わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第5章 17歳の愛し子

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正式に入場して紹介を受けたソラとアリシラローズ夫妻はひっきりなしに貴族たちからの挨拶を受けている。挨拶を終えた友人たちが続々とクリスのところやってきてくれた。

「クリスローズ様、楽しんでいますか?」

まずやってきたのは神官長であるラファエル・モローだ。後ろには神官のカミーユ・モローを連れている。二人とも神官の正装だ。神官長は一際立派なマントを羽織り、普通の神官ではないことを示している。

「初めての社交なので緊張しています。」

「そうでしょうね。顔をみればわかりますよ。会場には私もカミーユも控えていますから、何かあれば声をかけてください。」

以前、教会で気を付けるように言われたことが頭をよぎり、また少し緊張してしまう。

「はい。」

二人と入れ替わりでやってきたのは黒騎士団長とヒューゴだ。神官長の時と同じように主に黒騎士団長が喋り、ヒューゴは後ろに控えているだけだ。それでもクリスに安心感を与えるように微笑んでくれた。

「我々もご挨拶させていただいてもいいかな。」

黒騎士団長のおすすめの料理について聞いていると、黒騎士団長とよく似ているが真逆の白色である正装を着た同じ年頃の男性が声をかけてきた。クリスも何度か顔を合わせたことがある、白騎士団長である。

「クリスローズ様、長く辺境におられたと聞きましたが、お元気そうで安心いたしました。」

「白騎士団長、お久しぶりです。」

白騎士団長がクリスに挨拶に来てくれるとは思わなかった。大聖女時代はもちろんビジネスライクな付き合いはあったが、それ以外の時にはマルシャローズに侍り、クリスを気遣うことはなかった。
周囲も神官長と二人の騎士団長が大聖女に挨拶をした後にすぐにクリスの下を訪れたことに驚いている。


「ほう、ついにクリスに媚びへつらう気になったか。」

「媚びへつらってなどいない。当然の挨拶だ。」

両騎士団長が仲が悪いのはいつものことである。


騎士団長たちが去った後は聖カリスト学園の同級生たちが来てくれた。

「クリス、とても綺麗なドレスですね。美しいです。」

兄にエスコートされ、参加している家族総出で挨拶に来たのはイザベルだ。イザベルの父と嫡男の上の兄と三番目の兄はそろって背がヒューゴよりも高く、クリスは見上げなければならないほどだった。黒騎士団長ほどの筋肉による大きさはないのだが、しっかり鍛えているというのが騎士を見慣れたクリスにはよくわかった。
ちなみにイザベルの父と兄たちには辺境で会っている。

「イザベルも素敵なドレスね。シュッとしていてかっこいいわ。」

イザベルが着ているのはフォンテーヌ辺境伯の色である濃紺のAラインのドレスだ。きらめくビーズで模様が刺繍されている美しいものだ。

「イザベルにはお茶会で紹介したわね。こちらは私のエスコートを務めてくれている弟のウィリアムです。」

「ウィリアム・ルロワです。お初お目にかかります。」

ウィリアムは父譲りの冴えた美貌を気を抜いた時のクリスそっくりに緩めてみせた。

「イザベル嬢は先日ぶりですね。今日もとても美しいです。」

「あ、ありがとうございます。」

そろってクリスのファンクラブに所属するガーディアンであるフォンテーヌ辺境伯一家がウィリアムにも好感を持つのは当然のことだった。


イザベルとしばらく談笑している間にやってきたのは、婚約者にエスコートされたニコレットだ。今日のドレスも黄色のオフショルダーの華やかなものだ。ニコレットは黄色を好んで着ていることが多いが、婚約者の容姿を見て納得した。
隣国のエスパルの生まれである婚約者は綺麗な琥珀色の瞳をしていたのだ。

にやにやしているクリスとイザベルに照れながらも、ニコレットは婚約者を紹介してくれて、会話を楽しんだ。小さいころのニコレットの話など、とても楽しかった。

「大聖女様なんだけれど、クリスのところに教会の有力者たちが挨拶に行くものだからとても不機嫌になっていらっしゃったわ。今日はもうクリスは近づかない方がいいと思うわ。」

最後にニコレットはこっそりとクリスにそう伝えてくれて、現実に引き戻されてしまったが。


やがて挨拶の列が途切れると、音楽の演奏が始まり、ダンスの時間となった。

「クリス姉上、早速一曲踊ってしまいましょうか。」

「そうしましょう。」

二人とも必死に練習してきたが、ダンスに慣れているわけではない。比較的簡単なワルツが流れている間に踊って成果を見せようというわけだ。


クリスがウィリアムと踊っていると驚きの視線がたくさん集まってきた。そんなに見る?というぐらいに。恐らく中等部に通っただけで、その後は辺境をめぐっておよそ貴族とは程遠い生活をしていたクリスがここまで上品に踊れることに驚いたのだろう。厳しい最終審査を乗り越えた完璧に近いダンスなのだから。

ダンスが終わった後もお誘いの声がひっきりなしにかかるが、慣れていないことを理由に断る。クリスよりも高位な参加者がおらず、お断りしても角が立たないのが幸いだった。


「あら、大使様と奥様がダンスに参加されるわ。」

難しい曲目が流れ始めたところでずっとあいさつ回りをしていたソラとアリシラローズが参加者の少なくないダンスの輪にまざった。
貴族たちのざわめきは挨拶に来てくれた貴族位を持つ黒騎士の参加者と談笑していたクリスのところにも届き、ウィリアムと顔を見合わせた。ソラの出身である東の島国にはダンスの文化はないので、誰も大使夫妻が踊ることを期待していなかったのだ。

ふわりと音楽に乗った二人は華麗なステップを披露し、場を魅了した。アリシラローズは中等部に二年しか通っておらず、こちらで社交界デビューもせずに異国へと旅立ったが、出立前に飛び級で中等部を卒業した才媛だ。皆から憧れの公爵令嬢としてダンスは完璧だった。
それについていけるソラもただ者ではない。

音楽とダンスにつられて歌の精霊や光の精霊など、他にもいろいろな精霊が会場に集まってきて楽しそうに飛び回っていくのがクリスの宝石目には視えた。精霊までも魅了するとは。


やがてダンスの場から一組、また一組と抜けていき、大使夫妻だけがその場に残された。その華麗なステップに皆が釘付けとなり、その場には音楽と彼らの踊る音だけが響く。曲の終わりに華麗なフィニッシュを決める二人にしばしの静寂の後、割れんばかりの拍手が贈られた。


「お姉さま、お義兄さま、すごい!」

同じく魅了されていたクリスも夢中になって拍手をしていた一人だ。

「アリシラは学園時代からピカイチのダンスの腕前だったわ。衰えを知らないわね。」

気付けばクリスのすぐ横で同じように拍手をするコンスタンス王女殿下の姿があった。


「クリスちゃん、ちょうど時間ができたの。よかったらこれから少しお話ししない?王族の控室に案内させるわ。」


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