、いちゃいちゃはダメなんじゃ?と驚いてキャサリンの顔を見ると見たことないほどに赤く染まっていた。
「イチャイチャはまだ早いけど、キスならいい。」
「………え?」
「イチャイチャはまだ早いけど、キスならいい。」
「………………え?」
顔は赤いがキャサリンは真剣である。レグルスは手をつなぎたいだけだったところがキスにまで飛躍してついていけない。
キスってあれだよな…、唇をくっつけるあれ。なななな、なんであれはよくていちゃいちゃはダメなんだ?
「…イチャイチャしたかったけど、キスはしたくなかったってこと?」
返事をしないレグルスにキャサリンはいぶかし気な顔になる。顔の赤みも引いて行っており、目つきも軽蔑するような鋭いものになったものだからレグルスは慌てる。
「もちろんしたい!!でも、それはいちゃいちゃの後だろう!?」
「どう考えてもイチャイチャの前でしょう!これは常識!!」
「なんでハグの前にキスなんだ!?手をつないで、ハグをして、それからキスだろう!?」
「………え?」
今回、先にすれ違いに気づいたのはキャサリンだった。
「待って、いちゃいちゃって、ハグのこと?」
「………それと手をつないで歩きたい。」
「それだけ?」
キャサリンは自分の勘違いに気づき、顔を両手で覆って耳まで真っ赤にして天を仰いだ。顔を覆う手の下からくぐもった声で「それはキスの前で全然問題ないね…」と呟くのが聞こえた。しおらしく手を降ろすと赤くなった顔のままレグルスの前に正座する。
「ごめん、勘違いしてた。」
「一体、何を勘違いして……。」
「そこは考えないで!!忘れて!!ハグしよう!ハグ!!」
そう言ってキャサリンはレグルスの首に腕を回すと、ぎゅっとしがみついてきた。レグルスはそれまでの会話を一度すっかり忘れて恐る恐るキャサリンの背中に手を回した。
キャサリンの髪のにおいを胸いっぱいに吸い込み、細い体をぎこちなく支える。ちょっと物足りなくて、胡坐をかいた脚の間にキャサリンが座るように体を持ちあげて移動させた。
これが本当のゼロ距離である。
しばらくそうしていたが、やがて落ち着いたキャサリンが腕を緩めて赤みの引いてきた顔をレグルスに見せた。逆に時間が経つにつれてキャサリンの誤解を完全に理解したレグルスは赤い顔をしている。
まあ、キャサリンの前でレグルスの顔が赤いのは珍しいことではない。
「……キスもしたい。」
勇気を振り絞ったレグルスの言葉にキャサリンが小さく頷くのを確認して、レグルスは彼女に唇を寄せた。
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