魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

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6 変化する日常、決意して挑む告白

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魔法学園では一年から三年までが共通課程なのに対して、四年生から六年生までは専門課程となり自分の興味のある専科に進学して勉強をすることになる。
それまでにあったクラス制度もなくなり、同じ授業がなければ専科のちがう学生とは全く会えない生活を送ることとなる。

四年生となり上級魔法科に進学したレグルスも恋する相手であるキャサリンに会えない日々を送っていた。

「重苦しいため息ばっかりついちゃって、学年一と噂のイケメンが台無しよ。」

クリスマス休暇にセドリック魔法商会のパーティーでキャサリンと会えることを期待したレグルスだったが、今年はキャサリンの両親だけが来て、キャサリンは来なかった。さらに、彼女の父親はしっかりと去年のことを覚えていて睨まれた。そのため、レグルスは重苦しい気持ちで新年を迎えていた。

「その辛気臭い顔が『憂いを帯びてて素敵』なんていわれてモテるんだから、意味わからないわよね、ヨーク。」

そう言うのは同じく上級魔法科に進学したキャサリンのルームメイトのマーリンだ。クルクルの赤毛は背中の中ほどまで伸び、琥珀色の瞳が面白そうにレグルスを見ている。

「ロバートにもう四か月もまともに会えていないことがショックらしい。うざいよな。」

そう返すのは魔法科に進学したレグルスのルームメイトのヨークだ。上級魔法科と魔法科は必修単位が異なるが、受けられる授業は同じだ。実際、ヨークは上級魔法科へは進学できなかったが、魔法警察への就職を目指して上級魔法科の必修科目を履修している。

ちなみにもう一人のルームメイトであるウルは医療科に進学していた。元々は魔法科志望だったが、医療の道に心惹かれて決断をくだしていた。


「キャサリンは普通科だもの。魔法科とは全くクラスがあわないって進学前からわかってたじゃないの。そんなに落ち込むなら早くにキャサリンに告白して恋人になってもらうべきだったのよ。」

三年生になると、周りにはぼちぼちとカップルが誕生し始めていた。すぐ別れたカップルもあれば、異なる専科に進んだ後も仲良くしているカップルもある。

素敵な恋人がほしい女子たちに、レグルスは大人気だった。成長するにつれてぐんぐんと背は伸びており、すでに学年では一番か二番に背が高かった。父ほどではないが筋肉もついてきたし、美人な母に似た顔立ちもは学年一と呼び声が高い。つまりは、かっこよくなっていた。貴族、獣人、平民、年上、年下、毎日のように告白されていたが、レグルスの眼中に彼女たちはいない。


ちなみに女子の一番人気は目の前にいるマーリンである。発育の良い出るところが出たメリハリボディは思春期の男子たちを釘付けにしている。しかし、それでもレグルスの眼中には入れない。


「ロバートに会いたい…。昔みたいに一緒にご飯を食べたり、出かけたり、勉強したりしたい…。」

レグルスの口から願望が漏れ出る。「え、レグルスとキャサリン、そんなことしてたかしら?」「二人きりは一回もないと思うけど。」なんて外野の声は気にしない。
目を閉じればまぶたの裏にはキャサリンの姿が浮かぶ。彼女のことを思い出さない日は一日もなかった。

「レグルス、そんなに会いたいなら、やっぱり告白しなさいよ。好きなんでしょ?」

「受け入れてくれると思うか?」

「さあね。でも、言わないと始まらないわよ。だって、1ミリも意識されてないでしょ、今のところ。」

素直じゃなさすぎるレグルスのアプローチは全くキャサリンに届いていなかった。周りはみんな気づいているのに、キャサリンだけ気づかないところを見ると、キャサリンも相当鈍い。
直接的な言葉が必要だろうとマーリンはふんでいた。


「レグルス、俺もそう思う。これまでのアプローチじゃ全く通じてないんだ。誤解しようがないほど端的に伝えた方がいい。」

ヨークもレグルスの背中を後押しする。もういい加減、ため息に付き合わされるのもつらい。

「告白すれば、毎日のように会えるようになるかもしれないぞ?」

レグルスは「でも…。」とぐずぐずし続けた。しかし、「失敗しても何度でも告白すればいいじゃない!」「こんなことしている間にロバートが誰かに告白されるかも。」という投げやりな二人の説得をうけ続け、ついに決心した。ちなみにこの説得は四か月も前から定期的に続いている。

レグルスはもうこれ以上キャサリンに会えないことは耐えられなかった。

「今からこ、告白してくる!」



ー---



レグルスは魔法学園を走り回ってキャサリンを探した。小一時間ほど走り回って、ようやく意中の相手の背中を見つけた。彼女のオリーブブラウンの髪と、一分一秒が惜しいとばかりにきびきび歩く姿をレグルスが見間違うはずがなかった。

これから彼女に伝えることを考えて、レグルスの緊張が一気に高まる。


「おい、ロバート!」

彼女の頭がピクリとして不機嫌そうに振り返る。

「何よ、クマ男。」

久しぶりすぎる『クマ男』にレグルスの内心は歓喜していたが、努めて真面目な顔を崩さずに、恋人になったらクマ男はやめてほしいという意味でキャサリンに文句を言った。

「おまっ、そのクマ男って呼び名いい加減にやめろよな。」

「じゃあなんて呼べばいいのよ。」

「な、名前でいいだろう…、名前で。」

キャサリンは心底不思議そうな顔になってレグルスを見てくる。

「はあ?あんたが『おまえなんかに俺の名前を呼ぶ資格はない!』って言ったんじゃない?いつの間にか私が資格をとったってわけ?」

キャサリンは過去にレグルスと繰り返してきた小さな喧嘩の記憶から、彼に対して意味もなく喧嘩腰になってしまう。常に喧嘩腰であったレグルスの自業自得である。そして、意中の彼女の態度に告白しに来たはずのレグルスも思わずムキになってしまう。
もう魔法学園に入学してから何万回と繰り返した残念な返しが以下である。

「お、おまえがそんな資格、取れるわけないだろう!」

今年度も彼の呼び名は『クマ男』のままとなってしまうのか。内心、またやってしまったと焦りながらレグルスは彼女の隣を歩く理由を探し、また、すぐに告白に移れないヘタレな気持ちにもおされて、視線をさまよわせていたが、やがて彼女の手の中にある重たそうな資料たちに目を止める。

「……その資料、運ぶの手伝おうか?」

「一人で持てる。それより、何の用なのよ。」

「え?」

「呼び止めたでしょう?私、忙しいんだけど。ブルックとマーリンを待たせてるから。」

レグルスは先ほどの決心を思い出してごくりと唾を飲む。入学当初はほぼ同じ背丈だったが、今は自分よりも20センチほど下にある彼女の顔を見た。入学したその日から気になる存在だった彼女と新しい関係に踏み出すのだ。
断られたら関係が悪い方に転ぶかもしれない、という不安が急に襲ってくるが、レグルスは拳を強く握りしめて男を見せる。


「お、おまえ…。」

「何?」

「俺……………。」


俺の後、たっぷりの間をとって、レグルスは緊張しながら彼女に告げた。



「………付き合えよ。」

正直、男は見せ切れていない。シチュエーションによっては告白とは受け取れないような言葉選びで、キャサリンも考えるような顔になる。しかし、レグルスの脳内はついに告白をしたと大荒れだった。

い、言ってしまった!しかも付き合えよって命令口調になってしまった!本当は『お試しでもいいから俺と恋人として付き合ってほしい』と下手に下手に告げるつもりだったのに!
こ、断られるか?だめだ!絶対にオッケーしてくれ!

レグルスは祈るような気持ちで彼女の顔を見つめた。そんなレグルスの葛藤などわからない彼女の方は、やがて簡潔に答えた。


「わかった。」

「わ、わかった?」

わかったって、イエスなのか!?ノーなのか!?

「いいってことか?」

「うん。」

イエスの返事をもらえたと思ったレグルスはそれまでのひどくまじめな顔を辞めて、跳びあがらんばかりに喜んだ。積年の思いが実り、彼女と恋人になることができたのだ。
彼女の方もしょうがないわね、みたいな顔をしている。


「で、どこに行くの?」

「え?」

もうデートの予定を決めてくれるなんてなんて積極的なんだ!しかし、魔法学園から簡単に出かけられる場所と言えば最寄りの街しかない。学園のカップルたちのデートと言えばもっぱらそこだ。

「そ、そんなの、学園の外の商店街に決まってるだろ。」

「ふうん。じゃあ、日曜?街の入り口で待ち合わせすればいい?」

「いや、待て、学園から一緒に行く!正門で待ち合わせだ!」

「どこ行くの?結構運動する?」

「う、運動?普通の…………街に行くだけだ。」

デートで運動ってどういうことだ?キャサリンは流行りに詳しい…、まさか、最近のデートでは運動をすることが普通なのか!?

「じゃあ普通の格好でいいのね。何時?」

「え…えっと…10時待ち合わせだ!一日空けておけ!」

レグルスはデートの約束を取り付けたつもりで意気揚々とその場を去った。


マーリンとブルックと食堂で合流したキャサリンは、「今週末、クマ男と街まで出かけることになった。なんか手伝ってほしいことがあるみたい。」と言っていて、彼女たちは察した。レグルスが中途半端な告白をしてすれ違いが起きていることを。熱心に脳内でレグルスに語り掛け続けたが…。

その念はデート当日までレグルスに届くことはなかった。



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