魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
6 / 19

5 意外な一面、気付いてほしくて空回る言動

しおりを挟む
レグルスは気づいた。キャサリンに対して自分が向ける感情が恋であるということに。


あの後、大事にしたくないというキャサリンの意見を受けて、カルベット家の女たちは空き教室掃除の罰則を一週間やらされることで片が付いた。
もちろん、レグルスの気持ちはそれでは片が付かず、自然とカルベット家の女たちとは距離を取ることになった。

キャサリンが結婚するという噂は引き起こしたレグルス自身がより大きな噂で書き換えてしまい、すっかり噂されなくなった。書き換えた噂、というのはもちろん、『キャサリン・ロバートはレグルス・デイビーの女である』というものである。
キャサリンが毎度、レグルスが落ち込むほどに噂を否定するので、やがて噂はされなくなっていった。


そうしてレグルスは三年生に進学した。二人の関係は変わっていない。…残念なほどに。

レグルスからのアプローチめいたものは増えた。


「お、おおおおおおい、ロバート。きょ、今日は食堂でと、特別なケーキが出るぞ。(だから一緒に食べに行かないか?)」

「こ、今度の属性魔法の実技試験、お前大丈夫なのか?上手くできないと、補習だぞ。(俺が教えてやってもいいけれど。)」

「きょ、今日の数学の宿題、難しくないか。一人で全部やるのは、その、大変だよな?(俺と一緒に宿題をやらないか?)」


それらを全てキャサリンはスルーした。

「そうなの?マーリンとブルックとあとで行ってくる。」

「ああ、昨日土魔法の先生に見てもらったから、大丈夫だと思う。」

「できるところまでやって提出してくれればいいって先生言ってたよ。」


思いが通じないとカチンと来てしまうレグルスはここで声をあらげてしまう。そして素直にもなれない。

「そうじゃない!!なんでお前はわからないんだ!!俺が……!!あー!!」

「なんでそんな簡単に先生に手間をかけるんだ!俺…、得意な学生に聞けばいいだろう!!」

「俺がそんな中途半端なことするわけないだろう!だから…!!!いー!!」


時には友人たちからの助太刀も入る。

(マーリン)「レグルスってば、キャサリンと一緒にケーキ食べたいんじゃんなあい??」

(ウル)「そういえばレグルスは実技でも首席だね。ロバート、教えてもらったら?」

(ブルック)「私、キャサリンから数学を習うけど、レグルスも来る?」


しかし、レグルスはせっかくの助太刀も自分からぶち壊すほどに素直になれない男だった。

「な…!!お、俺がこんな平凡女とケーキを食べたいはずないじゃないか!!」

「お、お前が頭下げて頼むなら教えてやらなくもないぞ!!」

「学年首席の俺が他人に教えてもらう必要なんてない!!!」


そうして決まって「わあああ!!」と走り去っていくレグルスに、「あのクマ男、もはや病気よね」とキャサリンは気にすることもなかった。



ー---


その年のクリスマスのことだ。キャサリンが商会で働くことを目指していると知ったレグルスはセドリック魔法商会の会長をしている父の仕事を見学し、商会の仕事がなんなのか勉強するようになった。
将来について考えるのは良いことだ、と父であるアルタイル・デイビーも学園の長期休暇にはレグルスを仕事に連れて行ってくれた。

クリスマスイブである今日はセドリック魔法商会でお得意様を呼んだクリスマスパーティーを開いていた。


伸びる身長にあわせて新しく仕立てた緑がかった暗い色のスーツは母にも似あうと太鼓判を押された流行の品だ。こげ茶の髪は前髪をあげてオシャレにセットされている。
父と母の隣で挨拶に来る人々に応対していると、皆がそろってレグルスを「御父上にそっくりですね」「まだまだ背も伸びるのでしょうね」「魔法学園でも成績も優秀だとか」と口々にほめたたえる。

レグルスと同じく焦げ茶に赤い瞳である父だが、その体躯はレグルスよりも二回りは大きい。身長はおそらく2メートルを超えている。背も高ければ筋骨隆々で肩幅も広い、典型的な熊獣人の男、それが父のアルタイルなのだ。
一方のレグルスはまもなく15歳となるが、背はぐんぐんと伸び始めているが肩幅は父には遠く及ばなかった。母の血が濃く出れば、筋肉はあまりつかないかもしれない。


「アルタイル殿、本日はお招きくださりありがとうございます。妻はもうご存知でしたね。こちらは末娘のキャサリンです。」

キャサリンの名前を聞いてはっと顔をあげると、そこにいたのはオリーブブラウンの髪を編み込んで髪飾りを飾り、普段はしない華やかな化粧をした可愛らしい女性だった。
ひざ下のAラインの水色のドレスは歩くたびに優雅に裾が揺れ、細い足と水色のヒールがのぞく。襟が詰まっており露出は少ないが袖は同じ色のシースルーになっており、思わずレグルスはドキドキしてしまった。

「初めまして。キャサリン・ロバートです。」

「初めまして。いつもヘンリー殿から可愛らしい末の娘さんのお話は聞いていますよ。家の息子と同じくらいの年かと思うのだけれど…。」

と父は呆けている息子を振り返った。

「レグルス?」

レグルスは目をまん丸に見開いてキャサリンを見つめて押し黙っていた。「どうしたんだろう?」「実はクラスメイトなんです」なんていう会話が二人の間に展開されているが、レグルスは全く聞いていなかった。やがて不思議に思ったキャサリンに声をかけられるまで。

、元気だった?魔法学園ぶりね。」

”レグルスくん”という普段は言われていない呼び名が頭の中でリフレインする。こいつ、俺の名前知ってたんだ。いつもクマ男って呼ぶくせに。

?」

こてんと首を傾げる姿が可愛らしい、が、そうじゃなくて。


「お、おおおおおお前、いつもはそんな風に俺のこと呼ばないじゃないか!?びょ、病気か!?そ、そそそそれにその格好はどうしたんだ!?」

キャサリンの心を代弁しよう。ああ、めんどくさい。父の仕事相手の心証を損ねないようにするには、なんと返すのが正解か。
焦ったように返事をしたのはキャサリンではなく父のアルタイルだった。

「レグルス!急にどうしたんだ?キャサリン嬢に失礼だろう!」

父の巨体で叱責されると並みの人物なら怖いだろうが、例のごとくキャサリンしか眼中にないレグルスには響かない。

「気にしないでください、アルタイルさん。はいつもこうなので、私、慣れています。」

「「なんだって!?」」

驚きの声は別の方向からも上がった。レグルスも思わず目をむけるとそこにいたのは洗練された装いの同性であるレグルスから見てもかっこいい男性だった。
しかし、今は目を見開いてレグルスを見て、わなわなと震えている。


「私の大切なになんという暴言を!!お、お前だなんて!!の可愛さがわからないのか!!この丸い顔と小さな鼻を見ろ!!今日は化粧もしていて普段とは違う可愛らしさだ!!もちろん私の大切なは普段から可愛い!!」

洗練された姿が台無しになるようなセリフを吐きながら、男性はキャサリンを抱き寄せてレグルスを睨みつける。

。ちょっと…。」

「な…!お父さんだなんてそんな!!いつも通りパパと呼んでくれ!!」

キャサリンは困ったような顔で父と呼んだ男性を見上げてため息をつき、レグルスを見た。キャサリンへの恋心をこじらせているレグルスは彼女の父親に怒られた衝撃で、挽回せねばと気がせいてしまう。

「こ、これは…!でしたか!初めまして!レグルス・デイビーと申します。とはクラスメイトで同じ冒険クラブにも所属しています!」

「き、君の”お父さん”は良くない気がする!私のことは絶対にお父さんと呼ばないでくれ!しかも娘をファーストネームで呼ぶだなんて!」

「パパ。いつもは苗字か”お前”って呼ばれているから、今日だけよ。」

「かわいいが”お前”だなんて許されない!!」

「も、申し訳ありません!今日からはと呼びます!!」

だって!?家の娘を嫁に取るつもりか!?」

「は、はい!!ありがとうございます!!」

「私はそんなこと絶対にみとめなーい!!!!!!」

キャサリンの父が大声で騒ぐのをデイビー夫妻を含めた周りの人々は何もできずに見つめていた。一方、男性の腕の中のキャサリンとキャサリンによく似た隣に立つ女性は慣れたことなのかため息をつくと顔をあげた。


「パパ。」

「あなた。」

「ん?なんだい?」

「「消えて。」」


妻と娘に咎められたその人は生気を失って、灰になって散っていった。



ー---



「うちのパパがごめんなさい。私のことを異様に可愛がってるから。でも、あんたも親の仕事の関係者の前で私のことお前とか呼ぶなんて、パパに誤解しろって言ってるようなものなんだから、気を付けてよね。」

キャサリンの父がキャサリンの母に回収された後、ここからは大人の話と挨拶の輪から外されたレグルスは、キャサリンと料理を食べていた。母の意味深なウインクがレグルスの気持ちなどお見通しであることを示していた。


「お前、家ではキティって呼ばれてるんだな…。」

「家族だけね。」

俺もキティって呼びたい、と口まで出かかったが、キャサリンとも呼べないのにキティはハードルが高かった。
一方の、キャサリンはレグルスの方を、特にレグルスの顔の方をじろじろと眺めてきて、思わず顔を赤らめる。

「な、なんだよ?」

「今日、オシャレでかっこいいじゃん、と思って。」

え、これって脈あり…?

「…そのスーツ、流行りのスタイルよね。ロバート商会がブルテンから輸入したやつ。」

なんだよ、服装の話かよ。そうだった、そういえば俺はこいつの『好みじゃない』んだった。


どうすればこいつに俺の思いを気づいてもらえる?告白か?…………いや、とても恥ずかしくてできそうにない。

かっこいいと言われて期待してしまったレグルスは同じ言葉をキャサリンにかけることにした。


「きょ、今日は……、その、お前も……………。」

たっぷりの間を取った後、出てきた言葉は理想からは程遠かった。


「…………悪くない。」

今日もキャサリンにレグルスの思いは伝わらない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

処理中です...