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5 意外な一面、気付いてほしくて空回る言動
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レグルスは気づいた。キャサリンに対して自分が向ける感情が恋であるということに。
あの後、大事にしたくないというキャサリンの意見を受けて、カルベット家の女たちは空き教室掃除の罰則を一週間やらされることで片が付いた。
もちろん、レグルスの気持ちはそれでは片が付かず、自然とカルベット家の女たちとは距離を取ることになった。
キャサリンが結婚するという噂は引き起こしたレグルス自身がより大きな噂で書き換えてしまい、すっかり噂されなくなった。書き換えた噂、というのはもちろん、『キャサリン・ロバートはレグルス・デイビーの女である』というものである。
キャサリンが毎度、レグルスが落ち込むほどに噂を否定するので、やがて噂はされなくなっていった。
そうしてレグルスは三年生に進学した。二人の関係は変わっていない。…残念なほどに。
レグルスからのアプローチめいたものは増えた。
「お、おおおおおおい、ロバート。きょ、今日は食堂でと、特別なケーキが出るぞ。(だから一緒に食べに行かないか?)」
「こ、今度の属性魔法の実技試験、お前大丈夫なのか?上手くできないと、補習だぞ。(俺が教えてやってもいいけれど。)」
「きょ、今日の数学の宿題、難しくないか。一人で全部やるのは、その、大変だよな?(俺と一緒に宿題をやらないか?)」
それらを全てキャサリンはスルーした。
「そうなの?マーリンとブルックとあとで行ってくる。」
「ああ、昨日土魔法の先生に見てもらったから、大丈夫だと思う。」
「できるところまでやって提出してくれればいいって先生言ってたよ。」
思いが通じないとカチンと来てしまうレグルスはここで声をあらげてしまう。そして素直にもなれない。
「そうじゃない!!なんでお前はわからないんだ!!俺が……!!あー!!」
「なんでそんな簡単に先生に手間をかけるんだ!俺…、得意な学生に聞けばいいだろう!!」
「俺がそんな中途半端なことするわけないだろう!だから…!!!いー!!」
時には友人たちからの助太刀も入る。
(マーリン)「レグルスってば、キャサリンと一緒にケーキ食べたいんじゃんなあい??」
(ウル)「そういえばレグルスは実技でも首席だね。ロバート、教えてもらったら?」
(ブルック)「私、キャサリンから数学を習うけど、レグルスも来る?」
しかし、レグルスはせっかくの助太刀も自分からぶち壊すほどに素直になれない男だった。
「な…!!お、俺がこんな平凡女とケーキを食べたいはずないじゃないか!!」
「お、お前が頭下げて頼むなら教えてやらなくもないぞ!!」
「学年首席の俺が他人に教えてもらう必要なんてない!!!」
そうして決まって「わあああ!!」と走り去っていくレグルスに、「あのクマ男、もはや病気よね」とキャサリンは気にすることもなかった。
ー---
その年のクリスマスのことだ。キャサリンが商会で働くことを目指していると知ったレグルスはセドリック魔法商会の会長をしている父の仕事を見学し、商会の仕事がなんなのか勉強するようになった。
将来について考えるのは良いことだ、と父であるアルタイル・デイビーも学園の長期休暇にはレグルスを仕事に連れて行ってくれた。
クリスマスイブである今日はセドリック魔法商会でお得意様を呼んだクリスマスパーティーを開いていた。
伸びる身長にあわせて新しく仕立てた緑がかった暗い色のスーツは母にも似あうと太鼓判を押された流行の品だ。こげ茶の髪は前髪をあげてオシャレにセットされている。
父と母の隣で挨拶に来る人々に応対していると、皆がそろってレグルスを「御父上にそっくりですね」「まだまだ背も伸びるのでしょうね」「魔法学園でも成績も優秀だとか」と口々にほめたたえる。
レグルスと同じく焦げ茶に赤い瞳である父だが、その体躯はレグルスよりも二回りは大きい。身長はおそらく2メートルを超えている。背も高ければ筋骨隆々で肩幅も広い、典型的な熊獣人の男、それが父のアルタイルなのだ。
一方のレグルスはまもなく15歳となるが、背はぐんぐんと伸び始めているが肩幅は父には遠く及ばなかった。母の血が濃く出れば、筋肉はあまりつかないかもしれない。
「アルタイル殿、本日はお招きくださりありがとうございます。妻はもうご存知でしたね。こちらは末娘のキャサリンです。」
キャサリンの名前を聞いてはっと顔をあげると、そこにいたのはオリーブブラウンの髪を編み込んで髪飾りを飾り、普段はしない華やかな化粧をした可愛らしい女性だった。
ひざ下のAラインの水色のドレスは歩くたびに優雅に裾が揺れ、細い足と水色のヒールがのぞく。襟が詰まっており露出は少ないが袖は同じ色のシースルーになっており、思わずレグルスはドキドキしてしまった。
「初めまして。キャサリン・ロバートです。」
「初めまして。いつもヘンリー殿から可愛らしい末の娘さんのお話は聞いていますよ。家の息子と同じくらいの年かと思うのだけれど…。」
と父は呆けている息子を振り返った。
「レグルス?」
レグルスは目をまん丸に見開いてキャサリンを見つめて押し黙っていた。「どうしたんだろう?」「実はクラスメイトなんです」なんていう会話が二人の間に展開されているが、レグルスは全く聞いていなかった。やがて不思議に思ったキャサリンに声をかけられるまで。
「レグルスくん、元気だった?魔法学園ぶりね。」
”レグルスくん”という普段は言われていない呼び名が頭の中でリフレインする。こいつ、俺の名前知ってたんだ。いつもクマ男って呼ぶくせに。
「レグルスくん?」
こてんと首を傾げる姿が可愛らしい、が、そうじゃなくて。
「お、おおおおおお前、いつもはそんな風に俺のこと呼ばないじゃないか!?びょ、病気か!?そ、そそそそれにその格好はどうしたんだ!?」
キャサリンの心を代弁しよう。ああ、めんどくさい。父の仕事相手の心証を損ねないようにするには、なんと返すのが正解か。
焦ったように返事をしたのはキャサリンではなく父のアルタイルだった。
「レグルス!急にどうしたんだ?キャサリン嬢に失礼だろう!」
父の巨体で叱責されると並みの人物なら怖いだろうが、例のごとくキャサリンしか眼中にないレグルスには響かない。
「気にしないでください、アルタイルさん。レグルスくんはいつもこうなので、私、慣れています。」
「「なんだって!?」」
驚きの声は別の方向からも上がった。レグルスも思わず目をむけるとそこにいたのは洗練された装いの同性であるレグルスから見てもかっこいい男性だった。
しかし、今は目を見開いてレグルスを見て、わなわなと震えている。
「私の大切なキティになんという暴言を!!お、お前だなんて!!キティの可愛さがわからないのか!!この丸い顔と小さな鼻を見ろ!!今日は化粧もしていて普段とは違う可愛らしさだ!!もちろん私の大切なキティは普段から可愛い!!」
洗練された姿が台無しになるようなセリフを吐きながら、男性はキャサリンを抱き寄せてレグルスを睨みつける。
「お父さん。ちょっと…。」
「な…!お父さんだなんてそんな!!いつも通りパパと呼んでくれ!!」
キャサリンは困ったような顔で父と呼んだ男性を見上げてため息をつき、レグルスを見た。キャサリンへの恋心をこじらせているレグルスは彼女の父親に怒られた衝撃で、挽回せねばと気がせいてしまう。
「こ、これは…!お義父さんでしたか!初めまして!レグルス・デイビーと申します。キャサリンさんとはクラスメイトで同じ冒険クラブにも所属しています!」
「き、君の”お父さん”は良くない気がする!私のことは絶対にお父さんと呼ばないでくれ!しかも娘をファーストネームで呼ぶだなんて!」
「パパ。いつもは苗字か”お前”って呼ばれているから、今日だけよ。」
「かわいいキティが”お前”だなんて許されない!!」
「も、申し訳ありません!今日からはキティと呼びます!!」
「キティだって!?家の娘を嫁に取るつもりか!?」
「は、はい!!ありがとうございます!!」
「私はそんなこと絶対にみとめなーい!!!!!!」
キャサリンの父が大声で騒ぐのをデイビー夫妻を含めた周りの人々は何もできずに見つめていた。一方、男性の腕の中のキャサリンとキャサリンによく似た隣に立つ女性は慣れたことなのかため息をつくと顔をあげた。
「パパ。」
「あなた。」
「ん?なんだい?」
「「消えて。」」
妻と娘に咎められたその人は生気を失って、灰になって散っていった。
ー---
「うちのパパがごめんなさい。私のことを異様に可愛がってるから。でも、あんたも親の仕事の関係者の前で私のことお前とか呼ぶなんて、パパに誤解しろって言ってるようなものなんだから、気を付けてよね。」
キャサリンの父がキャサリンの母に回収された後、ここからは大人の話と挨拶の輪から外されたレグルスは、キャサリンと料理を食べていた。母の意味深なウインクがレグルスの気持ちなどお見通しであることを示していた。
「お前、家ではキティって呼ばれてるんだな…。」
「家族だけね。」
俺もキティって呼びたい、と口まで出かかったが、キャサリンとも呼べないのにキティはハードルが高かった。
一方の、キャサリンはレグルスの方を、特にレグルスの顔の方をじろじろと眺めてきて、思わず顔を赤らめる。
「な、なんだよ?」
「今日、オシャレでかっこいいじゃん、と思って。」
え、これって脈あり…?
「…そのスーツ、流行りのスタイルよね。ロバート商会がブルテンから輸入したやつ。」
なんだよ、服装の話かよ。そうだった、そういえば俺はこいつの『好みじゃない』んだった。
どうすればこいつに俺の思いを気づいてもらえる?告白か?…………いや、とても恥ずかしくてできそうにない。
かっこいいと言われて期待してしまったレグルスは同じ言葉をキャサリンにかけることにした。
「きょ、今日は……、その、お前も……………。」
たっぷりの間を取った後、出てきた言葉は理想からは程遠かった。
「…………悪くない。」
今日もキャサリンにレグルスの思いは伝わらない。
あの後、大事にしたくないというキャサリンの意見を受けて、カルベット家の女たちは空き教室掃除の罰則を一週間やらされることで片が付いた。
もちろん、レグルスの気持ちはそれでは片が付かず、自然とカルベット家の女たちとは距離を取ることになった。
キャサリンが結婚するという噂は引き起こしたレグルス自身がより大きな噂で書き換えてしまい、すっかり噂されなくなった。書き換えた噂、というのはもちろん、『キャサリン・ロバートはレグルス・デイビーの女である』というものである。
キャサリンが毎度、レグルスが落ち込むほどに噂を否定するので、やがて噂はされなくなっていった。
そうしてレグルスは三年生に進学した。二人の関係は変わっていない。…残念なほどに。
レグルスからのアプローチめいたものは増えた。
「お、おおおおおおい、ロバート。きょ、今日は食堂でと、特別なケーキが出るぞ。(だから一緒に食べに行かないか?)」
「こ、今度の属性魔法の実技試験、お前大丈夫なのか?上手くできないと、補習だぞ。(俺が教えてやってもいいけれど。)」
「きょ、今日の数学の宿題、難しくないか。一人で全部やるのは、その、大変だよな?(俺と一緒に宿題をやらないか?)」
それらを全てキャサリンはスルーした。
「そうなの?マーリンとブルックとあとで行ってくる。」
「ああ、昨日土魔法の先生に見てもらったから、大丈夫だと思う。」
「できるところまでやって提出してくれればいいって先生言ってたよ。」
思いが通じないとカチンと来てしまうレグルスはここで声をあらげてしまう。そして素直にもなれない。
「そうじゃない!!なんでお前はわからないんだ!!俺が……!!あー!!」
「なんでそんな簡単に先生に手間をかけるんだ!俺…、得意な学生に聞けばいいだろう!!」
「俺がそんな中途半端なことするわけないだろう!だから…!!!いー!!」
時には友人たちからの助太刀も入る。
(マーリン)「レグルスってば、キャサリンと一緒にケーキ食べたいんじゃんなあい??」
(ウル)「そういえばレグルスは実技でも首席だね。ロバート、教えてもらったら?」
(ブルック)「私、キャサリンから数学を習うけど、レグルスも来る?」
しかし、レグルスはせっかくの助太刀も自分からぶち壊すほどに素直になれない男だった。
「な…!!お、俺がこんな平凡女とケーキを食べたいはずないじゃないか!!」
「お、お前が頭下げて頼むなら教えてやらなくもないぞ!!」
「学年首席の俺が他人に教えてもらう必要なんてない!!!」
そうして決まって「わあああ!!」と走り去っていくレグルスに、「あのクマ男、もはや病気よね」とキャサリンは気にすることもなかった。
ー---
その年のクリスマスのことだ。キャサリンが商会で働くことを目指していると知ったレグルスはセドリック魔法商会の会長をしている父の仕事を見学し、商会の仕事がなんなのか勉強するようになった。
将来について考えるのは良いことだ、と父であるアルタイル・デイビーも学園の長期休暇にはレグルスを仕事に連れて行ってくれた。
クリスマスイブである今日はセドリック魔法商会でお得意様を呼んだクリスマスパーティーを開いていた。
伸びる身長にあわせて新しく仕立てた緑がかった暗い色のスーツは母にも似あうと太鼓判を押された流行の品だ。こげ茶の髪は前髪をあげてオシャレにセットされている。
父と母の隣で挨拶に来る人々に応対していると、皆がそろってレグルスを「御父上にそっくりですね」「まだまだ背も伸びるのでしょうね」「魔法学園でも成績も優秀だとか」と口々にほめたたえる。
レグルスと同じく焦げ茶に赤い瞳である父だが、その体躯はレグルスよりも二回りは大きい。身長はおそらく2メートルを超えている。背も高ければ筋骨隆々で肩幅も広い、典型的な熊獣人の男、それが父のアルタイルなのだ。
一方のレグルスはまもなく15歳となるが、背はぐんぐんと伸び始めているが肩幅は父には遠く及ばなかった。母の血が濃く出れば、筋肉はあまりつかないかもしれない。
「アルタイル殿、本日はお招きくださりありがとうございます。妻はもうご存知でしたね。こちらは末娘のキャサリンです。」
キャサリンの名前を聞いてはっと顔をあげると、そこにいたのはオリーブブラウンの髪を編み込んで髪飾りを飾り、普段はしない華やかな化粧をした可愛らしい女性だった。
ひざ下のAラインの水色のドレスは歩くたびに優雅に裾が揺れ、細い足と水色のヒールがのぞく。襟が詰まっており露出は少ないが袖は同じ色のシースルーになっており、思わずレグルスはドキドキしてしまった。
「初めまして。キャサリン・ロバートです。」
「初めまして。いつもヘンリー殿から可愛らしい末の娘さんのお話は聞いていますよ。家の息子と同じくらいの年かと思うのだけれど…。」
と父は呆けている息子を振り返った。
「レグルス?」
レグルスは目をまん丸に見開いてキャサリンを見つめて押し黙っていた。「どうしたんだろう?」「実はクラスメイトなんです」なんていう会話が二人の間に展開されているが、レグルスは全く聞いていなかった。やがて不思議に思ったキャサリンに声をかけられるまで。
「レグルスくん、元気だった?魔法学園ぶりね。」
”レグルスくん”という普段は言われていない呼び名が頭の中でリフレインする。こいつ、俺の名前知ってたんだ。いつもクマ男って呼ぶくせに。
「レグルスくん?」
こてんと首を傾げる姿が可愛らしい、が、そうじゃなくて。
「お、おおおおおお前、いつもはそんな風に俺のこと呼ばないじゃないか!?びょ、病気か!?そ、そそそそれにその格好はどうしたんだ!?」
キャサリンの心を代弁しよう。ああ、めんどくさい。父の仕事相手の心証を損ねないようにするには、なんと返すのが正解か。
焦ったように返事をしたのはキャサリンではなく父のアルタイルだった。
「レグルス!急にどうしたんだ?キャサリン嬢に失礼だろう!」
父の巨体で叱責されると並みの人物なら怖いだろうが、例のごとくキャサリンしか眼中にないレグルスには響かない。
「気にしないでください、アルタイルさん。レグルスくんはいつもこうなので、私、慣れています。」
「「なんだって!?」」
驚きの声は別の方向からも上がった。レグルスも思わず目をむけるとそこにいたのは洗練された装いの同性であるレグルスから見てもかっこいい男性だった。
しかし、今は目を見開いてレグルスを見て、わなわなと震えている。
「私の大切なキティになんという暴言を!!お、お前だなんて!!キティの可愛さがわからないのか!!この丸い顔と小さな鼻を見ろ!!今日は化粧もしていて普段とは違う可愛らしさだ!!もちろん私の大切なキティは普段から可愛い!!」
洗練された姿が台無しになるようなセリフを吐きながら、男性はキャサリンを抱き寄せてレグルスを睨みつける。
「お父さん。ちょっと…。」
「な…!お父さんだなんてそんな!!いつも通りパパと呼んでくれ!!」
キャサリンは困ったような顔で父と呼んだ男性を見上げてため息をつき、レグルスを見た。キャサリンへの恋心をこじらせているレグルスは彼女の父親に怒られた衝撃で、挽回せねばと気がせいてしまう。
「こ、これは…!お義父さんでしたか!初めまして!レグルス・デイビーと申します。キャサリンさんとはクラスメイトで同じ冒険クラブにも所属しています!」
「き、君の”お父さん”は良くない気がする!私のことは絶対にお父さんと呼ばないでくれ!しかも娘をファーストネームで呼ぶだなんて!」
「パパ。いつもは苗字か”お前”って呼ばれているから、今日だけよ。」
「かわいいキティが”お前”だなんて許されない!!」
「も、申し訳ありません!今日からはキティと呼びます!!」
「キティだって!?家の娘を嫁に取るつもりか!?」
「は、はい!!ありがとうございます!!」
「私はそんなこと絶対にみとめなーい!!!!!!」
キャサリンの父が大声で騒ぐのをデイビー夫妻を含めた周りの人々は何もできずに見つめていた。一方、男性の腕の中のキャサリンとキャサリンによく似た隣に立つ女性は慣れたことなのかため息をつくと顔をあげた。
「パパ。」
「あなた。」
「ん?なんだい?」
「「消えて。」」
妻と娘に咎められたその人は生気を失って、灰になって散っていった。
ー---
「うちのパパがごめんなさい。私のことを異様に可愛がってるから。でも、あんたも親の仕事の関係者の前で私のことお前とか呼ぶなんて、パパに誤解しろって言ってるようなものなんだから、気を付けてよね。」
キャサリンの父がキャサリンの母に回収された後、ここからは大人の話と挨拶の輪から外されたレグルスは、キャサリンと料理を食べていた。母の意味深なウインクがレグルスの気持ちなどお見通しであることを示していた。
「お前、家ではキティって呼ばれてるんだな…。」
「家族だけね。」
俺もキティって呼びたい、と口まで出かかったが、キャサリンとも呼べないのにキティはハードルが高かった。
一方の、キャサリンはレグルスの方を、特にレグルスの顔の方をじろじろと眺めてきて、思わず顔を赤らめる。
「な、なんだよ?」
「今日、オシャレでかっこいいじゃん、と思って。」
え、これって脈あり…?
「…そのスーツ、流行りのスタイルよね。ロバート商会がブルテンから輸入したやつ。」
なんだよ、服装の話かよ。そうだった、そういえば俺はこいつの『好みじゃない』んだった。
どうすればこいつに俺の思いを気づいてもらえる?告白か?…………いや、とても恥ずかしくてできそうにない。
かっこいいと言われて期待してしまったレグルスは同じ言葉をキャサリンにかけることにした。
「きょ、今日は……、その、お前も……………。」
たっぷりの間を取った後、出てきた言葉は理想からは程遠かった。
「…………悪くない。」
今日もキャサリンにレグルスの思いは伝わらない。
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