わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第5章 17歳の愛し子

13 舞踏会場にて

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マルシャローズも唖然としてアリシラローズとソラのダンスを見ていた。あの素晴らしいステップは息がぴったりとあっていないと出せない。二人の夫婦仲の良さを見せつけられているようでぎりりと歯ぎしりした。拍手はしてやらなかったが、マルシャローズ以外のすべての人、給仕の使用人や演奏家までもが拍手をしていた。

興奮冷めやらぬ会場を落ち着かせるように、国王陛下からのお言葉が与えられる合図があった。これはマルシャローズが前々からお願いしていたものだ。ついにこの時が来たか、とにんまりする。


「皆に大聖女様よりお言葉がある。」

マルシャローズは紹介を受けてなるべくおごそかに立ち上がり、大聖女にのみ許される”大聖女の礼”をすると良く響く声で宣言した。


「このような歓迎の場にご招待いただき、光栄に思います。この場には不似合いなことと存じますが、とある者の罪をこの場で告発させていただきたいのです。」



ー---


ヒューゴは大使夫妻の優雅なダンスに片目を奪われていたが、片目はしっかりとクリスをとらえていた。会場の反対側にいたクリスが王女殿下に話しかけられて会場を出ていくのをしっかりと見ていた。

「団長、王女殿下がクリスを連れてどこかへ向かっています。あとを追います。」

「ああ、頼んだ。」

小声でそう言うと、感動の冷めやらない会場を静かに横切ってクリスを追った。ヒューゴが会場を出る直前にはマルシャローズが『罪を告発する』なんて物騒なことを言っているのが不穏で嫌な予感がした。


そして、その嫌な予感は加速する。

すぐに追いかけて会場外に出たはずなのに、クリスも王女殿下も完全に見失っていたのだ。



ー---


国王陛下は露骨に迷惑そうな顔をしているが、マルシャローズは無視を決め込んだ。

「先日、ほんの三日前のことですが、私が個人的な外出をした際に賊による襲撃を受けました。」

マルシャローズの告白に周囲はざわめく。国防の要である大聖女が襲撃を受けるなど、恐ろしい事態だ。

「事態は白騎士たちによってすぐにおさめられ、幸いにもけが人もいませんでしたが、捕らえられた賊からたどり、その首謀者が判明しました。」

もったいぶって周囲を見回すと、一体何を言う気なんだろうというような顔で見守られている。先ほどのアリシラローズとソラのダンスでうっとうしいほどに会場でキラキラしていた精霊がほとんどいなくなっていることが気にかかるが、精霊ごとき計画には何の支障もないだろう。


「それは私の妹にしてそこにいる大使夫人であるアリシラローズだったのです。」


場は静まり返った。

ここでマルシャローズにとっての誤算が起きている。貴族たちからの非難の目をアリシラローズに向けさせたかったのだが、大半の貴族たちが『それは狙われても仕方がない』『散々いじめぬいていたじゃないか』とアリシラローズを擁護し、『賢いアリシラローズ様がマルシャローズ様に暴けるようなずさんな計画を立てるかしら』と疑惑の目をマルシャローズに向けていたのだ。

「お恥ずかしい話ではありますが、私と妹のアリシラローズの仲は決して良いものではありませんでした。ご存知の通り、私はルロワ家の青い瞳を受け継ぎ大聖女としての使命を負って生まれてきましたが、アリシラローズは見ての通りの赤毛に緑の目。家に課せられた役目を果たせない負い目から私に対しても辛くあたっていました。
それを今回戻ってきて、思い出したのでしょう。厳罰は望みませんが、大聖女に敵意を向けるというのはあってはならないことです。公平な裁きを願います。証拠となった証言はこちらにまとめています。」

控えていた白騎士が持っていた書類の入った封筒を国王陛下へと献上する。

「とらえた賊もいつでも引き渡しが可能ですわ。」


マルシャローズの告発の後、皆がかたずをのんで国王陛下を見守っている。そういえば、いつも生意気な目で見てくる第一王女のコンスタンスがこの場にはいない。私の話があることは事前に知らされていたはずなのに、どこにいったのか。

国王陛下は嫌そうにため息をつくと、アリシラローズを振り返った。

「何か申し開きはあるか?クジョー夫人。」

「やっておりません。」

アリシラローズは静かに、されどはっきりとした声で否定した。その姿勢は自信があり、潔白だと強く表現していた。それは常にアリシラローズから譲られてきたマルシャローズとしては意外な姿である。アリシラローズはいつからかマルシャローズの機嫌を損ねず、逆らわないように動くようになり、その姿しか今や記憶にはない。

「ここには確かにあなたがやったという証拠があるのよ?」

「どうせ捏造でしょう。残念ながら、姉がそういうことをしても私は驚きません。」

「な…!あなた、この国の大聖女を馬鹿にするだなんて罪が増えるだけよ!」

「問題ありません。私の無実は、夫が証明してくれます。」

アリシラローズがソラを振り返り、ソラは心底不機嫌な顔を隠さずに進み出てきた。妻であるアリシラローズの不始末に憤っているようにも見える。彼女は相変わらず自分にとって良いように物事をとらえる天才だった。

「ソラ殿…、この度は私の妹でもあるアリシラローズの不始末、私からも重ねてお詫びをさせていただきたいわ。今回のことが両国の関係にひびをいれることにならないといいのだけれ……。」

「うるさい。」

信じられないような美しい顔で怒りを隠さずにマルシャローズを睨みつけてくるソラの姿に、思わず言葉を飲み込んでしまった。彼は不機嫌を隠しもしない。そんな顔で見られたことはマルシャローズのこれまでの人生で一度もなかった。お前に価値などないただの雑魚だと言われているような目だった。


「なぜ俺のローズがお前に負い目を感じなければならない。お前はローズの姉であり、一族を代表して妹たちに代わって役目を果たすのは当然のことだろう?もしここにいるのが妹のクリスローズ嬢であったならその言い分にも納得できるが。」

「それは…。アリシラローズは私のためにあなたに嫁ぐことになったので…。」

「お前が護衛の騎士を抱き込んで妊娠してローズの嫁入り先を奪ったんだろう?すべて聞いている。それで恨んでいると?ローズがまだ昔の婚約者に心を残してるとでも言うのか?」

ソラが目に見えてさらに不機嫌になった。アリシラローズに対しては不敬だと怒ったマルシャローズだったが、その何倍も不敬な言葉を吐くソラのことを責めることができない。むしろ怖くて少し震えていた。


「我が国を下に見ているともとれるし、両国の関係にひびを入れているのはそちらだな。」

「しかし、アリシラローズが罪を犯したのは事実です!」

「そんな事実はない。」

ソラは異国語で何かを呼びかけると、彼の隣にさっと全身を黒い東洋の装束で包んだ人物が現れた。顔を隠しているため性別もよくわからないが恐らく男性だろう。ソラに封筒を手渡した後、さっと音もたてずに姿を消した。
手渡された封筒をソラは国王陛下に手渡した。

「俺の手下に大聖女の部屋を見張らせていた。俺のローズに危害を加える危険があったからな。そこで三日前にあったという襲撃の数日前から大聖女の手下の白騎士が家人に金を持たせて賊のアジトを訪ねているのを確認した。その証人はは国王陛下に渡したリストの人物を調べてもらえれば誰かしら見つかるだろう。」

言われたことにマルシャローズは目を丸くした。

「そのような証人…!いくらでも捏造できますわ…!」

「同じ言葉をそのまま返そう。お前が提出したような証拠だって、いくらでも捏造できる。一応問題の家人も捕まえておいた。大聖女様が引き渡してくださる賊に顔合わせをさせればいいだろう。そこにいる白騎士と家人のつながりを証言してくれる者もいるだろうし。」

そうして異国語で声をかけてまたどこからか縄で拘束された男性を連れてきて国王陛下の前に転がした。近衛騎士が慌ててその男を国王陛下の前から移動させていく。

「白騎士の独断ならいいけれど。」

アリシラローズがぼそっと呟いた言葉はマルシャローズにも届いた。

「アリシラ、あなた、私が自分で自作自演したと言いたいの?」

アリシラローズにけなされることに我慢ができないマルシャローズは思わず声を荒げるが、ソラの鋭い視線に封じ込められた。


「調べればすぐにわかるさ。わからない方が幸運だろうがな。」




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